第50話 パラドクス1
「私は前世から、ずっと君に劣等感を抱いている……。フリードリヒになっても、マリアが手の届かないところに行ってしまうんじゃないかと思っている」
えっ?なんで?前世では、私が勝ててたのって勉強ぐらいだよね?
今世に至っては……フリードリヒに勝てる要素がないと思うんだけど……?
「あの……前世では私の方こそ、マコト君が私なんかの彼氏でいいのかなって、不安だったんだよ?」
「いやいや、俺の方こそ、なっちゃんみたいに勉強できて、可愛くて、家柄も良いお嬢様に捨てられないように必死だったよ!」
「ええとじゃあ、お互いに不安だったってことだね。貴方の大切な話はこれだけ?」
正直、身構えて損した気がする……。マコト君らしいというか、男の子らしいというか……。
「え?卑しい男だとか、器が小さいとか思わないの?」
「なんで?恋愛事なんてそんなものでしょ?相手の事が好き過ぎるから、心配になるんでしょ?」
言ってて恥ずかしい。でも、マコト君が好きだったから、いろいろ悩んだりした。
だから、マコト君も同じ気持ちだったのなら……凄く嬉しいよ!
「この間のプレゼントのネックレスだって、私から離れないでくれ!私のものになってくれ!って気持ちで贈ったんだ」
「ええと……そこまで言ってもらえると……嬉しいを通り越して……恥ずかしい……」
ほんと、なんなのこの天然たらしは……。私をキュン死させるつもりなの……?
あまりの状況に、いたたまれなくなったお兄様が声をあげる。
「のろけ話はそろそろ満足でしょうか?私に大事な話があるのですよね?」
「すまなかった。そうだな、お前とマリア。私も含めて大事な話だ」
桃色の空間が、一気に緊張感のある空間に変わる。
きっと、お兄様の前世の話だろう。今度こそ。
「ハインリヒ、お前は何者だ?そして、なぜ私たちにそこまで尽くす?」
「お兄様が答える前に、私から一言言わせてもらいます。私は許しました」
「マリア……ありがとう。真さん、私は前世であなたと夏美さんを殺しました。正しくは、こちらに飛ばしました」
フリードリヒが考え込んでいる。しばし、沈黙の時間が流れる。
怒り狂ってもおかしくないことなのに、フリードリヒは冷静だった。私と違って。
「マリアは許したのだったな。ならば、私たちをこの時代に飛ばした理由を聞いてもいいか?」
「この時代……気付いていたのですね。この時代自体には意味がありません。飛ばすことに意味がありました」
この時代……?二人はなにを言っているのだろう?
「真さんと夏美さんがあの時代に存在しなくなることで、世界を守ろうとしました」
「仮説止まりだったが、やはりか。そして、世界は守れなかったということか」
「はい……。お二人には申し訳ないことをしました。なので……今世であなた達の助けになるように動いています」
「贖罪というわけか。尽くす理由については解った。だが、マリアの反応を見るに、全ては説明していないようだな」
この時代という言葉や大図書館で気付いたこと。オネスト商会や魔力測定で見た、超越している技術の物品。
もしかして……。
「はい。あの時、マリアは気付いていないようでしたので、話しませんでした」
「では、今回は話してくれるということでいいか?」
「はい。ここは地球です。あなた達の前世の遥か未来の……。文明が崩壊した後の、です」
大図書館で想像していた高度な文明、それが私たちの前世……。
ということは、文明の崩壊というのは……。
「お兄様は、文明の崩壊を止めようとしていたのですか!?何故それが、私やマコト君の存在と関係が?」
「私が文明崩壊の、世界が滅びる最終戦争のきっかけの技術を開発しました。時間跳躍の技術です」
「私やなっちゃんとの関係は?お前が開発したのなら、私たちは関係ないはずだろう」
そうだ。私は前世のお兄様とは、飛ばされる直前に会っただけ。関係ないはずだ。
「私は……真さんと夏美さんの子孫です。ひ孫に当たります」
「私たちは前世でも結婚できていたのだな……。それを聞くと……さすがに怒りを覚えるな……」
私たちが、こっちに送られなければ……幸せな家庭が築けていたのか……。
確かに、それを考えてしまうと……複雑な気持ちだ……。
「はい……。目的があったにしても、許されないことだと思っています。しかも、結果がこれです」
「では、お前の狙ったことは、タイムパラドクスを起こそうとしたのか?」
「そうです。真さんを飛ばした時点で、私の存在が消えなかったことで、計画の失敗を悟りました」
「だから、なっちゃんも同じ時代の同じ国に飛ばしたと?せめてもの情けで?」
「そういうことになります……」
いくつか疑問がある。血縁であることはわかったけど……私たちでなければいけないとは思えない。
私たちの子供や、もっと言えば前世のお兄様自身でもいいはずだ。
「お兄様が過去に戻り、お兄様自身を消すだけではいけなかったんですか?」
「それに関しては……より確実にするためでした。失敗した今、なにを言っても無意味なのかもしれませんが……」
「私やなっちゃんが飛ばされなかった未来と関係があるのか?」
本来の私たちの人生ってこと?不謹慎な考えかもしれないけど……すごく気になる。
「はい。まずは真さん。入社した会社で、社長まで上り詰めます。そして、夏美さんが所属する研究施設のスポンサーとして、技術発展に貢献します」
「そうだったのか。公私にわたってなっちゃんを助けたんだな……」
「はい。次に夏美さん。大学卒業後、地元の研究施設に就職します。真さんの協力もあり、多くの新技術を開発します」
「そうだったんですね。私も頑張ったんだ……。では、その新技術に問題があったと?」
「はい。時間跳躍の基礎段階の、多くの技術が含まれています。なので、その技術が残ってしまうと、私以外の人間が時間跳躍を完成させる可能性がありました……」
だから、私でなければいけなかったのか……。未来?の私の頑張りが、世界の終末に向かわせてしまった……。
だけど、それは結果的にの話。私が崩壊を手引きしたわけではない。私に直接の責任はないと信じてる。
「それでは、なぜ私を先に飛ばした?お前の話を聞いた限りでは、なっちゃんの方が重要な存在だろう?」
私もそれは思った。援助があったにしても、実際に開発したのは私だ。
先に消すべきなのは……私だ。
「夏美さんを先に狙うことが、私にはどうしてもできませんでした……。もし、計画が成功していたのなら、夏美さんは生きていたはずだからです」
「その判断は正しい。私とお前が消えるだけでよかったのなら、それでいい」
「私はマコト君と一緒にいたいよ!マコト君のいない世界に意味なんて……」
「はい。なので、真さんを失った夏美さんが心配になり、夏美さんのもとへ向かいました」
だから、私の前に貴方は姿を現したのか……。




