第40話 ドレスと宝石
翌日、私はアマラを連れて、オネスト商会に向かっていた。
「お嬢様とデート……ウフフフフ」
怪しい笑みを浮かべる侍女を叱りつけ、メインストリートを南に進んでいく。
ちらほらと見知った顔を見つける。学校の生徒たちだ。
複数人でショッピングをしていたり、屋台の料理を頬張ったりしている。
一部の方々は私に気付き、頭を下げてくれる。私も軽く会釈を返す。
「今のは学校の方々ですか?珍しいですねぇ」
「クラスメイトよ。珍しい?なにが?」
「皆さん、貴族ですよねぇ?連れ立って街に繰り出すなんてなかなかないですよぉ」
そういえば、ローズやテレーザを誘った時も変な顔されたっけ。
そこまでおかしなことなのだろうか?
「普通の貴族の友達はどうやって遊ぶの?」
「そもそも、貴族間では友達という考え方が希薄だと思いますよぉ」
「なんで?」
「貴族同士の付き合いは利益があるかないかが基本ですし、そもそも社交や皇城勤務以外は領地で過ごすことが多いので、会うこと自体稀です」
確かに、帝都に来るまでは、他家の友達的な存在はアリーセお姉さましかいなかったな。
そのお姉さまも、行商をしているから出会っただけ。お姉さまのような貴族はめったにいない。
「じゃあ、学校が出来て貴族の交友関係が広がったのかな?だったら嬉しいな」
「そうですねぇ。始まったばかりの事なので、どのようになっていくかはわかりませんが、新しい時代が始まったようですねぇ」
話をしているうちに、オネスト商会に到着した。
店内に入ると、待ってましたとばかりに従業員に迎えられる。
ローズの不在を謝ってきたが、なんとなくそんな気がしていたので気にしない。
昨日、夜会に行くと言っていたので、ビジネスチャンスと張り切りすぎたのだろう……。
その後、ドレス担当の店員に連れられていった部屋で、採寸を行い、ドレスの希望を伝えていく。
それを聞いた店員が、簡単な絵で複数のデザイン案を提示してくる。
「お嬢様、第二案が一番お似合いかと」
「そうね。これを基にして進めていきましょう」
色や詳細なデザインを詰めていき、理想のドレス案は完成した。
納期や代金などの交渉を侍女に任せ、私は宝飾品売り場に向かった。
ドレスに合うジュエリーを探していた私は、とある宝石に目を奪われた。
淡い紫の落ち着いて優しい石だった。
「そちらがお気に召しましたか?南方の国、プルートシア産の宝石です」
宝飾担当の店員が説明してくれる。カージフでの産出はなく、プルートシアでの産出量も少ないらしい。
ダメ元で希望を伝えてみる。
「この石でネックレスは作れそうですか?」
「ネックレスとなると……在庫が足りないですね。ブレスレットのサイズがギリギリになってしまいます」
希少な石らしいのでしょうがない……。
だけど、ブレスレットならフリードリヒへの贈り物にちょうどいいんじゃないだろうか?
ずっと頑張り続けてきたフリードリヒ、私の世界を広げてくれたフリードリヒ。
そして、こんな私を婚約者に選んでくれたフリードリヒ……。
指輪は贈るのも、贈られるのも恥ずかしい。でも、ブレスレットなら……。
「この石で男性用のブレスレットを作ってください」
ドレスの交渉を終えた侍女と共に、ブレスレットの交渉を始める。
納期は大丈夫だが、予算はギリギリだった。希少な宝石は……お高いですね。
ドレスに合わせる物は諦めよう。フリードリヒへの感謝と労いの方が大切だから。
その後、店を出た私たちは、昨日も寄ったカフェに向かった。
「お嬢様ぁ、私も本当に同席しても良いのですか……?」
「いいのよ。侍女と一緒にカフェしてはいけないなんて法律ないでしょ?それとも、アマラは嫌なの?」
「全然嫌じゃないです!こんなご褒美を嫌がるはずありません!」
昨日と同じようにジュースと軽食を注文し、席につく。
「それにしても、お嬢様ぁ。本当に良かったのですか?あのブレスレット……」
アマラの心配はもっともだ。ドレスはナッサウ家のお金で買ったが、ブレスレットは別会計。
私の個人資産から支払った。贈り物を親のお金で買うとか……嫌じゃん?
「大丈夫よ。私は物欲とかあまり無いし、借金したわけでもないのだし」
「お嬢様がそれでいいというのであれば……。ですが、男性用ということは殿下への贈り物ですか?」
他人にプレゼントっていうのを言われると、妙に恥ずかしく感じる……。
別に愛の贈り物ってわけでは無いわけで……。感謝の贈り物なわけで……。
心の中で、謎の言い訳を繰り返す。
「そうよ。感謝の!感謝の気持ちを込めて、フリードリヒにプレゼントするのよ」
「フフフ、きっと殿下も喜ぶでしょうね……」
生温かい視線が耐えきれず、顔を背ける。
そこにタイミングよく、注文した物が届く。店員ナイス!
「さ、さあ、注文したものも届いたし、頂きましょう!」
「お嬢様ぁ、そのようなことでは逃がしませんよぉ。殿下のことは名前呼びなんですねぇ」
ニヤリと笑う侍女が怖い。ここぞとばかりに攻めてくるつもりのようだ。
「本人の前ではフリード君って呼んでるわよ!恥ずかしいし……」
「あらあら、殿下もきっと待っていると思いますよぉ?」
「そんなこと言っても、前世でだって男性のことを呼び捨てなんてしたことないわよ……」
彼氏だったマコト君だって、常に君付け。当然、他の男性も君付けやさん付けだ。
前世も今世もお嬢様として育てられた私にとって、異性を呼び捨てるのはハードルが高い。
「なら、なおさらですね!殿下は前世でも恋人だったのでしょう?自分だけ特別だってなったら……」
「そうね……。私がフリードリヒ=マコト君ってことを知らない設定だからね」
「殿下の希望とは聞いていますが、お嬢様はそれでよろしいのですか?」
「いいの。お兄様とも話し合って、前世での関係はリセットしたの。だから、大丈夫!」
「そうですか。……ハインリヒ様も解放されたのですね……」
「ん?お兄様がどうかしたの?」
「いえ、なんでもありませんよぉ。ハインリヒ様とは最近どうですか?」
「どうって聞かれても、今まで通りよ?それより、お兄様から聞いたけど、あなた達密会してるそうじゃない?」
「お嬢様情報の共有をしているだけですよぉ。皇城での生活を伝えたり、逆に生徒会でのお嬢様の話を聞いたり……」
「なによそれ!ちょっと、アマラ詳しく――――――」
その後、注文した物も食べ終えた私たちは、店を出て皇城に向かって歩き出した。




