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第53話 第一皇女の思惑

 私は今、皇城内を彷徨っている。決して、迷っているわけでは無い。

 広すぎて……目的地までたどり着けていないだけだ。

 フリードリヒから聞いた、第二皇女様の出現ポイント情報をもとに、探索をしている。

 皇城での生活は一年を超えているけど、まだ行ったことがない場所が多い。

 現在の目的地、植物園もそのひとつだ。地図を描いてもらうべきだった……。

 そろそろ自力で見つけるのを諦め、使用人に聞こうか迷っていた私に、声がかけられる。


「マリア?貴女がこのような所にいるなんて珍しいわね」


 声の方向に振り向くと、見事な金髪ストレートロングの女性が立っていた。

 エルヴィーラ第一皇女様だ。惜しい……もう一人の方を探しているんだよ……。


「エルヴィーラ殿下、デビュタントボールでは貴重なお時間をいただき、ありがとうございました」

「それで、なんでこんな場所にいるのかしら?」


 うん。やっぱり冷たい対応だ。だったら、声をかけてこなければいいのに……。

 とはいえ、知り合いに出会えてのはラッキーだ。道を尋ねてみよう。


「植物園に向かっていたのですが……場所が分からず、彷徨っておりました」

「貴女は……しっかりしているようで、しっかりしていないのね。植物園は真逆よ」

「皇族エリアではなく、文官エリアの方でしたか……。見つかるはずありませんね」


 ため息をついた第一皇女様が、まさかの申し出をする。


「私が案内するわ。ついてきなさい」

「えっ?殿下自らですか?そんな、恐れ多い……」

「いいのよ。貴女とは話してみたいことがあったから。それとも、私の案内では不服かしら……?」


 有無を言わさぬ迫力に、黙って頷いてしまう。

 歩き始めた私に、第一皇女様が質問を投げかけてくる。


「魔法学校は順調?噂では、新魔法も教えていると聞いたけど」

「順調だと思っています。新魔法や新理論は、皇城にも情報を共有していますので、殿下でも覚えられると思いますよ」

「そう。今度、聞いてみるわね。弟はちゃんとやれてる?いつも仕事を抱えている子だけど」

「フリードリヒは上手くみんなをまとめて、頑張ってますよ。いえ、頑張りすぎてますね……」


 相変わらず口調は冷たいが、デビュタントボールの時よりもフランクだと感じる。

 聞いてくる内容も、フリードリヒを探っているというより、案じているような感じだ。


「弟らしいわね。それで、貴女は植物園になんの用事があるの?」


 これは……素直に第二皇女様を探していたというべきか?警戒されないか?

 でも、隠してもきっとばれるだろう。だったら、本当のことを言うべきだ。


「エルフリーデ殿下を探していました。お話し合いがしたくて……」

「やはり、そういうことだったのね。安心しなさい。妨害なんてしないわ」


 少し意外だった。言ってしまったら、なにかしらの対抗策を打ってくると思っていたから。


「自由にさせてしまって大丈夫なのですか?殿下にとって不利になるのでは?」

「確かにそうね。でも、勢力が並ぶだけ。言ってしまえば、振り出しに戻るだけよ」

「あえて横並びにしたいのですか?理由をうかがっても?」

「質問に質問を重ねて悪いけど、貴女は次期皇帝は誰がふさわしいと思う?忖度は不要よ」


 これは……なんの嫌がらせ?対立候補の関係者の私にそれを聞く?

 気を遣う必要がないと言ってはいるけど、ものすごく気を遣うわよ!


「殿下の前で失礼だとは思いますが……フリードリヒです」

「私も能力だけで考えたら、弟が皇帝になるべきだと思うわ」

「ええと、殿下の本心ですか?さすがに、それを言うのはまずいのでは?」

「良くはないでしょうね。でも、皆はきっと内心では思っていることよ。でも、皇帝候補筆頭なのは私。それは何故?」


 とても簡単だ。第一皇女だからだ。現皇帝エリーザベト陛下のような例外的存在がいない限りは。


「それは、殿下が第一の皇女であるからだと」

「そうよ。私の価値は生まれが一番早かった女ということだけ。政務能力も魔力も弟に劣るのに……」

「ですが、多くの貴族には、それが一番重要なのではないですか?」

「そう、それが伝統の重み。だから、振り出しに戻したいの。弟や妹と私を比べる時間を作りたい」


 この人はこの人なりの考えを持っているんだ。私は、この人の見積もりが甘かったようだ……。

 冷静に物事を判断できているし、公正であろうとしている。しっかり皇帝の器をもっている人だ。

 これは、一筋縄ではいかない相手だな……。


「もしかして、保守派の方々からの嫌がらせがないのも、殿下の指示ですか?」

「今までは……そうよ。けれども、今後は好きにやらせてもらうわ」

「全員がスタートラインに着くのを待っていてくださったんですね……」


 うん。私の中で第一皇女様の株が爆上がりだ。さすが、エリーザベト陛下の娘さんなだけある。


「さて、そろそろ目的地に着くわ。貴女もいいかげん、城内のことを覚えなさい……」

「わざわざ案内していただきありがとうございました。とても有意義な時間でした」

「私もよ。しっかりあなた達の価値を示してみなさい。相手になるわ」


 そう言って、第一皇女様は去っていった。

 私の目の前には、様々な植物の姿が広がっている。しっかり手が入れられ、整然と美しさを競い合っているようだった。

 ただただ美しい。皇城や学校の人工的な美しさとは違う、自然の生命力の美しさとでもいうべきか。

 一年もの間、この素晴らしい空間を知らなかったのは、人生の損失だったと思ってしまう。

 それほどに、私はこの場所が気に入った。第二皇女様が足しげく通うのも納得だ……。

 って、第二皇女様を探すのが目的だった……。本来の目的を思い出し、周囲を見渡す。

 すぐに、東屋でくつろぐ金色のウェーブの髪の女性を見つける。

 なにをするでもなく、ただ草木を眺めているエルフリーデ様の姿は、絵画のように美しく見えた。

 その中に足を踏み入れてしまうのを申し訳なく思いながらも、第二皇女様のもとに歩み寄る。


「あら?どこからか妖精さんが迷い込んだのかしら?」

「ええと、妖精ではなくマリアです。デビュタントボールではお時間を頂きありがとうございました」

「うふふ、マリアは妖精のように美しいわね。それに先日も言いましたが、堅苦しい話し方は不要よ」


 第一皇女様と話した後だったこともあり、対極的な言動に困惑してしまう。


「では、エルフリーデ様。話したいことがあるのですが……時間を頂けますか?」

「もちろんよろしくてよ。マリアからお話に誘ってもらえるなんて嬉しいわ」


 なんというか、ふわふわしすぎていてやりづらい……。大事な話をしようとしているのに。

 皇族らしくない。そう思ってしまうのは不敬だろうか……。

 やんごとなきオーラや高貴な風貌は、まさに皇族と言うべきなのだけど。


 そんな第二皇女様の印象は、話していくうちに覆されるのだった……。

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