第19話 マリアとナツミ
私たちが別邸に戻ったころには、すでに日も沈みかけていた。
帰りが遅いのを心配していたみんなが、屋敷のエントランスでそわそわしながら待っていた。
結構話し込んじゃったからな。
でも、陛下の願いやフリードリヒ様の思いを聞くことができた。
立場は違っても親として、一人の人として考え、悩んでいる。
天上人のように思っていた人たちの人間らしさをしって、少しほっとした。
「お嬢様ぁ、いつまでたっても帰ってこなくて心配しましたよ!」
「そうね。アマラったら、お嬢様を助けに行きますって言って皇城に突入しようとしてたわね」
「お前たち、いったいどこにいたんだ?仕事の合間に謁見の間へ確認に行ったら謁見が終わっていたが」
取り囲まれた。とりあえず落ち着いてください……。
皇城では緊張の連続で気付かなかったが、とてもお腹が減っている。
「ただいま帰りました。心配かけてすいませんでした。お話は夕食を食べながらでも?」
「そうよね。いきなりいろいろ聞いちゃってごめんなさいね」
「それに今日はマリアの成体の日だからな。夕食は期待していろよ」
お祖父様……もしや、物量作戦第二弾ですか?
腹を括るしかないか。いや、お腹がポッコリで括れないのか?
「お嬢様ぁ、まずは普段の恰好に戻しちゃいますねぇ」
そう言う侍女に引っ張られていき、素早く着替えを済ませた。
よほど心配だったのだろう。いつも以上にまとわりついてくる侍女を適度にあしらいつつ食堂に向かった。
『マリア(ちゃん)、成体おめでとう!』
食堂に着くなり祝福された。
恐る恐るテーブルの上の料理を確認する。よかった、人並みの量だ。
量より質で勝負してくれたらしい。安堵し席につく。
「ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
成体したということは、魔力測定を終えれば魔法を使える。
魔法学校開校までは一年あるので、最低限は練習しないといけないな。
「ハインリヒちゃんから聞いたけど、こっちにいる間はずっと登城するんだって?」
お兄様が説明を終えてくれていたようだ。
「はい。フリードリヒ様のお手伝いをすることになると思います」
「殿下に名前呼びを許されたか。お前たちすごいな!」
「そうね。それでね、相談があるの。二人ともしばらく帝都に滞在しない?」
え?私はともかく、お兄様が帰らないと領政を仕切ってるお母様がこっちに帰れないんじゃ?
「母様がこちらに帰ってこられなくなると、宰相補佐官の職に不都合があるのでは?」
「ハインリヒちゃん、せっかく孫たちが皇子殿下のもとで働けるかもしれないのよ?」
「そうだぞ。わしらをもっと頼らんかい!わしらがナッサウ領に戻ってやろう」
お祖母様は先代当主。領政を仕切るのは慣れている。お祖父様も、長い間お祖母様を支えてきた。
でも、二人とも皇城での仕事があるはずだけど?
「教育係や財務卿補佐の仕事は大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃなきゃダメでしょう。私たちのような老人に頼らなきゃいけないほうがまずいのよ」
「そうだぞ。わしらもいい歳なのだ。中央での引退が少し早くなっただけだ」
「そういうことなら、フリードリヒ様に伝えておきます。母様にも早馬を送って、帝都に向かってもらいましょう」
「久々の故郷。楽しみだわ」
「さっさと引継ぎを終わらせて、領地に引きこもらせてもらうとするか」
なんだか大事になっちゃったけど、よかったのかしら?
まあ、お祖母様たちも喜んでいるんだし、よかったと思うことにした。
――――――
食事を終えた私は、部屋で待っていた侍女に今日の出来事を報告した。
「お嬢様ぁ、陛下や殿下はどんな人でした?」
「陛下は威厳があるけど優しい人。フリードリヒ様は……」
なぜか胸が苦しい。言葉に詰まってしまった。
「お嬢様、大丈夫ですか?お疲れならすぐに横になりましょう!」
「そうね。いろいろあって疲れているんでしょうね」
侍女が急いでベッドを整える。
私はベッドに横になり、途中になっていた言葉の続きを呟く。
「とても立派で、優しくて、強い。素敵な人だったわ。まるで……」
マリアは優しい顔で眠りについていた。
――――――
「えっ!?マコト君が?嘘!?なんで!?」
あまりにも突然のマコト君の訃報を聞いて、私の心は悲鳴をあげた。
あまりの出来事に私は大学で倒れ、病院に搬送された。
しばらくして私は目を覚ました。
「マコト君……。なんで死んじゃったの?この間は元気だったじゃん……」
思い出話をして、その後は出世できるって喜んでた。
大事な話があるって言ってたじゃん!
「私、大事な話、楽しみにしてたんだよ!なのに……どうして?」
「貴女が周防夏美さんですね?」
急に病室に現れた全身黒ずくめの男。
「真さんには申し訳ないですが、消えてもらいました」
なにを言っているの?この人がマコト君を殺したの!?
「なんで、なんでマコト君が死ななきゃいけないの!?ねぇ!なんで!」
「世界を……守るためです。いや、でした」
「は?意味わかんないよ!人を殺して世界を守る?ふざけないでよ!」
「そうですね。結局世界は守れなかったようです……」
「じゃあマコト君は無駄死にってこと?マコト君を返してよ!マコト君を……」
涙でぐしょぐしょに濡れ、叫びすぎて声も枯れかかっていた。
「返すことはできません。ですが、同じところに送ることならできます」
「今すぐ……やって」
「わかりました。俺もあなた達の助けとなると誓います」
爆発音とともに意識が混濁していく。
「真さん、夏美さん。あなた達への贖罪は必ず……」
――――――
すべて思い出した。思い出してしまった……。




