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第21話 マリアの考察と決意

 私は、普段よりも早く目が覚めてしまった。

 外はまだ薄暗いようだ。まるで私の心の中のように。

 寝起きの頭の回転はすこぶる悪い。でも、夏美だったときよりも遥かに思考がまとまる。


 私の心の中には、今日の魔力測定を楽しみにしていたマリアと、マコト君を失って悲しむ夏美が同居している。

 夏美の心だけだったら悲しみに押しつぶされていただろう。

 だから、私はある程度の平静を保てている。

 頭が冴えてきたから少し考えてみよう。


 今までの私は、夢の知識や経験を借りてきて利用するという感じだった。

 だが、今はその境目がなくなって、すべてが私であるという不思議な感覚だ。

 だから、夏美だったころのことを考えなくてはいけない。

 マコト君が好きだったか? 勿論イエス。

 マコト君と結婚したかったか? それも勿論イエスだ。

 じゃあ、マコト君は本当に私にプロポーズしてくれたか……?

 わからない。私が大事な話と聞いてプロポーズだと勝手に勘違いしていたのではないか?

 大学に通っていて四年間、私とマコト君は離れ離れだった。

 長期休暇で帰ってきたときはデートしたし、週一以上で電話で話した。

 だけど、普段のマコト君がなにをしていたのかはわからない。

 マコト君は努力家で、優しくて、かっこよくて女の子にもてる。

 私が知らないうちに、私以外に彼女がいたのでは?

 大事な話というのは……別れ話だったのではないだろうか?

 優しいマコト君のことだから、あの後黙ってしまったのは罪悪感と戦っていたのでは?

 夏美としては、この世界にきているマコト君と再会したい。そして確かめたい。マコト君の心を。

 あいつの言うことを信用するのは癪だけど、マコト君がこっちに来ているのは間違いない。

 現に私は転生しているから。それに、夢か現かわからないけど、マコト君の声が聞こえた気がしたから。


 ここからは今の私、マリアとして考えよう。

 マコト君の転生体と出会えたとして、マコト君にプロポーズの意思があったかを聞くべきか?

 答えはノーだ。もし別れ話だった場合、夏美としての心がきっと壊れる。心の平静が保てないだろう。

 では、マコト君の転生体を探すべきか?

 これもノーだ。手がかりがあまりにも少ない。男性か女性か?歳は?この国にいる?記憶を持っている?

 ネットどころか電話もないこの世界で、情報のない特定の一人を探し出すなど不可能だ。

 あいつは私たちの助けになるって言っていたけど、そもそもこの世界に来ているとも思えない。

 もし来ていても、世界を守るためなんて言って私たちを殺した奴の助けなんていらない!


 結論!私はマリアとして生きる!今度こそ、私と私の周りの人が幸せになれるように!

 考えがまとまったころ、ノックと共にドアが開かれた。


「お嬢様!なぜ起きているのですか!?どこか痛みますか!?」


 侍女が慌てて近寄ってくる。


「どこも痛まないわ。それにしてもどうしたの?」

「痛みはないのですね……よかった。お嬢様は昨夜のことを覚えていないのですか?」


 昨夜のこと?帝都にしばらく滞在すること?疲れて眠ってしまったこと?


「覚えていないようですね。ならば問題ありません」


 ちょっと!勝手に自己完結しないで頂戴!


「私になにかあったの?」

「いえ、なにもありませんでしたよ」


 アマラの口調が素に戻ってるということは、心配するほどのなにかがあったのだろう。

 でも、私に知らせないほうがいいと判断したということ。ならば私は知らないほうがいいのだろう。


「わかったわ。なにも聞かない。眠気も飛んでしまったから身支度を始めちゃいましょう」

「えっ?お嬢様ぁ、もう一度眠っていただけませんか?私の日課がぁ……」


 なんで、もう一度眠らなきゃいけないのよ。しかも日課ってなに?

 駄々をこねる侍女に催促し、準備を整えた私は、ゆっくりと大聖堂に向かった。


――――――

 

 大聖堂の外観は、帝都を散策した時に遠目で見てはいた。

 だが、近くで見ると……前世のケルン大聖堂をさらに大きくしたような、壮大で荘厳な建物だった。

 この世界の技術力を越えている気がするが、魔法のある世界だ。足りない部分は魔法で補っているのだろう。

 内部に入ると、また驚いた。皇城の豪華さとはまた違う。神聖な空間が広がっていた。


「ナッサウ家のマリア様ですね。準備などに少々時間を頂いておりますので、お掛けになってお待ちください」


 準備されていた豪華な椅子に腰かける。

 目の前では、祭壇のような物の準備が進められていた。

 周囲を見ると、皇族以外の人間が大聖堂で魔力測定を行うという珍事を見学しようと、人が集まってきていた。


「アマラ、お兄様はどこに行ったの?」

「ハインリヒ様は早くから皇城に登城されました。クリームヒルデ様たちの退官を殿下にお願いしに行ったようです」

「お兄様、行動が早い。フリードリヒ様の側近のような立場になるのがうれしいのかな」


 意外だ。お兄様に出世意欲があったなんて。


「マリア様、そろそろ準備が終わりますので、段取りを説明させていただきます」


 神官に測定の順序などを説明してもらう。血を垂らすのか……嫌だな。


「お待たせいたしました。これより魔力測定の儀式を開始します」


 観衆がざわめく。進行役の神官が使徒様のありがたい話をしているが……だれも聞いちゃいないな。

 説明にあった通り、私は祭壇前までゆっくりとした歩調で進む。

 目の前の威厳のあるおばさま、大司教猊下が測定装置を操作している。


「マリア様、準備が完了したので、測定を開始してください」

 

 私は、祭壇にあるナイフで指先を軽く切り、装置に血を垂らした。

 この装置、前世で病院にあったような機械類と似てるな。


「結果が出ました。マリア様の魔力は……一万を超えています!先日のフリードリヒ殿下と同等の数値です!」


 え!?ちょっと待って!私の魔力も国内最高ってこと?

 周囲からとんでもない歓声があがる。貴族もいたようで、すぐに私は取り囲まれる。


「ハインリヒ様、こういうことでしたか……。しっかり守り切らせていただきます!」

「アマラ、助けて!きゃぁ、引っ張らないでぇ!」


 人混みから主人を助け出そうと突入を試みる侍女であったが、あまりの人の数になかなか前に進めない。

 そんな時だった。


「マリア嬢!大丈夫か?道を開けろ!」

『フリードリヒ殿下!?』


 殿下の乱入に驚いた人混みは二つに割れ、見事に道を作っていた。


「マリア嬢、行くぞ!」


 フリードリヒ様に手を引かれ、私は無事に大聖堂から脱出することができた。

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