第35話 ライバル出現?
朝の支度を終えた私は、フリードリヒと共に登校する。
昨日と同じように、校門前で生徒会メンバーが待っていた。
「おはよう。待たせて悪かった。それにしても昨日もあんな状態だったのか?」
フリードリヒが門前の馬車の列を指差す。
昨日は入学式、初日で遅刻はまずいとみんな早めに登校していたのだろう。
「ん。昨日もあんな感じ」
「別邸からここまで、距離もないんだから歩けばいいと思うんだけどなぁ」
レオンが呆れ顔だ。私も激しく同意する。
学校とは、登下校も重要だ!みんなでワイワイだったり、好きな人と二人甘酸っぱい雰囲気で……。
って、これは前世の話だ。この世界の貴族は恋愛結婚は少数派。
ましてや、学校なんてものもなかったから、登下校も通勤みたいな考え方なのかも……。
「別邸が近い者は、なるべく徒歩で通学してもらうようにお願いするしかないな」
朝から問題が発生し頭を抱えるハインリヒたちと共に校舎に向かう。
エントランスでクラスごと別れた後、各教室に向かう。
教室に入った私は、不意に呼び止められる。
「マリア様。わたくしを差し置いて殿下の婚約者に収まるとは……どういった了見なのかしら?」
イザベル様だった。朝から元気だなぁ……。
「ええと、私から望んだお話ではないのですが……」
「では、殿下から申し出があったと?魔力は多いらしいですが、所詮伯爵家程度の貴女に?」
皇族特有の見事な金髪のドリルを荒ぶらせながら問い詰めてくる。
隣で苛立ちが限界に達しそうなフリードリヒを手で制し、反論する。
「昨日も注意されたとは思いますが、まずは校内での身分差別をお止めください。あと、申し出は皇帝陛下からです」
「陛下からですって?嘘おっしゃい!皇族の多くは我が公爵家や名門侯爵家との婚姻がしきたり。それを破ってまで……」
こらえ切れなくなったフリードリヒが、イザベル様の言葉を遮るように口を出す。
「母上が申し出たのは本当だ。だが、そうでなかったとしても、私はマリアに婚約を申し出ただろう」
「なっ!わたくしの様な高貴な家の者ではなく、そんな小娘が良いと本気でおっしゃっているのですか!?」
ギロリと私を睨みつける。小娘って……この学校にいるのはみんな成体後でしょうに。
隣でフリードリヒが息を整え、なにかを言おうとしている。……嫌な予感がする。
「私、フリードリヒはマリアのことを愛している!マリアが婚約を撤回しないかぎり、結婚するのは絶対だ!」
キャアアアァァ!公衆の面前で何てこと言ってるのよ!しかも言い切って、すっきりした顔しちゃって……。
ほら、教室内が静まり返っちゃったじゃない……。穴が合ったら入りたい。ここから逃げ出したい……。
と考えていたが、ぽかんとしていたクラスの人たちが、徐々に正気を取り戻し賞賛を送り始める。
「フリードリヒ様!かっこいい!心まで男前です!」
「私もあんな風に愛されてみたいわ!マリア様羨ましいです!」
イザベル様はいまだに開いた口が塞がらないようで、立ち尽くしていた。
私たちは、その隙に席へと向かう。丁度そこに教師が入ってきた。
「お前たち、なにを騒いでいるんだ!さっさと席につけ」
その言葉に、騒いでいた面々やイザベル様が席についておとなしくなる。
ちらっと隣に座るフリードリヒを窺うと、目が合ってしまった。
「これでなにか言ってくる輩も減るだろう」
満足げな表情で、どことなく誇らしげだった。
私はいまだに顔が熱い!結果はともかく、やり方が問題だ!
公開愛の告白とか……どんな辱めよ……。
その後、初授業が始まったが、揺さぶられすぎた心のままの私は、ほとんど何も覚えていなかった。
――――――
午前の座学が終わり、昼休みになった。
この世界では昼食文化はあまり浸透していない。だからこそ、食堂建設をごり押しした。
だって……元日本人の私は昼ご飯が食べたかったから!
そんなわけで、生徒会メンバーで食堂で昼食を摂っている。
「昼に飯を食うなんて、新鮮だな!」
「これなら午後の実技も頑張れる気がするわ。あたしの商会でも真似しとこ」
周囲で昼食を摂っている生徒は少ないようだが、生徒会メンバーには好評なようだ。
当たり前か。六人中三人が転生者だからな。
周囲を観察し、昼食を摂っている面々の傾向を分析する。
「レオン君、昼ご飯食べてる人は武門の家の人が多いけど……なぜだかわかる?」
「そうだなぁ……たぶんだけど、三食食べることがあるからかな?」
「それはどういった時?」
「出陣してる時とか野外演習の時とか、あとは夜番の警戒任務の時かな」
そうか。食べられるときに食べておいて、戦いに備えるのか……。
だから昼食自体は珍しくても、三食食べるのは軍人にとっては珍しくないのか。
「そんなことより……噂で聞いたぜ!フリードリヒの話」
レオンとローズ、まさかのテレーザまでニヤニヤと笑っている……。
すでに全クラスに噂は広がっていそうだ。
「マリアの事を愛している!やったか?ホンマに言う奴がおるとはな」
それを聞いたフリードリヒが赤くなっている。今更だよ……。
「本当のことだ。言って何が悪い?」
「開き直った!すげぇ!ここまでくると尊敬するな!」
「その場に私もいれば……私も愛を叫んだのに……」
「それは駄目。みんなドン引き」
そうだろう……。皇子と実の兄が愛を叫ぶとか、どんな地獄絵図だ!
これ以上は駄目だ。私の繊細な心が耐えられない。
「はいはい。みんな、次の実技の服装は持ってきた?」
「ジャージ?やったか。これ動きやすくてええね。きっと儲かるで!」
「すぐ商売につなげる。よくない」
テレーザにたしなめられ、ローズが反省する。
昼食を終えた私たちは、男女に分かれ、更衣室でジャージに着替える。
その後、訓練場に向かうのだった。




