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第11話 覚悟と掴めぬ乙女心

 一夜明けて、また出発の時間がやってきた。

 侯爵邸前には、馬車とそれを見送る多くの人が集まっていた。

 到着の時との差に驚く。


「昨日のパーティー出席者までいるな」

「みんなお嬢様に魅了されたんですねぇ」

「どうせリューネブルク家よりもナッサウ家に与したほうがいいだろうっていう打算でしょうね」


 適度に挨拶を終え、再び目的地帝都へ向け馬車は走り出した。

 

――――――


 その日はリューネブルク領の別の街の代官屋敷に宿泊した。

 領都ハイネスブルクや道々の町でも感じたが、ナッサウ領に比べて雰囲気が重い。

 落ち目だという侯爵家。それを肌で感じていた。

 

――――――


 驚くほどなにもなく領境についた。

 やはりこっち側の関所も無駄に立派だった。


「マリアの目にリューネブルク領はどう映った?」


 ナッサウ家次期当主としての回答を求められている気がする。


「領全体に元気が無いように見えました。町々で見た農民も日々をただただ過ごしているだけ、領都の中央通りも人はまばらで活気がない。でもお屋敷だけは豪華絢爛で……その対比がより明暗をはっきり分けていたように感じます」

「では、マリアならどうする?」


 とても難しい質問だと思う。

 雰囲気では掴めているが、正確な情報は一つもない。夢の知識を使おうにも、なにを使えばいいかがわからない。


「どうすればいいかはわかりません。ですが私なら、データを集めて問題を洗い出してから考えたいと思っています」

「それが正解だよ、マリア。どれだけ優れた知識をもっていても正しく使わなければ意味がない。地道に問題に向き合ってきた我が家と、上辺だけ取り繕ってきた侯爵家の差が、領民の顔を見るだけですぐわかる」


 リューネブルク領ではいろいろあったが、良い経験になったな。

 領民を想い、領民に想われる。

 そんな貴族になりたいと思う。


「それにしても、お馬鹿さんはこのまま選帝侯を続けられるんですかねぇ?」

「どうだろうな。今回の騒動も侯の評判を下げ、私たちの評判を上げてしまったからな」

「アンスバッハ辺境伯様が声を上げれば選帝侯の座は辺境伯様で決まりでしょうね」

「辺境伯の心次第だな」

 

――――――

 

 関所を越えた後も順調な旅路だった。

 植生や気候もナッサウ領とはずいぶん違ってきた。

 東部高原地帯から帝国の多くを占める大平原地帯に近づいてきたからだろう。

 また、鉱山での採掘が基本のナッサウ領と違い、露天掘りを行っているため、所々に大きな穴が開いている。

 未知の景色を眺めながら、いくつかの貴族領を通り過ぎ、ついにモンベリアル伯爵領にたどり着いた。


「今日は近くの街で一泊する。領都は明日の楽しみにとっておいてくれ」

「領都リラスパッツ……国内有数の商業都市で帝都の玄関口ですね」

「ベルンより大きな商業都市ですから、いろいろな物があるんでしょうねぇ」


 アリーセ様との再会やリラスパッツの街並みを想像し、眠りについた。

 

――――――

 

「マコト君、なんか遠くを見てるけど……考え事?」


 マコト君?とても懐かしい響きだ。

 夢によく出てくる男性はマコト君っていうんだね。

 まだ姿はおぼろげにしか見えないけど。

 

「ちょっとね。なっちゃんと出会ってずいぶん経つんだなぁって考えてた」


 とても優しい声だ。

 いつもはノイズがかかってよく聞こえなかったけど、今日は鮮明に聞こえる。

 私はこの声が好きだった。

 

「そうね、小さいころはいっつも私にべったりだったよね」

 

 そうだった。いつもそばには貴方がいたんだ。

 でも何故だろう?

 思い出そうとすると頭が、心が邪魔してくる。

 大好きだったと思うのに、思い出してはいけないと記憶に蓋をしようとする。

 なっちゃんと呼ばれるだけで、こんなにも胸が高鳴っているのに。

 

――――――


「お嬢様ぁ、朝ですよぉ。えい!」


 涙の寝起き事件からしばらくは控えていた侍女のこの狂気の沙汰も、最近ではまた復活した。


「アマラ、朝から人の顔に頬ずりするのはやめて頂戴」


 侍女の頭を掴んで引き剥がす。

 引き剥がした侍女の瞳が、私の顔を凝視して固まっている。

 あれ?また涙を流してしまってるのかと思い自分の顔に触れてみるも、涙の形跡はなかった。


「お嬢様ぁ、ついに、ついに私の愛に気付いてくれたのですね!」


 何のことだ!?

 この侍女、いや痴女はなにを言っているんだ?


「そのお顔はまさしく恋する乙女のお顔!ついに、私の愛が報われるのです!」


 妄想を膨らましている痴女はほっといて現状把握に徹する。

 鏡の前に移動した私は自分の顔に驚いた。

 頬が上気し赤く染まり、瞳は潤んでハートマークでも見えてきそうだ。

 確かに恋する乙女の顔に違いない。


「アマラ、残念だけどあなたの気持ちには応えられないわ」

「お嬢様ぁ、なぜですか?性別が問題ですか?地位が問題ですか?愛はそのようなものを……」

「違うの。これはいつもの夢の影響なの」


 今も、夢の中のマコト君のことを考えると胸がドキドキする。


「お嬢様を誑かす相手が夢の中にいるのですね!私が退治してみせましょう!」

「だめ!この気持ちは絶対に忘れてはいけないと思うの。でも、なにかが足りないの!」


 夢の中の私自身のこと、以前みた夢での悲愴感。

 ほとんど答えはわかっている。

 でも、それを認めることを心が拒絶している。


「わかりました。つきましては、あの夢をみたということをハインリヒ様に伝えるべきだと思います」


 侍女の口調が素に戻っている。私を心配しているようだ。

 でも、なぜかお兄様に私の口から夢の内容を伝えたくないと思ってしまう。


「アマラからお兄様に伝えておいて頂戴」

「私からでは正確に伝えることが出来ません」


 それは私もわかってる。

 でも、お兄様に伝えると思うと胸がチクッとする。


「それでいいから、お願い」

「わかりました……。そこまでおっしゃるのなら私から伝えておきます」


 なんだろう。胸がモヤモヤするのは。

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