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閑話 公爵令嬢の苦悩

 わたくしはイザベル・アーティラス・カージフ。アーティラ公爵の娘。

 皇族にルーツを持つ、とても由緒ある名家。国内で最高、そして唯一の、貴族の中の貴族。

 その家にふさわしい者であるように、わたくしは勉学、礼儀作法、その他あらゆる教育を施された。

 それもこれも、歳の近いフリードリヒ殿下の結婚相手と目されていたからだ。

 私はそれが誇りだった。幼いながらに、国を動かすほどの秀才”完璧皇子”に嫁ぐであろうことが。


――――――

 

 わたくしが十二歳になる年、衝撃的なニュースが帝国中を駆け巡った。

 ナッサウ伯爵家の長男ハインリヒ様の魔力が、皇族級であると。

 次代の皇族や貴族の中で、トップの魔力保持者が伯爵家……あってはならないことだ。

 わたくしが、皇族に連なる血筋の者が、上に立たなければならない!

 だが、数か月後の魔力測定の結果、わたくしは皇族級に及ばない魔力量だった……。

 決して悪い数字ではない。ハインリヒ様、エルヴィーラ殿下、エルフリーデ殿下に次ぐ数字ではあった。

 なので、わたくしは魔法の練度を磨いた。量で勝てないのなら、質で勝てばよいのだと。


―――――― 

 

 わたくしが十五歳になる年、驚愕のニュースが帝国中を駆け巡った。前回よりも衝撃的な……。

 フリードリヒ殿下の魔力が皇帝陛下を越えたと……。わたくしは嬉しかった。

 そんな偉大な方と結婚できるのだということが。ただただ嬉しかった……。

 だが、そんなわたくしの気持ちは、簡単に覆された。

 ナッサウ伯爵家の長女マリア様の魔力が、フリードリヒ殿下と同等だと……。

 さらに、その身を案じたフリードリヒ殿下が、マリア様を皇城で保護することに決めたと……。

 またナッサウ伯爵家……。しかも今度は、女性!歳もフリードリヒ殿下と同じ。

 わたくしは焦った。でも、大丈夫。皇族と伯爵家、身分が違いすぎる。大丈夫、大丈夫……。


――――――

 

 私は絶望した。フリードリヒ殿下とマリア様の婚約が発表されたのだ。

 その場所は、フリードリヒ殿下の隣はわたくしのはずなのに!なぜ?マリア様がそこにいるの?

 女としての嫉妬、貴族としての妬み、敗北感に劣等感に……。ぐちゃぐちゃだった。

 今までの努力はなんだったの?ぽっと出の女性に掻っ攫われるほどの努力だった?否だ!断じて否!

 その直後に舞い込んだニュース、魔法学校開校の報せ。フリードリヒ殿下もマリア様も入学するらしいと。

 わたくしはすぐにお母様にお願いした。学校に入学したいと。

 それからは、今までと比べ物にならないほど頑張った。魔法も勉学も……。

 入学試験は簡単に突破できた。わたくしの努力は無駄ではなかったんだ。


――――――

 

 入学が近づいたころ、馬車の中で異常さに身震いした……。

 学校の入学案内の冊子を読んでいたわたくし。校則の頁を読み進めていた頃だ。

 ”学校内での身分差撤廃”。その説明を読んで、ただただ恐ろしかった……。

 この国では、貴族制があるからこそ保たれている。力ある貴族が義務を果たすことによって。

 貴族の格が高いほど、多くの義務や責任がついて回る。当たり前のことだ。

 それなのに、学校内だけとはいえ撤廃する?ありえない!あってはならない!

 わたくしは、抗うと決めた。貴族を貴族として保つために……。


――――――

 

「わたくしの名は、イザベル・アーティラス・カージフ。アーティラ公爵家の二女ですわ!わたくしと共に学べる事に感謝しなさい!」


 わたくしは言ってやった。公爵家の者として、最高位貴族として。

 教室内が騒がしくなった。だが、わたくしはわたくしを曲げるつもりはない!

 そして、翌日。教室に来るはずのマリア様を待っていた。


「マリア様。わたくしを差し置いて殿下の婚約者に収まるとは……どういった了見なのかしら?」


 マリア様が教室に入るや否や、そう声をかけた。

 対面してみて改めて感じるが、マリア様は美しかった。わたくしでは歯が立たないほどに……。

 そして、話をしているうちに直感した。


「私、フリードリヒはマリアのことを愛している!マリアが婚約を撤回しないかぎり、結婚するのは絶対だ!」


 ああ、マリア様がフリードリヒ様を、皇帝陛下を、生徒会の皆さんを歪めてしまったのか……。

 ただただ呆れていた。これのどこが”完璧皇子”なの?しきたりを守らず、伝統をないがしろにするこの人が。

 マリア様の美貌と魔力に惑わされたこの人を助けなければ……。この国がおかしくなる前に!

 

 午後の魔法実技が始まった。ここでもおかしなことが起こっていた。

 生徒会の方々が教師サイドに回っている。当然、マリア様も。

 それが当たり前の事のように教師たちも振舞っている。学校長であるミリヤム様まで……。


「なによ……わたくしは教わる側なのに……なんで小娘が教える側なのよ!納得いかない!」

 

 多少、私情が入っていたのは否定できない。だけど、納得がいくわけがない。

 わたくしは成体から四年近く、誰より厳しく魔法の訓練を続けてきた。

 なのに、魔力が多いだけの小娘に教えてもらえと?たった成体から一年ほどの者に?


 私は魔法標的の前に立っている。実演という名の対決の場所に。

 ミリヤム様が火魔法を指示してくる。わたくしは即座に魔力を練り始める。

 マリア様の火球が発射される。早すぎる!わたくしは発動準備を始めたばかりなのに……。

 着弾した火球が炸裂する。強力すぎる!魔力量の差だけ?たぶん違うだろう……。

 ずいぶん遅れてわたくしも発射する。速度も、威力も歯が立たなかった。

 そして、次に風魔法が指示された。わたくしは知らない!そんな魔法があることすら。

 マリア様がなにかを撃つ動作の後、的が急にはじけていた。

 訳も分からぬままに、勝負はついていた。というより、勝負にすらなっていなかっただろう。

 わたくしの今までの努力はなんだったのか?無駄だったのか……?


――――――

 

 わたくしのもとにデビュタントボールの招待状が届いた。マリア様とフリードリヒ殿下の。

 皇城での共同開催?皇族と伯爵家が……?そんなことが許されたの?

 折れかけていたわたくしの心に、なんとか火を灯す。

 再度、マリア様と対立する。貴族としてのプライドにかけて!


「貴女のデビュタントボールで、わたくしとの品格の差を教えて差し上げますわ」

 

 わたくしに残されているのは、家格と淑女としての経験だけ。

 でも、それさえあれば、貴族の、社交界の厳しさを教えられるはずだった。

 頭の中がお花畑の、貴族の矜持も理解できない小娘などに劣ることのない、絶対の差だと。


「さあ、マリア様とフリードリヒ殿下の目を覚ましに向かいますわ!」


 わたくしは、決意と共に決戦の舞台に歩を進めるのだった。

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