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第58話 演劇大会の準備

「マリア、少し時間を貰えるか?」


 生徒会室で忙しなく働いていた私を、フリードリヒが呼び止める。傍らには、お兄様もいる。

 さっきティエラ教からの使者が来ていたけど……何か問題でも起こったのだろうか?


「ティエラ教との交渉で、なにか不都合がありましたか?」

「不都合というほどでもないが、予想していなかったのは間違いないな」


 会談を今週末に控えている今、予想外の出来事なら……不都合と言ってもいいのでは?


「教会との会談に、君も同席してくれないか?」

「別に構いませんけど……急に何故ですか?」

「聖女様からの指示だ。先ほどの使者が、私、ハインリヒ、君の三人で来るようにと……」


 確かに、困りはしないけど予想外だ。私は、ティエラ教との交渉に関わってはいない。

 なのに、何故私の名前が?


「その意図は聞いたのですか?」

「いや、伝えることだけ伝えて、さっさと帰ってしまった」

「ちなみに、場所は大聖堂の聖女様の私室、時間は今度の休み一日目の正午から、だそうです」

「会談を私室で行うのですか……?」

「そうらしい。教会側は聖女様一人だけのようだ。一体なにを考えているんだ」


 会談が軽く見られてる?そんなことはない。聖女様が出てくるのだから……。

 なら何故、四人だけで密談のような形をとるのか?教会内にも秘密にしたいってこと?


「とりあえず、行ってみないとわからないですね。聖女様本人に聞くしかないと思います」

「そうだな。悪いが一緒に来てもらう。なにがあるかわからないから、ハインリヒは警戒を怠らないでくれ」

「わかりました。お二人の身は、必ずやお守りいたします」


 その後は、通常の生徒会業務に戻った。各クラス、演劇大会の演目が決まったため、調整を進めている。

 劇の内容的に、講堂での開催は難しいと判断し、訓練場にステージと仮設の観客席を作る必要があるからだ。

 どのクラスもやる気に満ち溢れているのを感じる。というより、やる気がありすぎて……困っている。

 魔法での演出が、かなり大規模になりそうなのだ……。屋内で行ったら、危険すぎるほどに……。


「レオン、三組は本当にこれをやるの……?」

「ああ。火魔法で太陽を作るし、風魔法で北風を再現するぜ!」


 レオンたちのクラスは、前世の「北風と太陽」に似た演目を中心に、童話の劇を行うようだ。魔法を存分に使って。

 風魔法ならまだましだが……火魔法の太陽って……。一歩間違えば、観客席が火の海に……。


「男ばっかのクラスや。やれる演目が少なくてな……。しゃあないから、こうなってしもうたんや」

「確かに男性ばかりのクラスは……。ちなみに、お兄様たち二組も思い切りましたね」


 二組は女性の比率が高い。そこで、某女性歌劇団のように女性が男役をやるようだ。

 しかも、演目は……某宮殿の薔薇的なものだ。完全にお兄様の入れ知恵だろう……。


「ああ。テレーザが長身で男役もこなせそうだったからな。テレーザは嫌がっているが……」

「やりたくない!私、無理!演出側がいい……」

「諦めてくれ。クラス投票の結果だ」


 テレーザ、頑張れ!って言っても、私も他人事ではないのだけど……。

 私は、前世で大好きだった「ロミオとジュリエット」をもとにした台本を書き上げた。いや、書いてしまった……。

 いつの間にか、ロミジュリに演目が決定しており、配役も勝手に割り振られていた。

 当然のように、ロミオがフリードリヒ。ジュリエットが私。前世の知識をもとに、書いた私がいけなかった。

 宗教劇や大昔の戦争劇しかない中に、恋愛劇を持ち込んでしまった。そりゃあ、みんな気に入るわ……。


「マリアも主役だって聞いた。頑張れ。お互いご愁傷様」

「そうね……。決まってしまったからには、やるしかないわね」

「マリア、本当にキスシーンもやるのか……?私は……とても嬉しいが」


 当然、悲劇的な最終シーンは気合を入れて書きました!まさか、自分が演じることになると思わず……。

 時間の都合で、ダイジェスト版になってはいるけど、キスシーンは健在です……。


「やるしかないですね……。わ、私も、フリードリヒとなら大丈夫です!」

「そ、そうか。そういってくれると……ありがたい」


 なんとも言えない雰囲気が、生徒会室を包む。赤面して見つめ合う、一組の男女。

 その様子を見させられる、他の人々……。


「そういうのは他所でやってくれや。ここは生徒会室やで?」


 ローズが、咳払いしながら注意する。他の面々も、目をそらしたり、俯いたりしている。


「あ、ああ。すまない。次からは場所を移そう」

「フリードリヒ……たぶん、そういうことではないと思います……」


 そんな感じで、演劇大会の準備は着々?と進んでいる。だけど、開催までは三か月を切っている。

 これからは、クラスの劇の練習に、生徒会側の準備も重なってくる。とても忙しいだろう。

 春の社交シーズンが終わって、一段落だと思っていたのにな……。


――――――


「お嬢様ぁ、演劇大会では主役なんですよね!絶対、ご当主様と一緒に見に行きますね!」

「ええ。出来れば見られたくはないのだけど、しょうがないわね……」


 演劇大会は、校外から観客が集まる。その観客に投票してもらい、勝敗を決める予定だ。

 大勢の前で、フリードリヒとキスシーンか……。覚悟は決めたつもりだけど、揺らぐな……。


「劇の練習はしないのですかぁ?不肖アマラ、お相手を務めさせていただきたいです!ハァハァ」

「なんか、下心満載すぎて……相手役を頼みたくないのだけど……」

「そ、そんなぁ!」


 とりあえず今は、セリフを覚えることに集中しよう。侍女に頼るのは……最後の手段にしよう!

 なんか恐いし。息荒いし。きっと、キスシーンがあることも知っているのだろう……。

 だったら、この身体でのファーストキスもフリードリヒがいいし……。


「困ったら……お願いするわ。まだ、学校でも演技練習は始めてないからね」

「そうですかぁ……。お嬢様が困るのをお待ちしています」

「そんな縁起でもないことを待たないでよ……」


 とりあえず、演劇大会までは時間がある。なんとかなるだろう。

 問題は、今週末の聖女様との会談だ。どのような思惑があるのだろうか……?

 どのような思惑があるにしても、やることは一つだ。フリードリヒの味方になってもらう、それだけだ……。

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