第66話 演劇大会開幕
ついに、魔法学校初のイベント、演劇大会が始まった。
校門前には、久々に馬車渋滞が出来上がっている。それだけ多くの貴族が来ているということだろう。
観客席も、順調に埋まってきている。貴族用の座席に、平民用の立見席。どちらも大盛況だ。
本当なら、全席座席にしたかった。だけど、貴族と平民で同じ待遇は良くないという意見が多く、分けることになった。
学校内にいると忘れがちだけど、貴族と平民は明確に区別されている。身分差か……やるせないな。
開演まで時間があるため、お兄様と共に観客席にいるお母様のもとに挨拶に向かう。
「お母様、今日は忙しい中、来ていただきありがとうございます」
「娘の晴れ舞台ですもの。どんなに忙しくても来るにきまってるわ!ハインリヒも魔法演出頑張ってね!」
周囲を見回すと、多くの生徒が親族に挨拶している。こういう場面を見ると、イベントを企画してよかったと思える。
また、学校での友達を親御さんに紹介している姿も見られる。家格が大きく違ったり、武門と文門だったり様々だ。
紹介される親御さんの表情も様々だ。委縮したり、怪訝な顔をしたり……。
でも、最終的にはみんな笑顔だった。子が嬉しそうに紹介してくるのだ。親も受け入れるしかないだろう。
学校内での身分差撤廃。それが、確実に広がっている手ごたえを感じていた。
いつの間にか、観客席は埋まっていた。満員だ。立ち見の平民に至っては、溢れているほどだ。
ステージ上では、有志の方々による魔法学校の成果の発表が行われている。そのため、観客席からは歓声があがっている。
新系統の魔法、風魔法や雷魔法は未履修なので、発表は無い。だけど、既存の魔法の新たな活用法などは、注目を集めていた。
最後に、ステージや観客席は、たった数日で魔法によって作られたことが伝えられた。多くの観客が驚きの目で客席を観察している。
有志の方々がステージを降り、舞台は急に静けさに包まれた。さあ、開演だ!
司会進行役である私たち、生徒会メンバーがステージに上がる。代表してフリードリヒが、喋り始める。
「皆、今日は集まってくれてありがとう。生徒会会長フリードリヒがここに、演劇大会開幕を宣言する!」
観客から歓声があがる。娯楽の少ない世界だ。みんな楽しみにしてくれていたんだろう。
その後、順位の決め方や個人コンテスト、劇の披露の順番が説明される。
順位は全ての劇が終わった後、貴族の投票によって決まる。同時に、優秀男優、優秀女優も選出する。
劇の順番は、事前にくじ引きで決まっている。三組、二組、一組の順番だ。
説明を終え、ステージには幕が下ろされた。そして、三組の生徒が準備を始める。
レオンとローズも、クラスメートと合流したようだ。さて、どんな劇になるのか……。
三組の方が準備完了を伝えに来る。次の進行役である私が、演目名を読み上げる。
「三組の披露する劇、”童話劇~笑いを添えて~”開演です!」
それと同時に幕が上がる。あれ?サブタイトル付いてたっけ?まあ、いっか……。
ステージの上を、マントを羽織った旅人が歩いている。
進路上では、太陽役の生徒と、北風役のレオンが待ち構えている。
北風レオンが、風魔法でマントを飛ばそうとしている。ここまでは「北風と太陽」通り。
耐えようと頑張る旅人。負けじと出力を上げる北風!観客席まで風が打ち付けられている。
マントが吹き飛ばされた!いやいや、原作完全に無視かよ……。
それを見ていた太陽が……土下座!私にもチャンスをって言い始めた……。
勝ち誇りながら北風が、太陽にもチャンスを与える。なんだこれ?
なんとかマントを見つけた旅人が、再び歩き始める。
それを見て太陽が、火魔法で火球を作り出す。観客席まで熱気が伝わっているようだ。
その熱を浴びている旅人が、マントをぬ……がない!脱げよ……あら、私ったらはしたない。
業を煮やした太陽は、上空に火球を打ち上げ、爆破する……。よかった、屋外にステージ作って。
観客席まで熱波と衝撃が伝わる。旅人は驚き、尻もちをついていた。
倒れた衝撃で、マントが肩からずり落ちている。力技で解決しやがった……。
両者ともマントを剥ぎ取ったため、北風と太陽は引き分け。再戦を誓い合った……。
この童話、子供になにを伝えられるんだろう?力こそパワーってこと……?
その後も、魔改造されたいくつかの童話劇を、魔法とコメディーテイストで演じきった。
観客にも、宗教劇のように肩肘張らずに観ることができると、好評のようだった。
幕が下りたステージに、二組の生徒が集まって、準備を始めた。
レオンとローズと入れ替わるように、お兄様とテレーザがステージに向かう。
しばらくして、二組の生徒が準備完了を伝えに来た。次の進行役はローズ。
「次は二組の劇、”ベルサイユの百合”。開演や!」
幕が上がり、複数の女性の姿が現れる。その中には、男装したテレーザの姿もある。
背の高いテレーザの男装は、実に見栄えが良い。が、若干猫背気味だけど……。
キャストが全員女性で繰り広げられる、宮廷シーンや日常のワンシーン。
女性役は全員貴族なだけあって、綺麗な動きだけど……男性役がぎこちなく感じる。
たった数か月の練習で、男性の礼儀作法を完全に会得するのは難しかったようだ。
だけどそれが、逆に親しみやすさを感じさせた。お兄様の狙い通りか?
歌や踊りを随所に取り入れ、華々しいシーンが続いていた。
だけど、民衆の暴動が起こり、一気にシリアスなシーンに切り替わる。
魔法が飛び交う監獄周辺での交戦シーンは、本物の戦場のような迫力だった。
剣を片手に指揮を執るテレーザ。突如、一本の雷光がテレーザを打ち抜き、テレーザが膝から崩れ落ちる。
それと同時に監獄陥落の報せが届き、劇はフィナーレを迎えた……。
当然テレーザは、絶縁素材(テレーザ開発)の装備を着込んでいるので無事だ。
そして見事なのは、コントロールの難しい雷魔法を、テレーザにだけ確実に当てるお兄様の腕前だ。
幕が下りゆくステージに、キャストが勢ぞろいし頭を下げ、幕が下り切った。
観客席からは、万雷の拍手が起こっていた。我が領でも興行をって声まで聞こえてくる。
さすが、前世の世界で磨き上げられた演劇文化は、この世界では圧倒的だね……。
さて、最後は私たち一組の番だ。戻ってきたお兄様とテレーザと交代で、ステージに向かう。
ステージ内では、開演の準備が進められている。
私たち出演組は、舞台衣装に着替えを済ませ、舞台袖に集合していた。
「皆、ここまでよく頑張ってくれた!演じる私たちだけでなく、演出班も工作班も最高の仕上がりだ!」
『おぉぅ!』
フリードリヒが、クラス全員に聞こえるように声を張る。準備をしている人たちにも、ちゃんと聞こえているようだ。
「他のクラスに勝つことも重要だが、せっかくの機会だ。皆で楽しく劇を演じ切ろう!」
『おぉぉぅ!』
みんなのやる気も最高潮だ!私も負けていられない。最高の演技を披露しなくては!
「マリア、準備はいいか?」
「はい。フリードリヒ、フリーズしないでくださいね?」
「君こそ、私に見惚れては駄目だぞ?」
フリードリヒと軽口を叩きあう。程よい緊張感と高揚感。心の準備は万端だ。
ステージの準備も整った!それを伝えに、クラスメートが走っていった。
さあ、私たちの劇の開演だ!




