第54話 女性の本性
「単刀直入に言わせてもらいます。フリードリヒと手を結んでいただけませんか?」
「あらあら、とてもせっかちさんね。もう少しゆっくり話しましょ?」
さすがに先走りすぎた。なんというか、この人の前だとペースが掴めないな……。
「失礼しました。先日のエルフリーデ様の対応から、こちらと友好の意思があると感じました」
「ええ。ちゃんと理解してくれていて嬉しいわ。弟や貴女とは仲良くしたいと思っているの」
「でしたら、皇位継承戦も協力していきませんか?」
「それは密約ってこと?」
密約なのだろう。特に大々的に発表するわけではないのだから。
でも、なんでそこを気にするのだろうか?そこまで重要なこと?
「密約だと思います。それがなにか?」
「なら、お断りよ」
「え?では、どうすればよいのですか?」
「そうね……お茶会を開きましょう!メンバーは私、お姉さまと貴女。あと一人欲しいわね……誰かいい人はいないかしら?」
お茶会?確かにデビュタントボールでの別れ際に言っていたけど……。
しかも、メンバーが継承戦筆頭候補と二番候補、そして三番候補の婚約者って……。
その状況で、第一皇女様の前で、わざわざ手を結ぶ話をするの?第一皇女様はそれを望んでるからいいけど……。
ん?もしかして……協力関係にあることをアピールしたいってこと?第一皇女様を証人にして?
となると、もう一人欲しいというのは、中立派の立会人が欲しいということだろう。
「中立派の方が良いのですか?」
「そうよ。マリアは美しいだけでなく、賢いのね!弟もいい婚約者を見つけたようで、お姉さん嬉しいわ!」
中立派で一番の権力者といえば、アーティラ公爵様だけど……一人だけ歳が離れすぎてしまう。
だとしたら、イザベルさんが適任だろう。私も話しやすいしね。
「アーティラ公爵令嬢のイザベルさんはいかがでしょうか?彼女は、学校の級友なので誘いやすいのですが」
「そうね。とても良い人選ね。場所はここ。日程は……学校がお休みの日がいいわよね?」
「そうしていただけると助かります」
「だったら、来週のお休み一日目にしましょう!お姉さまには連絡しておくから、イザベルには貴女が伝えておいて頂戴」
完全に第二皇女様の手のひらの上だ。ふわふわしてるのは……演技?
「わかりました。では、来週のお茶会ではよろしくお願いします」
「あれ?ちょっとちょっと!マリア、なんで帰ろうとしてるのよ。折角なのだから、もっとお話ししましょう?」
この性格は素なのだろう……。ただ、その雰囲気に惑わされて、いつのまにか話をまとめられてしまう。
いろいろ考えて行動しているし、かなりの曲者だ。こっちも一筋縄ではいかないな……。
「はい。ではどのようなお話をしましょうか?――――――」
小一時間捕まってしまった。空が赤みを帯びてきていた。
「そろそろいい時間になってきましたので、お暇させて頂きます」
「あらあら、もうこんな時間なのね……。来週のお茶会が楽しみだわ。またね、マリア」
そう言って無邪気に手を振る第二皇女様に一礼し、足早に逃げ去る。
うん。協力関係になるとはいえ、極力関わらないようにしよう!
とりとめのない話の中に、たまに鋭いナイフが隠されている。油断も隙も無い……。
それを無邪気な笑顔で仕掛けてくるから……ホント厄介だよ……。
私は今日の出来事の報告のため、フリードリヒの私室に向かった。
ノックと共に名前を告げると、聞きなれない男性の声が入室を促す。
部屋に入った私に、聞きなれない声の男性が挨拶をしてくる。
「マリア嬢、直接お話しするのは初めてですね。殿下付きの従者をしております、マクシミリアン・フォン・ブラウンと申します」
マクシミリアン様は、見かけることは多かったがいつも忙しそうで、お話をする機会がなかった。
フリードリヒの、手となり足となり働いている人だ。大変そう……。
「マリア・フォン・ナッサウと申します。私も貴方と話してみたいと思っていましたが、なかなか時間が合わず……」
「そうですね。それにしても、近くで見ると……本当に綺麗なお嬢さんだ。殿下は面食いだったのか……」
一向に私を案内しない従者にしびれを切らし、フリードリヒが声をかける。
「人の婚約者を口説いている暇があるのなら、早く連れてきてくれ」
「殿下、口説いてなんていませんよ。単純に感想を述べたまでで……」
「もういい。さっさと足を動かせ」
催促され、私たちはフリードリヒのもとに向かう。
ラフな格好のまま、ソファーで書類を眺めていた。出来る男のプライベート感がでていて、妙な色気を感じる。
私は名残惜しさを感じながら、今日の両皇女様との話を伝える。
「さすがは姉上たちだな。ヴィーラ姉様の話は意外だったが、フリーデ姉様の方は想定内だ」
「では、来週のお茶会で、同盟を結んでしまっていいんですね?」
「ああ。向こうから言い出してくれてありがたいぐらいだ」
アピール、いや、公表する意味は……やっぱり裏切り防止?
「お互いが手のひらを返さないように、鎖でつなぐのですか?」
「そうだ。もっと言えば、事前に周知しておくことで、勢力を呑み込みやすいだろうな」
「第二皇女様の勢力を取り込む時ということですか?」
「そうだ。まあ、取り込むか取り込まれるかだがな。急に相手の傘下に入るといわれても、困ってしまうだろ?」
「そうですね。同盟相手との力関係が徐々に広がっていけば、たぶん取り込まれるなって考える猶予ができますね」
やっぱり、こういった権力闘争は難しいな……。もっとシンプルに考えればいいのに。
あっ、そうなっちゃうと第一皇女様が皇帝になっちゃうじゃん……。
「そういうことだ。同盟を結んでも、最終的にはお互い喰い合うことになる。嫌なものだな……」
「はい。呑み込まれてしまわないように頑張りましょう!」
「気合を入れてくれたところ悪いが、教会方面は難航中だ。交渉の窓口探しがなかなか進まない」
「ですよね……。秘密主義な上、厳格な組織ですからね。じっくり腰を据えて進めるしかないですね」
「そうだな。とりあえず、お互い報告は以上でいいか?」
「はい。遅い時間に失礼しました。フリードリヒはしっかり休憩してくださいね!」
そういって、私は部屋を出た。きっと、あの書類を片付けない限り、休憩など取らないんだろうなと諦めつつ……。
「殿下。マリア嬢って、もっとお淑やかで受け身に回るイメージだったんですけど」
「猫被りのお嬢様モードの時はそうだろうな。だが、本来のマリアはこんな感じだぞ?」
嬉しそうにマリアの事を話すフリードリヒを見て、マクシミリアンは胸を撫で下ろすのだった……。




