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第65話 優しいキスをして

 あの誘拐事件から数日後、警備体制が整った。そのおかげで、放課後の活動が再開された。

 演劇大会の準備も、そろそろ大詰めの段階まで来た。残すは舞台の設営だ。

 演劇大会開催の数日前から、午後の魔法実技の時間を使い、準備を進めている。

 主に土魔法を使い、ステージや観客席の土台を作る。そして身体強化を使い、大工仕事を行う。

 今までに習ってきた魔法を活用する。一部の上位貴族は、嫌な顔をしたけどね。大工仕事の部分で……。

 でも将来、きっと役立つ知識と経験だと思う。貴族は従軍する義務があるのだから……。

 野営地の設営や、防御陣地の構築。これらを貴族も行えば、短時間で済ませることが出来るはず。

 役に立つ必要がないのが一番だけど……シバ連合王国は敵意を見せてきた。私の誘拐という方法で。

 だから、戦争に備えなければいけない。シバ連合王国が諦めるほどに、しっかりと……。


 放課後の演技練習も、ほぼ完了している。通し練習でも、ほとんど問題はなかった。

 それにしては何故、ほぼとかほとんどが付くのかって?フリードリヒに問題があるからだ……。

 発覚したのは少し前。各シーンの練習も、終わりが近付いていた頃だった。


「ジュリエット!私の愛しい人!」


 フリードリヒが横たわる私、ジュリエットにキスをしようと顔を近づける……。

 が、フリードリヒが途中で固まってしまう。それは見事なフリーズだ……。


「会長!フリでいいんですよ!マリアさんの顔を手で隠して」


 その声がむなしく響く……。フリードリヒは固まったままだ……。


「フリードリヒ、とりあえず次のシーンにいきましょう」

「すまない……。そうしてくれ」


 その後、最後のシーンまで練習を終えた。

 再度、問題のシーンを繰り返すが、毎回フリードリヒがフリーズしてしまった。

 問題が解決しないまま、練習時間が終わってしまった……。

 フリードリヒは終始無言のまま、皇城に到着した。


 その後も改善が見られないまま、総仕上げの通し練習まできてしまった。

 なので今日、皇城に帰った私は、フリードリヒの部屋までついていった。


「フリードリヒ、大丈夫?」

「私には……無理かもしれない……」

「フリでもいいんだよ?それでも無理なの?」

「問題はそこじゃないんだ……」


 キスが問題ではない?私的には、結構な問題なんだけどね。顔が近付いてくるたび、心臓がヤバいです。


「キスが問題じゃないんだったら……なにが駄目なの?」

「演技だとしても……マリアの、なっちゃんの、死んでいる姿を受け止めきれないんだ!」


 私たちは、前世での死を記憶している。厳密にいえば、死ではないのかもしれないけど。

 だから、死に別れてしまうことを恐れてしまうのだろう。優しいマコト君、フリードリヒなら尚更に……。

 牢屋に助けに来てくれたフリードリヒは、ひどく取り乱していた。涙を流し、身体が震えるほどに。

 たぶんその時も、私と離れてしまうことが恐かったのだろう……。

 前世では、私を残して死んでしまった事。今世こそはと考えていたのに、私が消えてしまったから。


「大丈夫。今度こそ私たちは、離れ離れにならないよ」


 優しくフリードリヒの頭を撫でる。少しでも、フリードリヒが安心するようにと。


「この間だって、誘拐されたじゃないか!きっと、シバはまだ諦めてない……」

「でも、助けに来てくれたでしょ?もし、また私が囚われても、助けに来てくれるでしょ?王子様?」

「当然だよ!だけど……そんな不吉なこと言わないでよ!」

「だったら、おまじないしよっか」


 私はそう言って、フリードリヒの唇に、私の唇を重ねる……。

 とても優しく、飾り気のないキスだった。ただフリードリヒのことを想ってのキスだ。


「もし一時、はぐれてしまっても、再会できるようにって気持ちを込めました」

「うん。君の気持ちを感じたよ。ありがとう、私の愛しい人……」


 見つめ合う私たち。今度は、フリードリヒから唇を重ねてくる。

 熱い気持ちがこもったキスだった。私を護りたいって想いがつまっているようなキスだ。


「私の気持ちを込めてみた。伝わっただろうか?」

「はい。ちゃんと伝わりました。もう大丈夫なようですね」

「ああ。ありがとう」(今世でも出会ってくれて……)

「それでは、私は帰らせていただきます。おやすみなさい」


 そう言って、フリードリヒの部屋から出る。外で待機していたマクシミリアン様が、声をかけてくる。


「その顔を見る限り、殿下は大丈夫なようですね」

「はい。大丈夫だと思います。それで……私、どんな顔してます?」

「一言で言うと……愛ですね。殿下も羨ましいお方だ。マリア嬢に、このようなお顔をしていただけるなんて……」

「えっ!?ひゃぁ!マクシミリアン様……失礼いたします!」


 足早に逃げ去りつつ、自分の頬に手を当てる。うん、熱い。真っ赤に染まっているだろう。

 私は……いつからこんな顔をしていたのだろう……。フリードリヒにも、見られたよね……。

 なんとか人目を避けながら、自室に到着する。


「お嬢様ぁ、なにやら色々あったようですねぇ。お話いただけますよね?」


 ニヤニヤと不気味に笑う侍女。すでに、何事か察知しているように感じる。

 仕方なく、フリードリヒとのやり取りを白状する。


「お嬢様ったら大胆!そんな色っぽい顔で唇を奪うなんて……お嬢様、襲われちゃいますよ?」

「私そんなにひどい顔してるの?」

「それはそれは、ひどい顔をしておりますよ。その顔で迫られたら、堕ちない男はいない程度には……」

「なにその魔性の魅力!いくらなんでも言い過ぎでしょ?」

「そんなことありませんよ。現に私も、襲い掛かりたい衝動と闘っております……ハァハァ」

「貴女は女性でしょ!」


 とてもロマンティックな(今世での)ファーストキスを終え、今になっても胸の高鳴りが抑えられなかった。

 寝苦しい夜だったのは間違いないけど、フリードリヒの気持ちを理解できた事が……嬉しかった。


 その後、演劇大会前の最後の通し練習が行われ、無事フリードリヒと私は演じ切ることができた。

 以前よりもフリードリヒの演技に深みが増し、みんなからは大好評だった。

 これで全ての準備が整った。演技も、舞台演出も、使用する道具類も。みんなとの一体感も感じる。

 後は、演劇大会当日を迎えるだけだ……。

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