第27話 魔力とは
いつものように中庭に向かう。慣れてきた自分に少し驚く。
中庭につくと、すでにフリードリヒ様たちが訓練を始めていた。
その傍らにはテレーザ様もすでにいた。
勝手なイメージで、研究者=朝が弱いと思っていたので驚いた。
「テレーザ様、お早いのですね」
「ん。殿下のを見てた。マリアも始めて」
私はいつものように、体内の”それ”に意識を向ける。
”それ”を体内で操り、身体強化を発動する。
そして、解除。それを何度も繰り返す。
初めの頃は、発動に数十秒かかっていたが、今では一秒もかからない。
その様子を観察していたテレーザ様が急に声をかけてきた。
「マリア、魔法を使う時、何を考えてる?」
とても答えづらい質問だ。感覚的なことを言葉にするのだから。
「ええと、血のなかにある”それ”を意識して、身体を強くしてって念じてます」
「血?それ?それって血液の中にあるの?」
あれ?なんか話が上手くかみ合わない。
私は魔法の使い方が間違っているんだろうか?
「血液の中に”それ”が住み着いてますよね?」
「……?それってのが魔力ってこと?」
「いえ。”それ”にお願いして魔力を作ってもらってます」
テレーザ様がどこからか紙を取り出し、書き込み始めた。
その様子を見ていたフリードリヒ様たちが話を聞きに来た。
「マリア嬢は血液の中になにかがいると思っているのか?」
「え?血液を意識しろって教えてくれたのはフリードリヒ様ですよね?」
その助言があって、私は”それ”に気付いたわけで……。
「そうなのだが……。私は魔力が血液に宿っていると考えているから、そう助言したんだ」
その言葉にミリヤム様が反応した。
「殿下、私は漠然と、魔力は体内に存在する程度に捉えていました。血液とは、あの赤い液体の血であってますよね?」
「ああ。傷付くと流れ出す、あの血だ。だが、私の考えとマリア嬢の考えにも若干の差があるようだ」
ミリヤム様はテレーザ様と同様に考えをまとめようと、黙り込んだ。
「マリア嬢。それについて教えてくれ。それは寄生虫のような認識なのか?」
寄生虫……この世界って顕微鏡あったかな?なんで寄生虫の存在を知ってるんだろ?
「そうですね。イメージとしては血の中にいる寄生虫って感じです」
「その寄生虫と意思疎通が出来るということか?」
「そうですね。ぼんやりとではありますが……」
それを聞いたフリードリヒ様は、目を閉じて集中し始めた。
長いこと考え込んでいたテレーザ様が問いかけてくる。
「マリア、習ったのは身体強化だけ?」
「はい。それだけです。今は習熟をあげるために反復練習しています」
「ん。右手だけに強化を集中できる?」
「たぶんできると思います。やってみます」
”それ”を右手に集まるように命令する。
そのまま強化を発動した。
「たぶんできてると思います」
「これ、思い切り握ってみて」
テレーザ様に石を手渡される。
半信半疑で強く握ってみる。バキッ!
石が砕けて粉々になっていた。
その音に気付き、ミリヤム様が叫ぶ。
「マリア様!それは部位強化です!身体強化を極めた方がたどり着く極致……」
「マリア、すごい」
ん?三日目にして身体強化を極めていたらしい。
すごく簡単な気がしたけど……?
「マリア嬢!私も”それ”を感じることができた!そうか、これが……」
やたらテンション高めのフリードリヒ様。掴めたようだ。
いろいろ試した後、冷静になったフリードリヒ様は険しい顔に変わった。
「マリア嬢、このことを私たち以外に話したか?」
「いいえ。私はこれが普通だと思っていたので話していません」
「殿下、やはりこれは危険では?」
「ん。私もそう思う」
なんか雲行きが怪しい……。そこまで重要なことなのだろうか?
「皇子として命令する。このことは私の許可が下りるまで、一切の口外を禁止する!」
『了解』
勢いで返事をしてしまった。
皇族としての命令ということは……国を揺るがすほどの事態。
私なにかやらかしちゃいました?
「ミリヤム女史、私たちの魔法訓練はしばらくの間、基礎の反復のみとしよう」
「そうですね。あまりにも魔法の習得が早いのは目立つでしょう……」
「一か月後に周囲の様子をみて、次のステップに進むようにしてくれ」
「そうですね。そのくらいであれば優秀と説明できるでしょう」
「テレーザ嬢、”それ”を認識できるようにしてくれ。その後は、ミリヤム女史と共に研究を進めてくれ」
「わかりました。このような研究に携われるとは、一研究者として最高の名誉です。はりきって頑張ります!」
テレーザ様が長文を喋っている!研究者モードに突入中らしい。
「マリア嬢、すまないが今晩予定を空けておいてもらえるか?」
「わかりました。私はどこにいればいいでしょうか?」
「君の部屋で話がしたい。アマラもいてもらって構わないから……」
家族以外が、若い女性の部屋に男性が入る。
本来なら断るべきだろうが……なにやら事情があるようだ。
「わかりました。今晩お待ちしております」
すまない、と何度も謝るフリードリヒ様。
さすがにこの状況で訓練を再開するのも気が引けるため、生徒会室(仮)に向かうことになった。
いつものように、いくつかの議題を処理した後、解散した。
――――――
日が沈み、すっかり空は暗くなっていた。
私と侍女はフリードリヒ様の来訪を待っていた。




