第17話 謁見と母の願い
帝都三日目、謁見当日。
「お嬢様ぁ、アマラは心配にございますぅ」
「大丈夫よ。取って食われるわけじゃないのだし……たぶん」
「そ、そうですよねぇ。お嬢様が美しすぎるとしても、ゲヘヘ、俺の女になれ!とか流石に言われませんよねぇ」
それは第一皇子殿下の真似?不敬にもほどがある。
男は狼という言葉はあるが、それではまるで野盗でしょ。
「軽く陛下からお言葉を頂いて、皇子殿下とお話しするだけじゃないかしら」
「そうですねぇ。でしたら、お馬鹿さんの時よりも綺麗に飾り付けしてしまいますね!」
リューネブルク侯爵=お馬鹿さんはデフォになってしまったのか。
まあ、本人の前では言わないだろうしいいいか。……言わないよね?
「陛下や皇子殿下に笑われないようにして頂戴」
――――――
マリア(謁見仕様)にチューンナップされた私たちは、皇城のエントランスで待機している。
どこを見ても豪華!壁や柱の彫刻も見事としか言えない。あの絵画一枚でおいくらなのかしら……。
そして広い!戦闘訓練しても問題ない広さだ。しないけどね。エントランスだけでこの広さか……。
いろいろと規格外な皇城に驚いている間に、係の者が案内にやってきた。
「ナッサウ伯爵家マリア様、ハインリヒ様ですね。ご案内いたします」
さすが皇城の使用人。所作が綺麗だ。
塵一つない長い廊下を進み、目の前に荘厳な門が現れる。扉というには大きすぎる。ここは屋内では?
門の前で停止した使用人は、名前が呼ばれたら入室するよう言って、門のそばに控えた。
「マリア、作法についてはなにも言わない。だが、口には気をつけろ。下手なことだけは言うな」
「わかりました。余計なことは口走りません」
深く深呼吸をする。よし!勝負だ!
どこかから私たちの名前が呼ばれ、門が開いた。
私たちは顔を伏せ、綺麗な絨毯をみながら前に進む。
静かだった。静謐な空間だ。自分の心臓の音すら聞こえそうなぐらいに。
適当と思われる場所で停止し、片膝をつき、頭を垂れた。
「よくぞ参った。面を上げて、名を申せ」
声だけで委縮してしまいそうだ。これが大国カージフを背負っている皇帝の威厳。
顔を上げ、陛下を見上げる。碧眼に金髪、ウェーブロングの髪がキラキラ輝いて見える。
「ナッサウ伯爵家マリア・フォン・ナッサウと申します。お目にかかれて光栄です」
「ナッサウ伯爵家ハインリヒ・フォン・ナッサウと申します。ご尊顔を拝する機会を頂き、感謝申し上げます」
「そなたらは成人前と聞くが、淀みなく名乗るとはな。そなたらより先にきた者たちは、委縮して聞けたものではなかったぞ」
陛下の大きな眼が、スッと細められた。こちらを見定めているのだろうか。
それにしても、静かだった理由がわかった。
この広い謁見の間にいるのは、陛下、私たち、近衛が数人。
呼び出した張本人の第一皇子殿下すらいない。
謁見ってこんなだっけ?
「そなたらは肝も据わっているようだな。威圧するつもりで視線を向けたが、意にも介さず周辺を観察するとはな」
「申し訳ありません!なにぶん初の拝謁で勝手がわからず……」
「よいよい、気にするな。それに、これはそなたらだけの特別仕様だ。本来ならもっと人がおるよ」
私たちだけ?私たちなんかやらかした?
もしかして……捕縛されて牢屋行きとか……?
「陛下に特別扱いされるような覚えがございませんが、どういったお考えがあるのでしょうか?」
お兄様、丁寧には言ってるけど、陛下になんで特別扱いされんの?なに考えてんの?って言ってるよね……。
口に気をつけろって言ったのお兄様なのに!
「本当にそなたらはしっかりものを申せるな。我が側近に欲しいくらいだ」
そういうと、陛下から感じていた威圧感が鳴りを潜め、やさしく語り始めた。
「そなたらはな、フリードリヒに気に入られたらしい。あの子の従者から聞いたんだがな」
ん?私たち皇子殿下と会ったことないよね?
「あの子はとても優秀だ。優秀すぎると言ってもいい。すでにその才覚は我をも超えているだろう」
よく存じ上げています。”完璧皇子”の噂は。
「人を扱うのも上手い。だが、人に興味を抱くことはほとんどない。対等に接することができる者がいないのだろう。我にも経験がある」
でしょうね。陛下も皇子殿下も、立場だけでなく能力も抜きんでてるからね。
「あの子が興味を示した者がいると聞いた時、我は驚いた。しかも、その者たちが我に会いに来ると聞いてチャンスだと思った」
チャンス?私たちは戦々恐々としながらここに来ましたけどね。
「見定めて、適ったのなら願いを聞いてもらおうと」
「私たちは合格なのですか?」
「ああ。合格だ。我の願いを聞いてくれるか?」
なにをお願いされるのかわからない。すごく恐いが、拒否することはできないだろう。だって、皇帝のお願い拒否とか、打ち首待ったなしじゃん。
二人して深く頷いた。
「身構えているようだが安心してくれ。これは皇帝としてのお願いではない。母としてのお願いだ」
陛下はニコリと笑っている。優しい母の顔だった。
「あの子を支えてあげて欲しい。あの子の夢の手助けをして欲しい」
とても過分なお願いだと思う。殿下の描く夢もわからない。
でも、あの威厳の塊のような陛下が、一人の親の顔で頼んできたのなら……。
断るなんて野暮な真似はできないな。
『承りました!』
お兄様も同じこと考えてたのだろう。見事に重なってしまった。
「ありがとう!恩に着る」
陛下が頭を下げた。本来ならとてもまずいことだろうが。
「あの子が別室で待っている。よろしく頼む」
陛下に促され、私たちは謁見の間を後にした。




