第28話 皇子と令嬢の告白
「お嬢様ぁ、いくら殿下とはいえ、この時間の訪問はまずいですよぉ」
「そうね。だけど、私がフリードリヒ様の部屋に行くよりはいいでしょ?」
「それはそうですけどぉ……」
心配する侍女に言い聞かせる。
きっと大事な話なのだと思う。万が一にも、誰かに聞かれてはいけないような。
しばらくして、ドアがノックされた。
侍女が来客を招き入れる。
「マリア嬢、まずは、このような時間に訪れたことを謝罪する」
フリードリヒ様が、丁寧なお辞儀をする。
侍女がお茶を準備してきたため、テーブルを挟む形で席につく。
「マリア嬢。今から話すことは母上、いや、陛下から口止めされていることだと言っておく」
「陛下が口止めしていることを私に?」
「ああ。君が当事者だから……私は禁を破る」
私が当事者?今日の魔力の話?
でも、あの直後にこの来訪を伝えてきたから、別件だろう。
「実は、君がこの部屋に匿われた直後に、母上は緊急会議を開いた」
「私の扱いに関してのですか?」
「そうだ。私や君の家族、宰相まで集めての会議だ」
フリードリヒ様やお祖母様たち、お兄様まではわかる。
だけど……なぜ宰相閣下まで?
「国として対応する、と考えられたのですか?」
「そういうことだ。そして、母上の発案は……私とマリア嬢の婚約だ」
「えっ!?」
婚約!?婚約ってあの……結婚の約束のだよね?
私抜きでそんな大切な話をしていたの……?
「当然私は反対した。君の意思を尊重したいからな」
「では、否決されたのですか?」
「いや。保留となった。サンドラ、ナッサウ家当主が到着してから決める。それまではこの話の口外を禁止された」
お母様の到着を急がせているのは、これが理由か。
「なぜ私に聞かせたのですか?」
「……君に考えておいて欲しくて。私との婚約を……」
それだけのために陛下の命に逆らったの?
「フリードリヒ様は反対されたのですよね?では、私との婚約は望んでいないということですか?」
「そんなことはない!私は貴女と結婚したいと思っている!私の隣には貴女がいて欲しい!」
え!?ちょっと待って!私たち……出会って一週間も経ってないよね?
それなのに、なぜここまで熱烈に?
確かに、フリードリヒ様と初めて会ったときには、運命のようなものを感じた気がする。
それをフリードリヒ様も感じていたの?
……顔が熱い。どこかに隠れたい。顔をあげられない……。
「すまない、取り乱した。だが、私の本心だ。反対したのは、君に押し付けたくなかったからだ」
彼の声には誠実さや優しさが詰まっている。
言っていることは、すべて本当の気持ちだろう。
だけど……このことを伝えたらどう思うだろうか?気持ち悪いと思うのではないか?
お兄様には知られるなと言われていたが……なぜか彼には伝えなければいけない気がした。
「フリードリヒ様に一つ伝えなければいけないことがあります。アマラにもしっかり聞いていてほしい」
二人は見つめあった後、深く頷いた。
「私には前世の記憶があります。この国より遥か未来の技術や知識の中で生きてきた記憶が……」
二人は驚いていなかった。さも当たり前のように聞いている。
「そのように得体のしれない記憶がある私でも、フリードリヒ様は受け入れていただけるのですか?」
きっと気持ち悪いと思うだろう。あるいは利用することを考えるのか?
そんな私の考えを見透かしたように、彼はゆっくり話し始めた。
「私からも一つ伝えたいことがある。私には、日本という国で生きていた記憶がある。私たちは似た者同士なんだろうな」
え?私以外にもいたの?フリードリヒ様も?
そうだ。今日だって寄生虫って、この世界の知識にないことを言っていた。
五歳で水道を帝都に普及するなんていうことをしている。
前世の記憶持ちだとすれば納得だ。
「フリードリヒ様はいつごろ記憶が?」
「私は生まれた時からだ」
「では、ほかに記憶を持っている方をご存じですか?」
「一人だけ知っている」
「誰ですか?私の知っている人ですか?」
「ああ。よく知っているはずだ。ハインリヒのことは」
お兄様も?だから……あんなにも私の夢のことを気にしていたのか。
では、なぜ私に教えてくれなかったの?
いや、それが普通か……。私だってお兄様に言っていない。
「いつ、お兄様も記憶を持っていると気付いたのですか?」
「謁見の後、私たち二人で話していたのを覚えているか?その時に打ち明けられた。そして私も転生者だと伝えた」
転生者。記憶を持って生まれ変わったのだから転生者と自称するのか。
それにしても、お兄様はなぜ自ら明かしたのだろうか?今度会ったら聞いておこう。
「アマラ、あなたも知っていたの?」
「はい……。ハインリヒ様に聞かされておりました。謁見の日の夜に」
「そう。貴女は私のこと気持ち悪いと思わないの?」
「思うわけがありません!お嬢様はお嬢様です!私の敬愛する主人です!」
「ありがとう、アマラ。私も、私の侍女はアマラだけよ」
二人だけの空気を作り出していた私たちの間に、フリードリヒ様が割り込んでくる。
「マリア嬢、君の不安は解消したようだ。なので、婚約のことを考えておいてくれ」
本題を忘れていた!そうだった……。婚約の話をしていたんだっけ。
「わかりました。ですが……陛下とお母様の間で取り決められてしまえば、私たちに拒否権はないですよね?」
「そうだ。だが、サンドラが断れば話が変わる。……だから、君の気持ちを母上やサンドラに伝えてほしい」
そう言った後、フリードリヒ様は逃げるように退室した。
私はどうすればいいのだろうか。いや、どうしたいのだろうか……?




