閑話 孤独な天才
私は、変人だった。
貴族としても、人間としても。
自覚してるけど、変える気は無い。
だって、研究さえできれば、他のものなんて要らないから。
私は、天才だった。
大人でもたどり着けない技術や理論を、容易く発明してみせた。
多くの大人たちは、私を褒め称えた。
でも、母だけは違った。
「テレーザ!由緒あるプファルツ家の娘が、おかしなことばかりするのではありません!」
常に自室で研究に明け暮れる私を、異物の様に扱った。
それでも私は、変える気は無かった。
だって、研究さえできれば、親の愛も要らないから。
私は、孤独だった。
私を褒め称える人たちは、私の研究成果にしか興味が無かった。
研究の過程には興味を示さず、結果だけに興味を示した。
当然、私の研究以外の部分に、興味を示す人はいなかった。
でも、それで良かった。
だって、研究さえできれば、人とのつながりも要らないから。
――――――
そんな私の噂を聞きつけ、とある人物が訪ねてきた。
フリードリヒ第一皇子殿下。
帝都での大規模工事。
その技術的な支援の話だった。
計画書と図面を見た私は、協力することを即決した。
だって、未知の新技術満載だよ?私の知らない技術が、所狭しと散りばめられているんだよ?こっちから協力を申し出たいくらいだよ!
なにより、殿下の事が気になった。
この壮大な事業を、五歳にして立ち上げた。
まさに、変人。まさに、天才。
そして、義務感に急かされ、過ぎたる知識と行動力で一人突き進む人。
孤独だった。
私は、初めて似た人間と出会った。
方向性は違えども、とても似ていた。
――――――
私は、殿下の技術顧問として帝都で生活していた。
殿下は、次々に画期的な計画を打ち出す。
それを、私が現実に落とし込む。
自由に研究する時間は無くなったけど、とても充実した日々だった。
そんなある日のことだった。
「テレーザ嬢、長期間にわたっての協力、とても助かった。もう少し手伝ってほしかったが、プファルツ侯爵からの請願書が届いてしまった」
母が、私を領地に返せと言ってきたらしい。
なんと迷惑な。
だけど、正当な請願の為、受理された。
私は、やむなく領地に帰った。
私を待っていた母は、吐き捨てるようにこう言った。
「皇族に取り入るのなら相手をちゃんと選びなさい!第一皇子じゃなくて、取り入るのならエルヴィーラ殿下でしょうに。本当に、道理のわかっていない娘ね!」
私は、権力のために研究をしているわけではない。
私は、貴女のために研究をしているわけではない。
私は、自分の知識欲のために研究をしている。
また、フリードリヒ殿下に呼び出してもらいたい……。
――――――
私のもとに、皇帝陛下からの呼び出しの連絡が届いた。
私は分かっている。
裏で糸を引いているのは、フリードリヒ殿下だってことを。
私は、急いだ。
今度は、どんな知識と出会えるだろう?
魔法学校プロジェクト。
殿下の口から出てきた説明は、大変興味深かった。
でも、生徒会役員というのは……遠慮したかった。
だって、面倒。だって、研究の時間が減る。
だけど、陛下もいるのに断るわけにもいかず、渋々了承した。
殿下、レオンハルト、ローゼマリー、ハインリヒ。
生徒会室(仮)で、他のメンバーと顔合わせを済ませていく。
あと一人は、ごたついていて顔合わせが遅れた。
なんでも、殿下と同等の魔力を持つ女性。
伯爵家でありながら、国内最高クラスの魔力量。
実に、研究したい検体だ。
マリア。
最後の一人も顔合わせを済ませた。
見た目には、ただの美しい女性。
性格も他の生徒会メンバーと比べて、普通。
本当に、圧倒的な魔力を持っているのか?
気になった私は、魔法練習の見学を申し出た。
翌日、私はマリアの魔法練習を眺めていた。
上達が早すぎる。
成体直後で、何故ここまで魔法が使える?
「マリア、魔法を使う時、何を考えてる?」
私の問いかけに、マリアは予想だにしない答えを返してきた。
魔力の解明につながるような、革新的な回答だった。いや、解答だ。これは、魔法の新時代が来る!
ミリヤム様も巻き込み、魔法の新理論の研究が始まった。
マリアとミリヤム様との魔法研究は、とても面白かった。
ミリヤム様の魔法への深い理解、そして……マリアの無限の発想力。
常に一人で研究をしてきた私にとって、共同での研究は未知との遭遇の連続だった。
魔法に新たな系統を作り出してしまった。
そして、マリアの才能は魔法だけにとどまらなかった。
学校の制服を作ると言って、伸縮性の素材を新たに開発した。
昼にご飯を食べるべきだと言って、昼食文化を根付かせた。
デビュタントを盛り上げると言って、新型のドレスや華麗なダンスを披露してみせた。
マリアは、いとも簡単に新しい風を巻き起こす。
それは、自分のためであったり他人のためであったり……。
でも、私の考えとは大きく違う。
私は、研究をすることが好き。
だけどマリアは、研究の先を見ている。
全然考え方が違うのに、マリアと共にいるのは面白い。
そして殿下には、感謝している。
孤独ではないと思わせてくれた。新たな知識と出会わせてくれた。そして、知識以外の出会いを与えてくれた……。
私は、変わったんだと思う。
殿下や、マリア。生徒会メンバーや、学校の生徒。多くの人と出会った。
私の研究成果じゃなく、私自身を認めてくれる。そして、友達と言ってくれる。
変わる必要なんて無いと思っていたけど、変わってみればそれはそれで悪くない。
やっぱり研究が一番だけど、それ以外の事が要らないなんてことは考えなくなった。
ありがとう、殿下。ありがとう、マリア。私を変えてくれて……。




