第38話 社交界デビュー計画
入学三日目。授業開始からは二日目。
解消されていない馬車渋滞を眺めながら登校する。
教室に到着した。さあ、イザベル様が絡んでくるだろうか?
身構えていたが、イザベル様は睨みつけてはくるものの、席でおとなしくしていた。
ほっとした私は席につき、授業の開始を待った。
今日の授業は、帝国の成立。昨日は、王国時代の東征までだったようだ。
それどころではなくて聞いていなかったが……フリードリヒのせいで。
カージフ帝国の成立。
南回りの東西交易路が完成後、カージフ王国の領土は現在の西部、南部、東部に及ぶ大国になっていた。
急激に拡大する領土の統治に苦心する王国に、突如北の隣国アスタウーナ王国が襲い掛かる。
国力で勝りながらも、準備不足で対アスタウーナ戦線は膠着状態に陥る。
そんな状態がしばらく続いていたが、転機が訪れる。シバ連合王国がアスタウーナを狙い、南下を始めた。
アスタウーナは南北二正面での戦闘を維持しきれず、カージフ、シバ両国の支配下に置かれた。
カージフ側からは、旧アスタウーナ南北分割を提案したが、シバ側が拒否。南下を継続した。
シバの強硬な態度を警戒した周辺国が、カージフの支援を開始。徐々に戦線を押し上げていった。
旧アスタウーナとシバの国境まで戦線を押し上げた頃、シバ側から休戦が提案される。
両国とも、長く続く戦乱に疲れ果てていたため、休戦が成る。
しばらくの平和を手にしたカージフは、国土整備に力をいれ、北回りの東西交易路を完成させる。
東西文化の中継地として繁栄していくカージフは、首都移転を計画する。
同時に、文化の中心という強みをティエラ教会に示し、教会本部の誘致に成功する。
旧王都アーティラから、新王都イストリアへの遷都が行われ、ティエラ大聖堂が建設される。
ティエラ教の守護者という地位を手に入れたカージフは、王制から帝政に移行。
現在のカージフ帝国が成立する。シバ連合王国との遺恨を残したままに……。
午前の授業が終わり、生徒会メンバーが食堂に集まる。
「テレーザ、十五歳になったが、成人祝賀会はいつ行うのだ?」
フリードリヒがテレーザに問う。それを聞いても私とフリードリヒは出席できないだろうけど。
「春の社交シーズンの終わり」
「なんでや!終わりにやったらこのシーズンの社交が出来んやん!」
「だから。夜会とか面倒」
成人祝賀会はデビュタントを兼ねている。
なので、祝賀会後は帝都の貴族滞在表に名前が載り、他家からの招待が届くようになる。
「そうか。テレーザらしいな。マリア、祝賀会とは別にデビュタントボールを行わないか?」
フリードリヒの提案に首を傾げる。別々でやることもあるが……けっこう稀である。
「デビュタントを早める理由は?」
「私たちは成人とともにその……結婚という話であろう?社交界での地位を固める前に結婚をしてしまうのは、得策だとは思えないからだ」
そういえばそうだった。二人が成人したら結婚の意思確認。そのまま結婚。
それだと、デビュタント直後に結婚。社交の時間などほとんどないだろう。
社交界での地位は、貴族の影響力に関係してくる。結婚のときに見下される可能性が高い。
「そうですね。お母様に相談してみましょう」
「そうだな。だったら、両家合同で大々的にやろう。春のシーズンの中盤には行えるはずだ」
ん?フリードリヒと合同?ってことは皇城で開催になるよね……。
レアなデビュタントボール+皇城開催=超目立つね!……はぁ、憂鬱だ。
フリードリヒの立太子に有利に働くだろうから、私も我慢して頑張ろう。
「テレーザ以外は皆、予定を空けておいてくれ。頼んだぞ?」
『はい』
その後、午後の授業も問題なく終わり、生徒会室での活動も終え、各自帰宅する。
「マリア、母上とサンドラに昼の件を伝えに行こう」
陛下もお母様も皇城でお仕事中だろう。
いつも通り、学校から皇城に向かうが、お母様を探すため文官エリアに立ち寄る。
お母様は宰相補佐官。宰相室にいる可能性が高い。
宰相室を訪れた私たちを、ベンヤミン様たちが迎える。
「殿下にマリア様、どのようなご用件ですかな?」
「少しサンドラと話したいことがある」
「部屋を用意させましょうか?」
「いや、聞かれて困る話ではない。ここで済ませる」
話を聞いていた他の補佐官たちに、テーブルに案内される。
用事を済ませたお母様も、テーブルにつく。
「殿下、私にお話とは一体?」
仕事モードのお母様。プライベートと違い、キリっとしている。
デキる女感がかっこいい!これはファンが多いわけだ。
「マリアのデビュタントボールを行う許可が欲しい」
お母様は少し考えた後、いくつかの質問をしてきた。
「殿下とマリアちゃんで合同で行うということですね?許可ということは、皇家主導で開催してもらえると?」
「そうだ。意図も理解してもらえているようだな」
「ええ。陛下に話を通していただけるなら、ナッサウ家としては問題ありません」
「それについては、今から母上と話をつけてくる。快諾してくれてありがとう」
お母様の許可が下りたため、陛下の下にも向かう。
「母上、私とマリア合同のデビュタントボールを行っても良いでしょうか?」
お母様同様、陛下も少し考えた後、返答する。
「わかった。許可する。時期はいつ頃を考えている?」
「なるべく早く。できれば今シーズンの中頃。一か月後を考えています」
「そうだな。若干強行気味な日程にはなるだろうが、大丈夫だろう」
「準備は任せてしまっても良いですか?」
「デビュタントを仕切るのは親の務めだ。任せておけ。そなたらは呼びたい招待客だけ伝えてくれればよい」
「よろしくお願いします。追加の招待客の名簿は、急いで作って持ってきます」
二人で礼を言い、退室する。
部屋に戻りつつ、招待客について話し合う。
生徒会メンバー、学校内の有力貴族家の令嬢令息あたりだろう。
フリードリヒが、とりまとめて名簿を作っておいてくれるそうなので、任せる。
私はいつものように、侍女の待つ部屋に戻る。
「ただいま、アマラ。私、デビュタントボールをやることになったわ」
「そうなのですねぇ。では、急いでドレスを仕立てましょう!」
やる気に満ち溢れすぎている侍女を落ち着かせるのに苦労をするのだった。




