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第95話 勘付く者

 食糧輸送隊の第一陣が、シバ国との国境に到着した。襲撃や脱落は無かったとのことだ。

 その連絡を受けた私は、ひとまず安心した。あまり心配はしていなかったけど。

 襲撃の可能性は、限りなく低いとみていたからだ。馬車の故障による脱落のほうが、よほど可能性が高いと思っていた。

 シバ国が襲撃するのでは?それは、まず有り得ない。

 この食糧の輸送は、食糧を提供した帝国が教会の依頼の下に、輸送を行うという形を取っている。

 なのでこれを襲撃するということは、帝国や教会の善意を踏みにじる行為と捉えられるだろう。

 その事を噂で聞いたシバ国民の怒りはどこに向かうか?シバ国の上層部へ向かう。

 何故私たちの食糧を奪おうとするの?そういった考えが、シバ国民に広がってしまうだろう。

 襲撃することにメリットは無く、デメリットしか存在しない。なので、襲撃は行われないと考えた。


 輸送隊の護衛は、シバ国に入国できない国軍兵からシバ国側の人間に変わる。

 教会によって匿われていた穏健派貴族とその私兵に、護衛の任が引き継がれる。

 シバ国民は、食糧と共に帰ってきた穏健派の人達を、賞賛をもって受け入れることだろう。

 そして強硬派は、民の恨みを恐れて手が出せず、その状況を傍観することしかできないはずだ。

 だからきっと上手くいく。私たちは、吉報を待つだけでいい。


――――――

 

 学校では、基礎学年の終わりが近付いてきている。あと二か月ほどだ。

 なので、上級学年の開設の準備もラストスパート。

 まあ、基礎学年開設と違って、国の学校プロジェクトチームが実働してくれているんだけどね。

 ということで私たち生徒会と教師陣は、生徒たちから上級学年への進学の意思確認を行うのみで済むこととなった。


「事前に配布してあった、上級学年への進学希望書を回収する。各自、生徒会役員まで提出してくれ」


 二組の教室では、フリードリヒが教壇から呼びかけを行っている。

 同様に、一組はレオン、三組はローズがこの役目を行うことになっている。

 多くの生徒がフリードリヒに提出しに行く中、イザベルさんが私のもとにやってきた。


「マリアさん。貴女に提出してもよろしくて?」

「はい。大丈夫ですよ。回収させていただきますね」


 私は、イザベルさんから受け取った紙に視線を落とす。

 進学を希望しないの文字に丸がついている。当然の事だけど……来年度には、イザベルさんはいないのか。

 表情に出てしまっていたのだろう。イザベルさんが、声をかけてくる。


「上級学年の校舎は完成していますよね?記念に見て回りたいのですが、案内をお願いできます?」


 頷いた私は、フリードリヒに生徒会活動に遅れることを伝え、イザベルさんと共に上級学年の校舎に向かった。


 私は先日、国のプロジェクトチームの方々と一緒に、最終確認のために内部の確認を行っていた。

 そのため内部の配置は把握しており、スムーズに案内できるだろう。まあ、イザベルさんの目的は別にあるだろうけど。

 上級学年の校舎に到着し、エントランスに踏み入る。

 基礎学年の校舎と違い、人の気配のない広大な建物は、静まりかえっていて……とても寂しい気持ちになった。

 エントランスや廊下は説明する必要がないだろうと、教室に足を向ける。

 教室に入った時、イザベルさんが口を開いた。


「貴女は、何者なのですか?」


 私は、固まってしまった。完全に予想が外れた。

 てっきりイザベルさんは、クラスメートのいる中でお別れの話をしたくないから、人のいないこっちに誘い出したのだと思っていた。

 なので、その質問を聞いた瞬間、全身が強張った。

 何者?前世の記憶を持っていることに気付いている?そもそも、前世の記憶を持つことは不味い事?

 答えに困っている私に、イザベルさんは言葉を続けた。


「あっ……マリアさんはマリアさんですわ。ですが貴女からは時々、生まれた時代を間違えたような……妙な違和感を感じるのです」


 記憶については気付いていない。でも私が、普通じゃない事には気付いている。

 だから、確認をしたい。そういうことだろうか?


「ええと、違和感ですか?どのような時に?」

「ええ。あの頃は、わたくしの言い方も良くなかったと思いますが、貴女と初めてお話しした時などでしょうか」

「私に絡んできた時ですか?」

「絡んで……そうですわね、絡んでいましたわ。なんて貴族として相応しくない小娘なのかしら、と最初は思っていました」


 ああ……私も、なんて面倒なお貴族様なんでしょうって思ってました。

 でも、それが違和感?ただの貴族教育がしっかりしていない、お気楽な伯爵令嬢って感じでは?


「最初は、ということは……なにかのきっかけで違和感に変わったということですか?」

「そう。貴女のデビュタントボールね。貴女は、完璧以上の淑女の姿を披露したわ。そして、勝負に負けたわたくしを赦した」

 

 ん?まったくわからん!どこに違和感を感じる要素が?

 私が考え込んでいる様子を見て、イザベルさんが笑いながら指摘した。


「そういうところよ。作法やダンスを完璧に教育されていながら、価値観や思想があまりにも一般的な貴族からかけ離れているわ」

「能力と思想がかみ合っていないってことですか?ちぐはぐだと?」

「ええ。変わり者って言葉では収まらない程度には、不自然でバランスが崩壊しているわ」


 ナッサウ家が寛容な教育方針だったのも影響はあるだろうけど、生粋の貴族から見れば違和感だらけなのだろう。

 だったら……残りの転生者は?


「では、フリードリヒやお兄様には、違和感を感じませんか?」

「え?フリードリヒさんもハインリヒさんも、少々変わり者だとは思うわ。ですが、マリアさんのような違和感は感じませんわ」


 あれ?二人とも前世の記憶を持ってるのに?私と何が違うのだろうか……。

 あっ!二人は生まれた時から、前世の記憶を覚えていた。でも私は、成体までは断片的な記憶しかなかった。

 二人はこの世界で育ちながら、前世との違いを修正していっていたんだ。

 私は、おぼろげな記憶と今世の教育がごっちゃになって成長した。そして、最近になって全てを思い出した。

 きっと、その差だろう。


「そうですか。違和感について、私には思い当たる節があります」

「それをわたくしに話していただけるのかしら?」


 正直、迷っている。この世界の人達にとって、あまりに異質な前世の記憶。

 それを、この世界の貴族代表のようなイザベルさんに話すべきなのか?それは、やめた方がいい。

 では、友達にしてライバルのイザベルさんには?隠すべきではないだろう。

 悩んだ挙句、私は決断した。


「突拍子もない話をしますけど、笑ったりしないでくださいね?」

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