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第47話 悩む皇子の独り言

「フリードリヒ……なにか悩み事ですか?」


 私のことを心配したマリアが声をかけてくる。

 マリアの言う通り、私は悩んでいる。だが、マリアにだけは知られたくない……。


「ああ、すまない。待たせてしまったな。そろそろ帰ろう」


 城の自室まで帰ってきた私を、マクシミリアンが迎える。

 マクシミリアン・フォン・ブラウン。ブラウン子爵家の長男。私付きの従者。

 そして、私の兄のような人だった。今でこそ上司と部下の関係になってしまったが……。


「殿下、お顔が恐いですよ。マリア嬢となにかありましたか?」


 この世界に生まれた私の、唯一の理解者だった人だ。マリアたちと出会う前はだが。

 理解者とは言ったが、私が転生者であることは伝えていない。伝える必要性を感じていないからだ。

 だが、私の夢は伝えてある。皇帝となって、世界の発展を進め、民を幸せにすると。


「いや、マリアとはなにもない。これは……私自身の問題だ」

「それでは、私はなにも聞きません。殿下なら、ご自身で乗り越えられるのでしょう?」

「そう、だな……。だが、私の独り言なら聞いてくれるか?」

「そうですね。私も独り言を言いたい気分になってしまうかもしれませんね」


 そう言って、マクシミリアンは微笑む。本当に出来た人だ。私と違って。


「私は出会う前まで、マリアやハインリヒを協力者としてしか考えていなかった」

「殿下は使えるか、使えないかを重視する人でしたね。昔から……」

 

 転生者探し。その一番の候補がハインリヒだった。そして、マリアはおまけ程度に考えていた。


「だが、会ってみて私の考えは変わった。有能な上、ハインリヒは多くの情報を与えてくれた」

「ハインリヒ様は、殿下のお眼鏡にかなう数少ない人でしょうね。」


 マリアがなっちゃんだということを教えてくれたのはハインリヒだ。ハインリヒ本人も、転生者だと明かしてくれた。

 マリアを、なっちゃんを守り続けてきてくれた。そして、これからも……そう思っていた。


「そして、マリアは……運命の相手だと、出会った瞬間に感じた。だから、初対面の相手に、私の夢を語った」

「あの時は……驚きました。殿下の心からの笑顔を、久しく見ていませんでしたから。そして最近も……」


 あれは衝撃的だった。皇子として完璧な振舞いを徹底していたはずだったのに、出会った瞬間に本音をこぼしてしまっていた。

 美しい。ただ、そう思った。強く惹かれた。この世界で初めて、心を揺さぶられた……。

 その直後、ハインリヒからマリアの正体を聞いた時は……嬉しかった!世界が違っても、また出会えたことが。

 だが、同時に悲しかった。私は皇帝を目指すと決めていた。だから、マリアと結ばれることはないだろうと……。

 それでもよかった。皇族としての力で、陰ながら守っていこうと思った。


「だが、状況が変わった。マリアの魔力測定で……。私としては、最高の状況だった。不自然なほどに……」

「殿下の夢の実現の鍵は、だれもが納得するほどの魔力をもった配偶者。正直、私は諦めておりました」


 マリアの魔力は、私にとっての最大の難問をクリアしてくれた。誰かのお膳立てによって。

 すぐに察しがついた。ハインリヒはこの事態を想定して、全てに手を回してあった。

 大聖堂からのマリアの救出、ナッサウ当主の帝都召還、婚約判断の緊急会議でも、賛成方向に流れを変えてみせた。

 方法はわからないが……マリアの魔力も、ハインリヒによってもたらされたのかもしれない……。


「そして、マリアとの婚約が決まった。マリアの意思で婚約を了承してくれたのが、嬉しかった……本当に……」

「殿下の夢が近付いて、私も安堵しました。ですがそれ以上に、マリア嬢という心の拠り所を手に入れられたのが嬉しかった」


 本当に嬉しかった。前世ではなっちゃんと死別し、今世でも立場の違いで、一瞬は諦めた望みだったから……。

 だが、私は覚えている。婚約が決まった直後、マリアとハインリヒが話し合っていたことを。

 その後、帰ってきた二人の顔が、とても清々しかったことを……。

 きっと、私が宍戸真であったことを伝えたのだろう。ハインリヒの事だ、婚約が決まるまでは黙っていてくれたのだろう。

 だが、二人の様子は、それだけではないように感じた。私には、聞かせられない話なのか?


「その後、今に至るまでハインリヒやナッサウ家はよく働いてくれている。これからもそうなのだろう」

「サンドラ様は次期宰相候補として、ハインリヒ様は殿下の右腕として……とても使える人間ですね……」


 ハインリヒは、私の最大の協力者として頑張ってくれている。まるで……義務であるかのように。

 そして、転生者だということ以外は、なにも明かしてもらっていない。

 だからなのだろうか……ハインリヒの事を認めつつも、一切信頼できない私がいる。

 それだけではない。ハインリヒのマリアを見つめる瞳に、私は嫉妬に近い感情を抱いているのだろう。

 あれは、兄が妹を見守る瞳ではない。男が女を見つめる瞳だ。それも、諦めと決意のこもった……。

 諦めは解る。兄妹だから。だが……あの決意は?私に対する義務感は?あいつは何を知っていて、何を考えている?

 わからないなら、聞けばいい。だが、私はそれが出来ずにいる。他人に踏み込むことが恐い。

 前世で私は、訳も分からず殺された。なぜ殺されたのかは、いまだに分からない。

 だから、他人から距離をとる。人を信頼できない。マリアとマクシミリアンだけは例外だ。

 だが、マリアが転生していることを思うと、さらに人を信じられなくなった……。

 宍戸真と周防夏美は、明確な殺意のもとに殺されたと推察できるから……。


「私は、マリアを愛している。だが、マリアを見るのがつらい時がある。私の心がつかめない」

「殿下の人間らしさを見られて、私は嬉しいです。一人の男性なのだと、安心します」


 マリアを、そしてなっちゃんを愛している。前世から今世まで、愛した人は一人だけだ。

 前世では、常になっちゃんに対して劣等感を抱き続けていた。庶民の俺、名家のなっちゃん。

 勉強だって、なっちゃんの後を必死で追いかけてきた。それが嫌で、高校卒業後、すぐに就職した。

 早く一人前になってなっちゃんを迎えたい、半分は本当。半分は、逃げの選択だったと思う。

 そして、今世。家柄は逆転した。勉強でもマリアの前に立てた。これで私が、堂々とマリアの手を引いていけると……。

 だが、ここ最近のマリアの成長には、目を見張るものがある。領地から帝都にやってきたことで、見識が広がったのだろう。

 地頭の良さと相まって、もう私に並びつつある。発想力や社交性では私は敵わないのに、知識までも……。

 前世の劣等感が蘇り始めている。マリアを見るたびに、自分と比べてしまう。


「マクシミリアン……。今回は私では乗り越えられそうにない。相談に乗ってくれないか?」

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