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第20話 皇子と兄と妹と

 深夜、目が覚めた。

 あまりにも苦しい記憶と共に。


「いやぁぁぁぁぁ!」


 部屋に響く私の悲鳴。


「大丈夫だよ、なっちゃん!俺がそばにいるから、大丈夫!」

「マコト君?よかった。生きてたんだね……」


 安心した私はふたたび眠りに落ちた。


「ハインリヒ、これでよかったのか?」

「ありがとうございます。フリードリヒ様」


 魔力が暴走しかかっていたマリアを、二人の魔力で抑え込んだ。

 その後、マリアを安心させ事なきを得たようだ。


「私ひとりではどうにもできませんでした。でも、よろしいのですか?」

「ああ。私が宍戸真だということは黙っていてくれ。私たちと違い、マリアはマリアとして今まで生きてきたんだからな」

「そう……ですね。ですが、名乗り出ることで夏美さんの心は救われるのでは?」

「そうだな。だが、なっちゃんと俺の人生はもう終わっているんだ。私は、マリアと私の物語を描いていきたいからな……」


 そう言って、フリードリヒは帰っていった。


「どういうことなのですか?説明していただけますか?」


 フリードリヒと入れ替わりでアマラが部屋に入ってくる。


「アマラ、起こしてしまったか」

「お嬢様の悲鳴が聞こえて、飛び起きました。部屋の前でフリードリヒ殿下とすれ違いました。マリアを頼むと」

「そうか。フリードリヒ様に頼まれたのなら……説明しなければいけないな。ついてこい」


 落ち着きを取り戻して眠っているマリアのために、二人はハインリヒの部屋に移動した。


「マリア、フリードリヒ様、私は前世の記憶を持っている」

「前世……お嬢様の夢のお話と関係が?」

「ああ。私と殿下は生まれた瞬間から前世の記憶を持っていたが、マリアは違っていた」

「それが時折見る夢だったということですか?」

「そうだろうな。マリアは前世の死の間際、ひどく悲しみ絶望していた。だからだろうか、記憶を封印するような形で生まれてきたのだろう」

「それほどまでの悲しみ……。いったいなにがあったのですか?」

「結婚するはずだった愛する男が死んだ」

「そ、それは……さぞかし無念だったと思います。相手の男性も……」


 ハインリヒは苦し気な表情をする。


「だろう……な」

「先ほどのお嬢様の悲鳴は……まさか!」

「そうだ。すべて思い出したと思う」

「お嬢様は大丈夫なのですか!?」

「ああ。そのために殿下に協力していただいた」

「なぜ殿下に?まさかとは思いますが、殿下がその男性なのですか?」

「そうだ。私ではマリアを落ち着かせられないと思って、助けを求めた」

「殿下とハインリヒ様は今日が初対面だったはずですが……なぜその男性だと?」

「殿下が優秀すぎたからだ。私たちの前世は技術が遥かに進んでいるからな」

「確かに。ですが、前世の記憶をもっている証明にはなっても、その男性と断定する理由にはならないのでは?」

「お前は本当に賢いな。すべてを話すわけにはいかないが、私は転生者が三人だけだと知っているんだ」

「そうですか。理由と話せないことがあるというのは理解しました。あと、前世の記憶を持つ人を転生者と呼ぶのですね」

「すまないな。ああ。正式な言葉ではないだろうが、前世の記憶を持つなんて毎回言うのも面倒だからな」

「そうですね。では、最後に。あなたの前世はどのような方なのですか?」


 ハインリヒはとても困った顔をした。


「前世の二人をよく知っている。だが、前世の二人は私のことをほとんど知らない。そんな関係の人間だ」

「よくわからない関係ですね……」

「ああ。言っていて私もそう思ったよ。だが、私は二人が今世で結ばれるように助けなければいけないんだ」

「難儀なことですね。貴方はそれでいいんですか?」


 侍女はニヤリと笑う。


「なんのことだ……?」

「お嬢様のこと、愛しているのでしょ?」

「なにを言っているんだ!私は兄としてマリアを可愛がっているだけで……」


 ハインリヒの顔は赤く染まり、言葉尻のほうは聞き取れないほど弱弱しかった。


「お嬢様を見つめる眼差しが本当に兄妹の親愛の情だとしたら、世界中の夫婦や恋人はみんな兄妹になってしまいますね」


 ハインリヒは全身赤く染まるのでは?と思うほどに真っ赤だ。


「このままでは氷も溶けてしまいそうですね。”氷の貴公子”様」

「もう……やめてくれ……アマラ。だがこればかりはどうにもならないだろう!血のつながった兄妹だ」

「そうですね。ですが、結婚だけが愛のカタチではないですよね」

「そうだな……。ありがとう、アマラ」

「どういたしまして。では、明日はお嬢様の魔力測定で忙しいでしょうし、そろそろ……」


 そういって部屋に帰ろうとした侍女にハインリヒが声をかける。


「アマラ、大聖堂ではしっかりマリアを守ってくれ。任せたぞ!」

「はい?なにかあるのですか?それにハインリヒ様はご一緒ではないのですか?」

「間違いなく騒ぎになる。私は登城して、お祖母様たちの帰領の旨を殿下にお願いしなければいけないからな」

「騒ぎに?なぜですか?」

「マリアの魔力は膨大だからだ」

「は?なぜそのようなことがわかるのですか?」

「私がそうしてしまったからだ。お前をマリアが助けたときのことを覚えているか?」

「ええ。私をかばって大怪我をしたお嬢様が、一命を取り留めたときのことですね」

「そうだ。あの時は私も無我夢中だったが、マリアが夏美さんだったと気付いた時には、結果的に最高だと思ったな」

「ハインリヒ様?なにを言っているかよくわからないのですが」

「まあ、アリーセ嬢の前ではああ言ったが、殿下の切り札はすでにあるんだ」

「はあ。まったくわかりませんが、お嬢様の警護ならお任せください」

「任せたぞ。援軍は出すつもりだがな」

「はい?とりあえず、おやすみなさいませ」


 そういって侍女が部屋をあとにする。


「陛下が真さんでなくてよかった。女性同士ではさすがに困ったからな」


 皇族に嫁がせて、近くにいさせてあげることしかできなかっただろう。


「フリードリヒ殿下が真さんというのは、とても助かったな」


 真さんに一番必要な女性は、マリアであり夏美さんである私の最愛の妹なのだから。


「私情を捨てろ。贖罪すると誓ったじゃないか」


 ハインリヒは決意を固めた。

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