第62話 誘拐
演劇大会が近付きつつある、今日この頃。
私たち生徒会は、出演組(私、フリードリヒ、テレーザ)と裏方組(お兄様、ローズ、レオン)に分かれて活動している。
出演組は基本的にクラスでの練習を優先し、裏方組は従来の生徒会業務を行っている。
特に私は、台本を書いてしまったため、主演兼監督のようなポジションになってしまっている……。
「マリア、このシーンでのロミオはどう演技すべきだ?」
「そうですね、もう少し身体を大きく使ってください。ティボルトへの怒りを身体でも表現してください」
「ここでのマキューシオは、どのような気持ちで演じればいいですか?」
「ロミオの友達でいたい気持ちと、家を裏切ったロミオを許せない気持ち。その狭間での葛藤ですね」
「すごく難しいですね……。悩みながらもロミオを守りたいって気持ちで演じてみます」
原作よりも愛情や友情の設定を濃くしてあるため、各シーンごとにみんなが私に指導を求める。
私もそれに応えようと、指導に熱がこもってしまう。やるならば全力でやりきるのみ!
時間も忘れて練習をしていた私たちは、空が闇に包まれていくことに気付かなかった……。
――――――
「あっ!フリードリヒ、そろそろ帰らないとまずいですね」
「いつの間にか、こんな時間か……。皆、今日の練習はそろそろ終わりにしよう!」
その声に、練習で残っていた生徒たちが帰宅を始める。
私たちも急いで帰り支度を整え、学校を出る。街はすでに真っ暗だった。
電気がまだ無い世界だ。当然、街灯のようなものはない。遠くに、巡回の警備兵が持つ松明の明かりが見える程度だ。
「これは、マクシミリアンに怒られるな……。マリアも、アマラが心配している頃だろう」
「気合を入れて練習しすぎましたね……。急いで帰りましょう!」
そう言って急ぐ私たちの前に、何人かの人間が立ちふさがる。
暗くて顔まで判別できないが、友好的な態度でないのは明白だった。
「なにか用か?私たちは急いでいるんだが」
フリードリヒが問いかけるが、返事は返ってこなかった。
代わりに、背後からも人が集まってくるのを感じる。周囲を囲まれたようだ。
「マリア、フリーデ姉様が雇ったごろつきだろう。仕掛けてきたら、殺さないように対処しよう」
「了解です。探ってみましたが、人数は二十人ほどのようです」
聖女様の魔力の放出を参考に、簡易の探知魔法を開発してあった。
魔力を周囲に放出し、反響を拾う。あくまで簡易なので性能は良くはないけど……。
「行け。殺すなよ」
周囲を囲んでいるうちの一人が声をあげる。それと同時に、全員が襲い掛かってくる。
私たちは身体強化の強度を高め、迎え撃つ姿勢をとる。素手でだ。
フリードリヒは剣を、私はナイフを護身用に持ってはいるが、使うつもりはない。
フリードリヒに飛び掛かってきた男が、何人もの敵を巻き添えにして吹き飛ぶ。
私も負けじと、掌打を敵の胸部に叩きつけ吹き飛ばす。フリードリヒと同じように人間ボーリングだ。
「マリア!打って出る。そちらは任せた」
吹き飛んだ仲間を見て躊躇し始めた敵を、どんどん無力化していく。簡単に言えば殴り倒しているだけだが……。
国内最高峰の魔力を持つ私たちは、危なげなく全員を無力化した。
「マリア、こいつらが逃げないように見張っていてくれ。警備兵を探してくる」
フリードリヒが走り去る。残された私は、倒れている敵をひと固まりにまとめて見張りをすることにした。
なんというか、あっけなかったな。第二皇女様は、私たちの魔力を甘く見ているのだろうか?
そんなことを考えていた私に、ふいに声がかかる。
「マリア様ですね。こちらの賊の対応はお任せください。つきましては、事情をお聞きしたいので、ご同行をお願いします」
暗闇から現れた女性に導かれる。暗くて良く見えないが、警備兵の装備をしている様に見える。
あれ?なんでフリードリヒは一緒じゃないんだろう……?敵の数が多かったから、先に一人だけ来させた?
まあ、いっか。さっさと事情聴取を終わらせて、部屋に帰らないと!アマラが心配してるはずだから……。
一緒に歩いていた警備兵?の女性が、視界から消えた。その瞬間、背後から口と鼻を押さえつけられた。
「へっ?モガモガ……」
なにかしらの薬物だったのだろう。私の意識は徐々に薄れていった……。
「ホント、この国の貴族はチョロいねぇ……。こんな状況で、見ず知らずの人間についてくなんてね」
意識が途絶える直前、耳元で女性が呟いていた。
この国……?なんの事……?第二皇女様の仕業ではないってこと?
そして私は、完全に意識を失った……。
――――――
私が目を覚ましたのは、牢屋のような場所だった。
周囲三面には壁。小さい窓から月明かりが差し込んでいる。そして、残り一面は鉄格子。
牢屋のようではなく、牢屋だな……。さて、困った。状況が分からない……。
とりあえず声をあげてみる。
「誰かいませんか?」
すると鉄格子の先から、返事が返ってくる。
「マリアお嬢様、目が覚めたかい?寝心地はどうだった?」
先ほどの女性の声が聞こえ、こちらに向けて歩いてくる足音が聞こえる。
「寝心地は……最悪ですね。地べたで寝たのは久しぶりです」
「そうかい。それにしても落ち着いてるねぇ。もっと騒ぐかと思ったよ」
「いえ。状況が把握できていないので、いまいちピンとこないといいますか……」
「鈍感なのか、図太いのかよくわからないねぇ。とりあえず、最低限のおもてなしはさせてもらうよ」
そう言って鉄格子の隙間から、パンが渡される。
最低限の明かりしかないが、女性の風貌を観察する。とりあえず、知らない顔だ。
着ているものも警備兵の恰好から、商人風の装いに変わっている。
「そのパンを食い終わったら寝ときな。昼になったら旅行の開始だよ。シバ国へご招待さ」
「ええと、私は誘拐されたんですね……」
「そういうこと。ずっとチャンスを待っていたんだよ。あんた引きこもりすぎ……」
「学校と皇城への往復がほとんどですからね」
女性は去っていき、私一人が残された。さて、どうしよう……。




