第42話 挑戦状
その日、登校すると学校内がざわついていた。
理由は間違いなく私たち。デビュタントボールの招待状が届いたからだろう。
校内の伯爵家以上の方々とミリヤム様を招待することになっている。
教室に着くまでの間に、何人かの招待者に声をかけられた。
招待を喜んでいる人、皇城での開催に物怖じしている人など様々だった。
そして、教室に入り、席に向かって歩いていたところに、声を掛けられる。
「マリア様。少しお時間よろしくて?」
予想はしていました。きっと貴女なら絡んでくるだろうと……。
イザベル様が腕組みをして、こちらを睨みつけながら話しかけてきた。
「伯爵家の貴女が皇城でデビュタントとは、恥を知りなさい!」
ええ、そうでしょうとも……。私だって望んだわけではないのに。
「ええと、私も恐れ多いことだと思っております。ですが、フリードリヒの希望なので……」
「なっ!殿下を呼び捨てるなどとは……。失礼にも程があるんじゃなくて?」
ああもう!いちいち噛みついてくるなぁ……。
ここ一週間ほどはおとなしかったのに。ずっと力を溜めていたのか?
「それについても、本人から許可が出ておりますので」
「それは本当ですの、殿下?」
矛先がフリードリヒに向いたようだ。矛というか、ドリルか?
「ああ。間違いない。というより、私もそれを望んでいる」
「皇子という立場にある貴方がそのようでは、皇族の品位も落ちてしまいますわ」
「呼び方ひとつで落ちる程度のことなら、いずれ落ちてしまうのではないか?」
「そ、それはそうかもしれませんが……。とにかく、軽々しい行いは控えてくださいませ!」
言い方は腹が立つ。だけど、言ってることはあながち間違っていない。
なんだかんだで、イザベル様も皇族や国のことを考えての発言なのだろう。
「イザベル様の言うことはもっともだと思うのですが、もう少し場所と時間を考えていただきたいのですが……」
教室の生徒たちが固唾をのんで見守っている。廊下にも噂を聞きつけた生徒が群がっていた。
さすがにばつが悪くなったのか、荒ぶるドリルが少しおとなしくなる。
「貴女のデビュタントボールで、わたくしとの品格の差を教えて差し上げますわ」
挑戦状のような言葉を残し、イザベル様は席に戻っていった。
魔法勝負の次は淑女としての勝負ですか……。これはきっと、テストの点数勝負もあるんでしょうね。
イザベル様は腐っても公爵家。いや、腐ってないな。れっきとした公爵家令嬢。
歳もたしか十六歳になる年だったはず。社交経験ではあちらが上手だ……。
なんて、言うとでも思った?私には夏美の記憶と経験があるのよ!
皇城での開催ということで、ドレスも気合が入っているし、負ける要素はないわ!
――――――
その後は、ダンスや一通りの礼儀作法の復習、招待客の情報を覚えることに時間を費やした。
ダンスなどは前世の記憶が大いに役立つため、大した苦労はなかった。
ありがとう!前世のお父さん、お母さん。あの頃は大変だったけど、今となっては良い経験でした。
だが、問題は招待客を覚えること!とにかく人数が多い!
夏美だった時以上に物覚えは良くなった気がするけど……それにしたって限度というものが……。
なにより困ることが、顔!写真が無い世界なので、髪色、目の色、特徴などが文字で書かれている。
例えばフリードリヒ。金髪碧眼、鼻高し、身長高め、鍛えられた細身の体型……。
皇族ほとんど金髪碧眼だわ!西方系の人だいたい鼻高いわ!身長高めって何基準の高め!?
知人友人ですら上手く結びつかないのに、会ったこともない人の風貌想像ゲームとか難易度マックスよ。
まあ、文句を言っても何も変わらないので、必死に頭に叩き込むだけなんですがね……。
また、ドレスやブレスレットもデビュタントボール一週間前に届きました。さすが、仕事が早い。
早いだけでなく、出来栄えも素晴らしかった。特にドレスの。
前世のヨーロッパで見たデビュタントボールのドレスを基にした、この世界では最先端すぎるドレス。
それを、たったの三週間ほどで完成させてしまう職人たちの仕事には感謝と感動だ。
ドレスの注文の時は、やりすぎたかも?って思ったけど、ケンカを売られたのだから好都合だ。
試着してみた時は、侍女が涎を垂らしながら見惚れていた程だ。話題性は抜群だろう。
目立つのが恥ずかしい?そんなこと言ってられない!
今回は魔法でも学力でもなく、女として売られたケンカだ。絶対に負けないわ!
そして、最後は学校の事。この一か月で様々なことがあった。
まずは、国の学校プロジェクトチームが始動した。
引継ぎを終わらせ、生徒会は本来の生徒会業務に専念できるようになった。
そのため、以前発案したイベント関連の準備を始めた。イベント案の募集だ。
同時に、生徒から問題点の打ち上げが出来る目安箱も設置された。
すでに大小さまざまなイベント案や問題点が集まっており、狙い通りの効果が出ている。
また、馬車渋滞も解消が進み、徒歩通学者が増えた。意識改革が進んだのだろう。
食堂も状況が変わってきた。利用者が右肩上がりだ。昼食文化が根付きつつあるようだ。
午後の授業で、身体強化やそれを利用した武術練習が始まったのも大きいだろう。
昼ご飯を食べて、午後のトレーニングに備える。とても良いことだ。
最後に、雰囲気。校内で雑談している人たちを多く見かけるようになった。
また、クラスに関係なく私たちに話しかけてきてくれるようになったのも嬉しい。
フリードリヒも、会長と気軽に呼ばれるようになった。本人も嬉しそうだ。
そんな感じで、デビュタントの準備や学校での生活をしているうちに、一か月が経っていた。
――――――
今日は授業休みの一日目。私たちのデビュタントボール当日。
「お嬢様ぁ、大変、たぁいへんお似合いですよ!ハァハァ」
ギラギラした目で、息の荒い侍女の賛美を受ける。今日も平常運転のようだ。
「ありがとう。普段以上に気合の入ったヘアメイクも完璧ね」
普段は整える程度の髪も、今日は編み込みシニヨンでエレガントな仕上がりだ。
侍女の豊富な熱量が遺憾なく発揮されている。
「お嬢様の晴れ舞台です!最高の出来栄えだと自負しております!」
「そうね。準備は整ったわ!いってくるわね、アマラ」
「行ってらっしゃいませ!お嬢様!」
皇城のパーティーホールへ向かって歩き出す。
エスコートをしてくれるフリードリヒとは、ホールの入り口で合流する予定だ。
この姿を見て、フリードリヒはなんて言ってくれるだろう?
フリードリヒはどのような姿で現れるだろう?
ホールの入り口が見えてきた。
さあ、パーティを始めましょう!




