第31話 目まぐるしく過ぎる日々
それからの毎日は、光陰矢の如しとでも言うような早さで進んでいった。
まずは、お兄様の成人祝賀会。
春の社交シーズンが始まり、別邸では盛大なパーティーが開かれた。
実際は、成人を祝う場というよりは、結婚相手を見つける場という感じだが……。
お兄様を祝福したかったが、私の出席は許可が下りなかった。
自衛できる力がまだないこと、婚約発表が間に合わなかったことなど、様々な理由で……。
後日、生徒会室でお兄様にお祝いの言葉を送った。
その時に聞いた祝賀会の様子は壮絶だった。これは出席の許可が下りないわけだ。
”氷の貴公子”と呼ばれるお兄様、”黒真珠”と呼ばれる私、二人とも魔力は皇族級。そんな兄妹とつながりを持ちたいと思う貴族が多すぎた。
伯爵家の成人祝賀会とは思えない規模での開催となったそうだ。
私には想像ができる。お兄様の周囲に群がる女性。近づけまいと氷のオーラを振り撒くお兄様……。
私がフリードリヒ様に嫁ぐ可能性が高い以上、お兄様はナッサウ家を継いでくれる女性を探さなければいけないはずだが……。
真面目に探す気がなさそうなお兄様に聞いてみた所、本気なのか冗談なのかわからない答えが返ってきた。
「どこぞの令嬢を嫁に迎えるぐらいなら、アマラを貰うつもりだ」
確かにアマラは貴族。しかもそこそこ魔力も多いらしい。でも、あの性格だよ?私にべったりだよ?
ん?お兄様もだな。それによくいがみ合っているが……喧嘩するほど仲が良いのか?
わからん。まあ、決めるのは当人たちとお母様だ。考えないでおこう。
次に、私とフリードリヒ様の婚約について。
お兄様の祝賀会のすぐ後に、国の重鎮たちまで集まっての会議が開かれた。
婚約期間は約三年。二人が成人した後に結婚の意思確認。そして……結婚。結婚。大事なことなので二回言いました。
婚約の発表は一か月後。春の社交シーズンど真ん中。帝都に集まる貴族が一番多い時期に発表することになった。
ただ、婚約の賛否で大いに揉めた。保守派の貴族たちの反対がものすごかった……。
薄々は感じていたけど……国が割れるほどのことなんだろうな。
だけど、私は私の道を進むつもりだ。フリードリヒ様と共に、素敵な国を作っていく。
最後に、魔法学校プロジェクト。
これが大変だった……。途中、あまりの仕事の多さに生徒会の人数を増やそう、なんて話題も上がる程度には……。
まずは、入学希望者の数。正式な発表前にも関わらず応募が殺到。発表後はさらに追い打ちが。
上質な教育が受けられ、有力貴族とのつながりも作れ、世界的に注目されている。当然集まるよね……。
国内のほぼ全ての十二歳~二十歳の貴族が入学を希望する事態に陥った。
完全にキャパオーバー。そのため、二年目以降は対象年齢を十八歳まで引き下げることが決まった。
なので、初年度は十七歳~二十歳は全員入学。残った枠は入学試験が行われることになった。
きっと来年も忙しいのだろう……。上級学年の受け入れ準備があるからね。
次に、職員の選定。教師はフリードリヒ様が事前に集めていたので、追加で何人かに声をかけるだけで済んだ。
だが、それ以外の人員、食堂で働く人、備品管理や会計などの事務職、警備の人員、用務員などなど……。
貴族が通う学校のため、背後関係の洗い出しなどの必要があり、かなりの時間を要した。
完全な体制が整ったのは、開校の二か月ほど前だった。
最後に、教育カリキュラムの策定。学校の意義に関わるもっとも重要な部分だろう。
学校長に内定しているミリヤム様を筆頭に、教師陣と生徒会からの要望をすり合わせていく。
魔法技術の向上や貴族の基礎教育の部分は通年行う。
だが、各貴族家で求めている知識や技能が違うことが、議論を進めるうえで問題となった。
レオン様のような武門の家、私のような文官の家、ローズ様のような商家。
上級学年に上がる前にも、コースの選択制を導入すべき。
その意見により、基礎学年後半を、騎士科、官吏科、商業科の三科に分けることになった。
そのために、追加の教師が必要になったわけだが……。
また、校則も決められた。前世の記憶がある私にとっては当たり前のことばかりだったが。
法を犯さない、授業に必ず出席する、制服を着用するなど……当たり前でしょ?
だが、相手は貴族。授業をさぼったり、私服で登校したりするんだろうな。
だが、一番賛否が割れた校則は、学校内での身分差別撤廃だろう。
家格での上下関係を禁止する。皇族であろうが女爵家であろうが、ただの生徒。
きっと、問題が多発するだろう。だが、健全な学び舎には必須だろう。
入学試験と入学生の選考、基礎学年の校舎や別宅を帝都に持たない貴族のための寮の完成、職員の手配。
全てが終わるころには開校一か月前になっていた。
「マリア、制服は袖を通してみたか?」
「はい。フリードリヒ様も?」
「ああ。それにしても、様も改まった喋り方も必要ないと言っているではないか」
「あっ、そうだった。フリード君。これが私の最大の譲歩です!」
生徒会メンバーで校舎の下見に向かっている。登校のことを考え、徒歩でだ。
数か月前に自衛のための魔法訓練も終わり、やっと皇城からの外出の許可が下りるようになった。
魔法学校に通うために、魔法の訓練をする。おかしな話だが……。
「マリアちゃん!せっかくだし制服着てみせてよ」
「レオン、あんたどうせ、マリアちゃんの制服姿一番乗り!とかいうつもりなんやろ?」
「残念だったな。マリアの制服姿は私が最初に見たぞ。実に麗しい姿だった」
「ハインリヒ、ずるい!兄妹だからって抜け駆けは許せん!」
「はあ、テレーザ、あんたもなんか言ってやってん」
「ん。不毛な争い」
一年近く一緒に頑張ってきた生徒会のみんなとは、とても仲良くなった。
正直、癖が強すぎて上手くやっていけるか心配だったが……杞憂だった。
私とフリードリヒの婚約発表後も、変わらずに接してくれた。
大切な仲間たちだ。今ではこの出会いに感謝している。
「よし、学校に到着。どれどれ……いい感じだな!」
「ああ。上級学年の校舎や研究所の建設も順調なようだ」
学校に着いた私たちは、各々完成具合を確認していく。
エントランス、廊下、教室、私の割り当てを順番に回ってみたが、なんの問題もなさそうだ。
再度集合した私たちは、順番に報告をしていく。
結果、問題なし。よかった……これで開校できる。
「皆のおかげでここまでこれた。生徒会長として、プロジェクトの責任者として感謝する」
「なんや、そんな言葉は必要あらへん」
「ん。私たちはやりたいからやってる」
「そうですよ。それに将来義兄となる貴方のためにも……」
「ハインリヒ!茶化すなよ。それにお前が義弟とは、頭が痛くなるな」
「フリード君もお兄様も……。まだ結婚すると決まったわけでもないのですし」
『えっ?』
「えっ?あくまで婚約ですから。あれ?なんか変なこといいました?」
「マ、マリア?私は捨てられてしまうのか……?」
「ドンマイ殿下。捨てられたらあたしが拾ってやるわ」
『あはははは』
私たちは、笑いながら帰路についた。
一か月後の入学が待ち遠しい。大変なことも多いだろう。
だけど、それ以上に新たな出会いや発見が待っているはずだから!




