第45話 デビュタントボール3
「貴女が弟の婚約者でしたね。噂はよく耳にしておりますわ」
第一皇女様は無難な対応。さて、第二皇女様は?
「噂以上に美しいのね!将来義理の妹になってくれると思うと、とても嬉しいわ!」
妙に歓迎ムードだ。第一皇女様の対応はわかるが、第二皇女様は……なにを考えているのだろう?
「いえ、私などお二方と並んでしまえば、輝きを失ってしまいます」
とりあえず、よいしょしておく。下手に出続けて様子を見るつもりだ。
とは言っても、お二人とも美しいのは間違いない。高貴なオーラを纏っている。
「貴女、謙遜が過ぎると嫌味に聞こえましてよ?そのドレスも先ほどのダンスも素晴らしいものでしたわ」
第一皇女様は友好関係は結ぶつもりはないけど、私のことはある程度認めている感じかな?
「お姉様の言う通りですわ。貴女ほど美しい女性は初めて見るもの。さあ、もっと気楽にお話ししましょう」
第二皇女様はがっつり仲良くなりたい感じだ……。何故……?
その後も、第一皇女様は付かず離れずを維持、第二皇女様はがんがん距離を詰めてきた。
なんとなくだが、第一皇女様は、フリードリヒを皇帝争いのライバルと認識していて、距離を置く感じ。
第二皇女様は、現状第一皇女様が先行しているので、フリードリヒとは協力関係を目指している感じかな?
フリードリヒの考えを聞いていないので、これ以上踏み込むのはまずいだろう。
「他の方々への挨拶が残っておりますので、そろそろ失礼させていただきます」
「そうね。貴女のお話はとても有意義でしたわ。またの機会があれば、色々聞かせて頂戴」
「残念ですわ。今度はお茶会などでゆっくりお話ししたいですわね」
事務的な姉と友好的な妹。なんとも対照的な二人と別れた私は、挨拶回りに戻る。
まずは、有力貴族家の当主、及び夫人。あまり会いたくはないけども、リューネブルク侯爵様のもとにも向かう。
意外にも、リューネブルク侯爵様は友好的に接してきた。まあ、表面上はだけどね。
保守派の貴族の方々も、皇帝主催の舞踏会で問題を起こすほど馬鹿ではないだろう。
次に、学校関係者。ミリヤム様や生徒のみんな。イザベル様を除く。
生徒のみんなは、ほとんどが当主ではないため、このような大規模な舞踏会は初めてのようだった。
というより、皇城に入ったことない人が多かった。私だって、謁見で呼ばれなければ、入ることなかっただろうし。
なので、みんな好奇心と恐怖心の狭間で、なかなかダンスも出来ていないようだった。
そして、最後にイザベル様のもとに向かう。えっ?公爵家令嬢を後回しとか失礼?
でも私、たかが伯爵家の恥知らずな小娘なので……ルールがよくわかっていませんの。
あれ?イザベル様の姿が見当たらない。ホールで踊っているでも、だれかと歓談しているでもない。
まさかと思い、壁際を探す……。見事に壁の花になっているイザベル様を見つける。
「イザベル様?具合でも悪いのですか?」
普段の様子からは想像できないイザベル様の姿に、体調不良を疑ってしまう。
「いいえ、体調は全く問題ないわ。ただ、心が弱ってるだけよ……」
あっ……私、やりすぎちゃったんだ……。途端に罪悪感に襲われた。
この世界にない知識を使って、前世の経験を持ち出して……。私はとんだ卑怯者だ。
傷つけるって分かっていたのに、可哀そうだと思ったのに……。私はただただ愚か者だ。
「イザベル様、ごめ……」
謝ろうとした瞬間、イザベル様が割って入る。
「謝らないで!貴女はなにも悪くないわ。貴女は持てるすべてを使って、わたくしを叩き潰した。ただそれだけのことよ……」
叩き潰してしまったから、私は謝ろうとした。だけど、彼女は悪くないと言う……。
私にはわからない。その理屈が。
「いえ、私はやりすぎてしまいました。貴女を傷つけてしまいました。だから、謝らせてください!」
「駄目よ。わたくしは貴族として貴女に挑んだの。そして、負けた。貴女はなにも間違っていない。それが、貴族としての生き方よ」
そうだった。私やフリードリヒは、前世の価値観を捨てきれていない。貴族としての考え方に甘えがある。
イザベル様は、生粋のこの世界の貴族。そして、この世界の貴族の在り方の体現者だ。
異端な考え方を周りに広めたのは私たち。それに抗っていたのがイザベル様。
どちらが正しいかなんてわからない。だから、しっかり話し合わなければいけなかったんだ。
「やっぱり謝ります!ごめんなさい!それと、ありがとうございます!」
「はあ?貴女、謝罪も不要だし、それ以上になんで感謝するのよ!わけがわからないわ」
「ええと、イザベル様の在り方に貴族の姿を見たからです!」
「なによそれ……。わたくしはわたくしの信じる道を進んでいるだけよ」
「それです、それ。今後も貫き通してください!私でよければいくらでも相手になります」
「はぁぁ。なんか、貴女と張り合おうとしていたのが馬鹿らしくなってきたわ……」
「えっ?やめてしまうのですか?次はテストの点で勝負だ!とか言ってくれないんですか?」
「はいはい。それではテストの点数で勝負よ。これで満足?」
半ば呆れているイザベル様。満足げな私。これでいいんだ。
きっとこれからもイザベル様は、私たちの考え方には染まらないだろう。
対立することもあるだろう。でも、その都度話し合って、解りあっていこう。
その後、いつの間にか集合していた生徒会メンバーと合流した。
「マリア、イザベル嬢と話し込んでいたようだが、大丈夫だったか?」
「はい。イザベル様がどう思っているかはわかりませんが、私は勝手にイザベル様を友達と認定しました」
『はい?』
みんな意味不明という顔をしている。そりゃあそうだろうね。
「なにが起こると、そないなことになるんやろうな……」
「まあ、イザベル嬢がおとなしくなりそうなら……それでいいだろう」
「おとなしくはならないと思いますよ?」
みんなからの視線が痛い。可哀そうなものを見る目で見ないでください……。
そんな感じで話していたら、生徒のみんなも集まってきてしまった。
○○様と踊ることが出来ましたとか、踊ってみたら○○様が格好良く見えましたとか。
みんなちゃんと楽しむことが出来たようで、なによりです。
いつの間にか時間になり、陛下の閉会宣言でデビュタントボールは終わった。
主役である私たちが最初に退場し、続いて陛下たち皇族が会場から出てきた。
「なんとか終わったな。マリアもお疲れ様」
「フリードリヒもお疲れ様です。私、これ大切にしますので」
そう言って、首元の宝石たちを指差して、微笑んで見せた。




