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第93話 動き出す計画

 皇帝陛下の執務室に入室した私とフリードリヒ。どうやら先客がいたようだ。

 宰相であるベンヤミン様と筆頭補佐官のお母様。そして、見知らぬ二人の男女。ん?女性の方は知っている。


 ザビーネ・フォン・ケルンテン様。軍部のトップである元帥。

 西のケルンテン辺境伯家現当主の妹。レオンと同じように、辺境伯家から国軍に入団した珍しい人。

 前回の北方紛争時は、将軍として直轄領の最前線を守り抜いた守勢の名将。その功で、元帥に昇進したらしい。


「母上。この面子ということは、シバ国の対策会議でしょうか?」

「そうだ。見ての通り、我は忙しい。フリードリヒの話は後でも良いか?」

「いえ。先の方がよいかと。まさに、シバ国に関する話です」


 他の参加者が頷いたのを確認した陛下が、フリードリヒに報告を促す。

 許可を得たフリードリヒは、先ほどの聖女様との話を全員に説明していく。

 まず、聖女様との直接交渉に驚いていた一同だったけど、交渉内容を聞いて更に驚いたようだった。

 あまりの衝撃的な内容に、みんな固まってしまっている。が、いち早く考えをまとめたベンヤミン様が質問をしてきた。


「シバの穏健派が生きているという証拠はありますかな?」

「いや、無い。だが、聖女様が嘘をついていると思うか?」


 確かに、穏健派の生存をこの目で確認はしていない。だけど、聖女様が騙しているという可能性はほぼ無いだろう。


「そうですな。我々を騙す意味がないでしょう。サンドラ、至急大聖堂に向かってくれ」


 宰相としての動きは、とても速かった。共に話を聞いていたお母様を、即座に枢機卿のもとに送ったのだ。

 逆に言えば、それだけシバ国の動きに時間的猶予が無いとも言える。少しでも早く行動を起こさなければいけないほどに……。

 その様子を見ていたザビーネ様が、隣の男性となにか喋っているようだった。

 そして陛下も考えがまとまったようで、フリードリヒに話しかけてきた。


「全力を以って、この計画を推し進めよ。必要なら、どれだけ人を動かしてもかまわん」

「わかりました。それでは、財務卿には輸送用の馬車をかき集めるよう指示させていただきます。あと、国軍からは護衛の兵を供出してもらいたい」


 隣の男性との会話を止め、ザビーネ様がフリードリヒに返答する。


「護衛の件、了解しました。同時に北へ向かう街道を整備するために、工兵隊も送りましょう。輸送効率が上がると思われます」

「ありがたい。そうしてくれ」

「では、ハーゲン。工兵隊を動かすよう手配してこい」


 隣の男性が短い返事の後、退室していった。ハーゲン様、きっと副官か秘書官なのだろう。

 元帥側も動きが速かった。ハーゲン様と話していたのも、道路整備のことだったのだろう。

 少し人数が減った部屋は、若干の落ち着きを取り戻した。チャンスとばかりに、私はザビーネ様のもとに近寄る。


「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私は、フリードリヒの婚約者のマリア・フォン・ナッサウと申します」

「ご丁寧にどうも。私は、国軍元帥を務めるザビーネ・フォン・ケルンテンだ。して、何故貴女がここにいるのだ?」


 当然の疑問だ。言ってしまえばここは、国の各トップが集まっている場。

 皇子であるフリードリヒはともかくとして、正式な皇子妃でない私はいるべきでないだろう。

 だけどその疑問に対して、フリードリヒが代わって答える。


「マリアは、計画の後半部分の発案者だ。聖女様の発案に不足を感じたマリアは、追加の案を提示した。これでは納得できないか?」

「いえ、発案したのがマリア嬢ということなら、ここにいるのも納得です。噂では聞いていましたが、利発な婚約者ですね」


 急に褒められた私は、助けを求めるようにフリードリヒを見つめた。だが、フリードリヒは頷くばかりで気付いていないようだ。

 それを眺めていた陛下が、ニヤニヤしながら声をかけてくる。


「我の目に狂いはなかったようだな。良い組み合わせだ。賢いが考えが固いフリードリヒを、柔軟な発想で上手く支えてくれておる」

「はい。私には勿体ない程の女性です。丁度良いので、母上にご相談が」

「ん?結婚を早めろとかは、聞くことができんぞ?」

「いえ、別件です。マリアが皇子妃となった後、魔法学校の研究員として働くことを許可していただきたいのです」


 私を褒め殺そうとする次は、将来の話?このタイミングで?重役会議中に身内話を始めるって……。

 だけど、フリードリヒの事だ。なにかしらの考えがあると信じたい。


「ほう。皇族籍の人間を研究員に?他の人間なら駄目だというところだが、マリアなら国益にもかないそうだ。許可しよう」

「ありがとうございます。マリアには引き続き、新魔法の研究や新技術の開発を行ってもらうつもりです」


 そういうことか……。宰相と元帥、二人の選帝侯に功績をアピールするつもりだったのか。

 ベンヤミン様の食いつきは悪いけど……ザビーネ様は、目を輝かせているのが見て取れる。


「引き続きということは、あの魔法理論はマリア嬢の研究成果なのか!今度、軍でも指南してもらえないだろうか?」

「ええと、ミリヤム様やテレーザとの共同研究ですね。軍での講義は可能ですが、近々入団するレオンも新魔法の熟練者です。レオンにお願いしてみては?」

「そうか!バーデン辺境伯家の倅か。あいつは剣術や軍学だけでなく、魔法も優れた才があるのか。すぐに上に登ってくるだろうな」


 話は脱線しすぎているけど、フリードリヒの狙いはある程度達成できただろう。なので、私は本題に戻るように促すことにした。


「陛下、今回の件が上手くいけば、シバ国に対する生殺与奪権を握ることになると思います。ですが、苛烈な責めは行わないで頂きたいのです」

「やはりマリアは、そこまでを考えての発案だったか。そなたの願いを聞き入れよう」

「ありがとうございます。シバ国に対して恨みのある人も多いと思います。ですが、協調・共存の道を探っていきたいと思います」

「そうだな。無用な火種は作るべきではないしな。だが、強硬派はどうするつもりだ?」


 強硬派は……今回の事で、より過激になっていく可能性が高い。だからといって、こちらから圧力をかけては内政干渉になってしまう。

 できることなら、シバ国内で解決してもらいたいのだけど……。


「見守るしかないかと。穏健派を支援し、強硬派が淘汰されるのに期待をするのが現実的かと」


 そこまでの話を聞いていたザビーネ様が、困り顔で懸念を口にする。


「追い込まれた鼠は、なにをするかわかりません。軍としては、強硬派勢力が潰えるまでは防備を固めようと思います」

「そうだな。そうしてくれ。宰相からは、なにか言いたいことはあるか?」

「いえ。宰相室は、教会との連携を進めていくまでですな。戦争が起こることを考えれば、楽な仕事ですわい」

「では、フリードリヒとマリア。此度の働き、見事であった。皆解散し、それぞれの責務を果たしてくれ」


 それぞれが短く返事をし、執務室から退室していく。私は、計画が上手くいくことを祈っていた……。

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