第29話 決断
日課の訓練と生徒会活動をこなしながら、一週間が過ぎていた。
あの夜、本心を吐露してくれたフリードリヒ様とは、なにもなかったかのように毎日を過ごしている。
と言っても、私がちゃんと振舞えているかは不安だけど……。
お兄様とも話をしたいのだが、結局話が出来ぬままに一週間が過ぎてしまった。
皇城に仮住まいの私と、別邸で生活しているお兄様。
会うのは生徒会室でのみ。周りにはたくさんの人がいる。
他人に聞かせられるような話ではないため、話をするタイミングを見つけられなかった。
アマラは、あの夜から少しおとなしい……気がする。
普段通りの奇行は相変わらずなのだが、婚約のことでアマラに意見を聞いた時の返答がおかしかった。
決めるのはお嬢様です。そう返されたのだ。普通の侍女であれば、正常な答えだ。
だけど、普段のアマラであれば、お嬢様が婚約など許しません!とか言うだろう。
そんな感じで、だれにも助言を貰えぬままに過ぎていった。
だけど、だれにも相談できなかったのは良かったのかもしれない。
私はマリアとして、私自身の人生の分岐点の選択をする。私が、私の未来を決めるんだ。
生徒会室にいた私のもとに、お母様の到着の知らせが届く。
別邸に寄らず、そのまま登城したらしい。
私は、お母様が待つ部屋に案内された。
「マリアちゃん!大丈夫だった?」
部屋に入った瞬間、お母様に抱きしめられた。
相当急いできたのだろう。服はよれよれで、髪もぼさぼさだ。
普段の凛とした美しさが鳴りを潜めている。
「お母様こそ大丈夫でしたか?全身ぼろぼろじゃないですか!」
「馬を何頭も乗り潰しながら急いだのよ。さすが私ね!」
疲れているだろうお母様を慮り、椅子に座って話すように促す。
「お母様、今の状況をご存じですか?」
「ええ。ハインリヒちゃんからの手紙に、貴女の魔力のこと、陛下が婚約に動くであろうことが書かれていたわ」
お兄様、抜け目ないな。というか、動くであろう?
会議前に早馬を送ったってこと?この状況を予期していたってこと?
「はい。現状はその通りです。ちなみに私は、婚約の話は聞かされていません」
「……そう。ということは、明日の話し合いで聞かされるのね」
「陛下と話し合うのですか?」
「あなたにも通達が来ると思うわ。マリアちゃんの扱いについて話し合いをすると、この部屋に案内されるときに言われたわ」
私の心は決まっている。それをお母様に伝えなければ。
「マリアちゃん」「お母様」
考えていることは一緒だったようだ。
「お母様、先にどうぞ」
「そうね。たぶん同じ話だと思うけど……マリアちゃんはどうしたい?」
「陛下やフリードリヒ様に直接伝えたいと思っています」
「そう。私は貴女の意思を尊重するわ。後悔だけはしないように選ぶのよ?」
「ありがとうございます!ナッサウ家に迷惑はかけないようにします」
「そんなこと、気にしなくていいのよ。どんな選択をしたとしても、私たちは貴女の、マリアちゃんの味方よ」
その言葉を聞いて、涙があふれてきた。
たぶん不安だったんだろう。だれにも相談できなかったことが。
たぶん心配だったんだろう。みんなに迷惑をかけてしまうかもしれないことが。
そして嬉しかった。私にすべてを委ねてくれたことが。
頭をなで続けてくれた。手綱を握り続けてぼろぼろな手で。泣き止むまで……。
――――――
翌日、私は会議室にいた。
陛下、フリードリヒ様、お母様、私。四人だけだった。
国とナッサウ家ではなく、陛下たち親子と私たち親子という形にしたかったのだろう。
そして、ついに始まる。私の人生の選択が……。
「まずは、サンドラに簡単に説明をしておきたい。マリアの魔力を知ったフリードリヒが皇城での保護を求めてきた」
「はい。殿下、陛下。娘を守っていただき、感謝いたします」
「うむ。その後、宰相たちと話し合いの結果、サンドラが到着するまでは現状維持という結論に達し今に至る」
「はい。ここからは今後についての話をするということですね?」
「そうだ。まずは我から提案がある。マリアとフリードリヒで婚約を交わしたいと思っている」
「それに関しては、当人同士の意見を聞いてから決めたいと考えています」
来た!私の気持ちをしっかり伝えなければ。
「そうだな。ではフリードリヒ。お前の考えから聞こう」
「私はマリア嬢を人生の伴侶に迎えたいと思っています。ですが、無理強いしたくはありません。マリア嬢の考えを優先します」
「以前もそう言っていたな。それにしてもお前が……。うむ、ではマリア。そなたの考えを聞かせてくれ」
国すらも揺るがすであろう大事。そう思うと怯みそうになる……。
だけど、お母様が、フリードリヒ様が、私の考えを尊重してくれる。
私は、意を決して話始める。
「陛下、少し長くなってしまいますが、お許しいただけますか?」
「かまわん。大事な話だ、すべて付き合おう。好きに語れ」
「はい。私はこれまで、狭い世界の中で、周りのみんなが整えてくれた環境の中で生きてきました」
お母様、お父様、お兄様、アマラ、使用人たち。みんなが私に与えてくれた。だから、満足していた。
「ですが、帝都への旅の中で多くの発見や出会い、問題に直面することもありました」
民の生活、街の賑わい。リューネブルク領では悪意に晒された。これが生きていくということだと思った。
「そして、陛下やフリードリヒ様の考えに触れました」
フリードリヒ様の夢。陛下の母としての願い。一人の人間として、みんな生きている。
「だから、私は決断しました。フリードリヒ様、私を婚約者にしてください!」
みんな最後まで真剣に聞いてくれていた。言っておいてなんだが……とても恥ずかしい。
そんな私を見て、陛下は嬉しそうにほほ笑んだ。
「マリアの考えはわかった。サンドラ、そなたも良いな?」
「はい。娘の、マリアちゃんの選択を支持します。大きくなったわね、マリア」
「私も、マリア嬢でよかったと再認識しました」
「フリードリヒ、振られるなよ?あくまで婚約だ。しっかりマリアを捕まえてみせよ」
「はい、母上。必ずや!」
その後、婚約期間や発表のタイミングを決める場を設けることが決まった。
解散後、私はある人を探した。




