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第12話 幼馴染

 ここ最近は旅に慣れてきたと思う。

 毎日違うベッドで目を覚まし、知らない味の食事を済ませて馬車に乗り込む。

 帝都への旅程も残り三日ほどまで来た。

 一週間以上この生活をしてきたのだから慣れもするだろう。

 長時間の馬車の移動でもお兄様とアマラが話し相手になってくれるので、退屈することはなかった。

 だが、今日は違った。

 静寂の空間。誰一人口を開かない。

 お兄様は、侍女からの報告を受けたのだろう。ずっと考え込んでいる。

 侍女は、チラチラとこちらを見ながらも、声をかけるのをためらっている。

 私は、お兄様への報告を拒否した後ろめたさで話しかけられずにいる。

 この旅は急いではいない。だけど、のんびりもできない。

 頻繁に馬を換えるほどではなく、だけど途中の町や村に立ち寄ることもない。昼ご飯の文化もない。

 なにが言いたいかというと、その日の目的地に着くまでは、馬車が止まることはないということだ。

 止まってくれれば、なにか非常事態が起こってくれれば、それをきっかけに会話につなげられるのに!

 無情にも、とても快調に無言の馬車は進んでいった。

 

――――――


 領都リラスパッツの城壁が見えてきた。


「皆さま、リラスパッツが見えてきましたわ」


 最初に口を開いたのはおかしな口調の侍女だった。なぜお嬢様言葉?

 まあいい。お前は勇者だ。よくぞこの沈黙を打ち破った!


「ええ、やっと着いたわね。とても長く険しい道のりでした……」

「そうか?いつもより距離も短く、モンベリアル領の道路の舗装は素晴らしく快適だったと思うが」


 そうだった。お兄様は、普段から領内の様々な街に一人で移動している。

 沈黙の馬車が当たり前だった。


「そうでしたね……。それにしてもすごい数の荷馬車ですね」


 市門の前には馬車の渋滞が出来ていた。

 モンベリアル領に入ってからは、すれ違う馬車の数が増えた気がしていたが……ここまでとは……。


「心配しなくてもいい。貴族は列に並ぶ必要はない」


 列の横を何事もないかのように進んでいくのことに罪悪感を覚える。

 だが、列にならんでいる人からの非難の声も視線もない。

 これが当たり前なのだろう。貴族が特別であるということを再認識した。

 門をくぐると、その異様な熱気に驚く。

 多くの店舗が軒を連ね、露店や屋台の数もベルンより遥かに多い。

 馬車が行き交うことを想定しているであろうメインストリートは、道幅がとても広くとられており、舗装も丁寧で揺れも少ない。

 さすが帝国が誇る商業都市。モンベリアル伯爵様の商業への熱意を感じる。

 

――――――


 街の様子を眺めている間に、伯爵邸に到着していた。

 伯爵家一同が屋敷前で出迎えてくれた。

 馬車から降り、モンベリアル伯爵様に挨拶をしようと進み出た私は、側方からの奇襲を受けた。


「マリア!久しぶり!」


 長身で南方系の少し黒みがかった肌の女性が、興奮した様子で私をぎゅぅぅっと抱きしめている。

 強い、強い!潰れる!


「アリーセ様!苦しいです……私を絞め殺すつもりですか?」


 アリーセ様は行商隊を率いるだけあって腕っぷしが強い。

 魔力で強化することなく荷役を軽々こなすほどだ。


「悪い悪い。久しぶりでつい力が入っちまったよ」

「チッ、お嬢様が苦しんでいます。いいかげん離れてください」

「腹黒侍女も久しぶりだな!相変わらずマリアの前ではかわい子ぶってんのか?」

「うるさいですよ。黙りなさい」

「言うねぇ。あたしはこれでも伯爵家の二女様だぜ?」

「貴女は金儲けがしたいからって言って継承権捨ててるでしょう!それに私も女爵家の三女よ」

「継承権は凍結しただけで放棄はしてねぇよ。それに貴族籍は捨ててねぇ」


 モンベリアル伯爵様に挨拶とお礼を済ませたお兄様が、やれやれと言いたそうな表情で近寄ってくる。


「女性が三人集まるとかしましいというのは本当だな」


 えっ、それ私も含まれちゃってるじゃない。

 私は絞め殺されそうになってただけで、騒いでたのは怪力と腹黒だけです!


「おっ、リヒ坊も相変わらずイケメンだな。敏腕っぷりは商人の間でも有名だぜ、”氷の貴公子”さま」

「アリーセ嬢も相変わらずですね。いいかげんリヒ坊はやめてくれませんか?五歳しか離れてないですし」


 アリーセ様の前では、お兄様も小さい子供のようだな。

 他家のご令嬢の前では氷の仮面を被り、孤高のオーラで圧倒するあのお兄様がだ。

 まあ、私も含め幼馴染なのだからこんなものか。幼馴染か……。


「五歳も離れてるんだよ。リヒ坊もマリアも、昔みたいにお姉ちゃんって呼んでくれていいんだぜ?」

「お嬢様のお姉ちゃん枠は私です!」


 勝手に変な枠を作らないでください。

 それに侍女を姉に持った覚えはない。たまに妹なのかと思うほどじゃれついてくることはあるが。


「お姉ちゃんはさすがに恥ずかしいので、お姉さまと呼んでいいですか?」

「まあマリアもお年頃だしな。お姉さまで手を打とう」

「私は?」

「アマラはアマラでしょ。それ以上でもそれ以下でもないわ」


 またかしましくなってきた私たちを見て、お兄様はハァァと大きくため息をついた。


「アリーセ嬢、そろそろ屋敷内に案内してもらえないだろうか?」

「お姉ちゃんな?」

「アリーセ嬢、そろそろ屋敷内に……」

「はいはい、わかったよ。ついてこい」


 そう言って肩をすくめたお姉さまに案内された屋敷内は、洗練された美しさだった。

 リューネブルク侯爵邸のように、金にものをいわせた豪華さではない。

 選び抜かれた名品が上手く調和した、それは見事な空間だ。


「あっ、そうだ。夕飯食い終わったら、全員あたしの部屋に集まってくれよ。いいネタ仕入れてんだよ」


 商売人らしい見事な笑顔だった。

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