第59話 聖女との交渉
私たちは、大聖堂に向かっている。聖女様と話し合うために。
私まで呼び出された意味がわからぬままに、当日を迎えてしまった。
馬車が大聖堂に到着し、待ち構えていた大司教猊下たちに案内される。この教区のトップの出迎えに驚かされる。
変わらず神聖さを感じさせる魔力測定を行った広間を抜け、階段で最上階を目指す。
窓から見える景色は壮大だった。広さでは皇城に劣るが、高さでは大聖堂が勝っている。
帝都全体が一望でき、皇城すら眼下に見下ろす。少し不敬だったかな……。
そんなことを考えているうちに、目的の場所に到着した。
「ここが聖女様のお部屋になります。ここより先は、お三方のみでお進みください」
そういって、大司教猊下が入室を促す。だけど、私たちは入室するのを躊躇してしまう……。
聖女様の部屋の中から、とんでもない重圧を感じるからだ……。これは、魔力?
「マリア、ハインリヒ。聖女様は恐ろしい方のようだな……。気合をいれて行くぞ!」
フリードリヒの鼓舞で、私たちは入室する。奥には、ソファーにちょこんと座る女性がいた。
とても小柄で、透明感のある銀髪。赤に近い目をしている。アルビノなのだろうか……?
「よく来てくれた。妾が聖女じゃ」
とても短い言葉なのに、気圧されそうになる。言葉だけではない。
あの小さな身体からとは思えないほどの、強烈な魔力が放たれている……。
「ふむ。本当のようじゃな……。試して悪かった」
その言葉とともに、強烈な圧力が無くなった。試す……?なにを?
「いえ、とりあえず自己紹介をさせていただきます」
フリードリヒがそう言うと、自己紹介を始める。それに続き、私とお兄様も自己紹介をする。
とりあえず、交渉はフリードリヒが行うことになっているため、私とお兄様は口をつぐむ。
「それで……試すとは一体?」
「お主らが、本当に知識を持っているのかを試したのじゃ」
「先ほどの魔力の解放で、ですか……?」
「そうじゃ。魔力が多く、それを正しく使えなければ……気を失っていたのう」
試すとは、そういうことだったのか……。なんとか、お眼鏡にかなったらしい。
とはいえ、フリードリヒは少し機嫌が悪いようだ。不意打ちをくらったようなものだからね……。
「そうですか。それでは、私たちは認められたということでよろしいですか?」
「席に着くことは許そう。さあ皆、座るがよい」
促されるままにソファーに腰を下ろす。対面する形になり、聖女様がこちらを観察している。
「先ほどは、聖女様の名前を聞きそびれてしまいました。なんとお呼びすればよいでしょうか?」
「ん?妾は聖女と名乗ったが?」
「いえ……お名前をお聞きしております。役職ではなく……」
「そうじゃった。あまり知られていない事だったのう。妾に名前は無いのじゃ。だから、聖女が名前のようなものじゃ」
名前が無い?聖女になるために捨てたってこと?それとも最初から無いの?
「納得はいきませんが、そのまま進めさせていただきます。提案した件は、受けていただけますか?」
「情報の秘匿の見返りに、お主の立太子に協力しろだったか?」
「そうです。私たちは認められたのですよね?」
「妾が認めたのは、席に着くことだけじゃ。そんなに結論を急ぐでない」
聖女様は、外見が幼く見える。だけど、話しぶりや態度は、遥かに年上に感じる。
まるで、何百年も生きてきたような……。
「それでは、こちらの情報を開示していけばよいですか?」
「いや、妾から質問をする。お主としても、一方的に情報を晒すのは避けたいじゃろう?」
「お心遣い感謝します」
やっぱり、老成している。尊大に見せながらも、しっかりと配慮が行き届いている。
「では、魔力について説明をしてみろ」
「はい。ナノマシンを利用したエネルギーです。生理学は門外漢のため、詳しい説明が必要であれば、ハインリヒに聞いていただきたい」
「よいよい。ナノマシンの存在を知っていて、それを活用できていることが重要じゃ」
やっぱり、聖女様は知っていたようだ。この言い方だと、ナノマシンの増殖も知っているだろう。
「では、この世界の成り立ちは?」
「旧文明が崩壊し、そこから復興してきました」
「旧文明とは?なぜ崩壊したんじゃ?」
「科学が発達した文明です。最終戦争が起こり、崩壊しました……」
「では……この星の名前は?」
「地球です」
「それも知っておったか……」
ティエラ教には……どれほどの資料が残されているのだろう?もしかしたら、私たちの知識を上回っている可能性がある。
「では、最後じゃ。妾の目的はなんじゃ?」
「確証はありませんが、世界の崩壊の回避又は遅延だと思っています」
「ふむ。合格じゃ」
私の推測は合っていたらしい。よかった。これなら、協力関係を結べるだろう……。
「それでは、協力していただけますか?」
「駄目じゃ」
「はっ?何故ですか?こちらは情報を漏らしません!」
「問題はそこではない。お主がやろうとしていることが問題なんじゃ」
フリードリヒのやろうとしていること?夢のこと?民を豊かにすることが問題……?
あっ……違う。夢に至る手段が問題なんだ。文明を育てすぎるのが……。
技術が早く開発され、教育が行き届くことが、文明の崩壊を早めることにつながるのか……。
「マリアは気付いたようじゃな。そう……お主らの行動が、終焉を早める可能性が高いのじゃ」
「ですが、それは民のためであって……。今を生きている多くの者たちを豊かにしたいのです!」
「そうじゃろうな。その気持ちを否定する気はない。なにも間違っていないからな」
「でしたら何故、そこまで頑ななのですか?」
私たちの知らない何かを知っている?あるいは……文明崩壊を体験した?
でも、時間跳躍の技術は、お兄様のみの方法だ。地下深くで研究させられていた以上、漏洩の可能性は低い。
まさかとは思うが……ずっと生きてきた?不老不死だとでも言うの?
でも、時間跳躍が可能なら……不老不死の技術も可能なのかな?絶対に無いとは言い切れない。
「それを知るためには、妾のこれまでの人生を話す必要があるのじゃ」




