第3話 吸血鬼、ファミチキに恋する(2)
紬と橘はコンビニの前に立っていた。
「夜なのになぜこんなに明るいのですか!?」
橘はコンビニに到着するなり、幼子のように騒ぎ出す。
「ちょっと…お、落ちついて。疲れてるから」
紬は橘のパーカーの裾をつかみながら息を整える。
紬の家からコンビニまで徒歩5分ほどで着くのだが、橘が色々なものに引っかかっていたせいで到着まで10分以上もかかった。
それに橘さん、車の前に飛び出すし!!
あまりにも危なっかしいため、紬はこの10分であり得ないほどの疲労を感じていた。
…こんなの、私の寿命が縮んでしまう!
そんな紬のことは気にも留めず、橘は煌々と光るコンビニに歩み寄っていく。入り口付近まで来たとき、自動ドアがガーッと開いた。ドアが開いた瞬間、室内の冷気とホットショーケースの揚げ物の香りが押し寄せてくる。
「……っ、扉が勝手に…、寒い!これが“小市民のおあしす”なのですか⁉」
コンビニの入り口で変なポーズをキメながら叫ぶ橘。
レジに立っているアルバイトの外国人が明らかに目をそらした。
「お願いだから静かにして。夜だから‼」
店員に不審者扱いされちゃうから‼
軽い足取りで橘は店の中を歩き回る。「わあぁ…」と歓声を上げながらきょろきょろと見渡す姿はひな鳥のように初々しい。
「……あれは、食べ物の棚ですか?」橘がレジの横に置いてあるホットショーケースを指さす。
「うん、私の推しはファミチキだよ」
「ふぁみ…ちき?」
橘が初めて聞く食べ物に目を輝かせる。
「紬お嬢様、どうすればその“ふぁみちき”とやらが食べられるのでしょうか?」
「これ、鶏肉ですよね⁉高級品じゃないですか‼」
橘がコンビニの前でファミチキを片手に叫ぶ。
「別に高級品じゃないよ。あと静かにして、近所迷惑だから」
紬が注意するが橘の好奇心は収まりそうにない。
「どんなお味なのでしょう…⁉」
橘が興味津々にファミチキを見つめている。
「今食べちゃったら?あったかいうちに食べた方がいいよ」
揚げ物は温かいうちがおいしいのだ。
「でもお行儀が悪いですよ」
「いーのいーの」と紬はいいながら橘の口に無理やりファミチキを突っ込む。
「ふぁっ、…これは…!」
橘の瞳がビードロのように輝いた。
「どう?」
「歯ごたえがあって、みずみずしい…病みつきになります!」
橘はそう言って、あっという間にファミチキを平らげた。
紬はファミチキ、アイス、プリンを買って帰路に就いた。
「……あれが“恋”というものなのでしょうか…?」
橘はファミチキの油ジミだらけの包装紙を胸に抱き、神妙な顔でそう呟いた。
「それ恋じゃなくて食欲だから…」
その頃、洋館の屋根の上に小さな影がふたつうごめいていた。
風に揺れる黒く長い髪が、月明かりを反射し光っている。
「やっぱりあの人、生きていたのね。しかも……人間と一緒にいる?」
紅藤色の瞳が細くなる。
少女の足元、黒猫が一匹ニャァと鳴いた。
「……面倒なことになりそうね」
そう呟きながら、ふっと気配を消した。
その姿を、二人は知らない――今のところは。




