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第21話 綯い交ぜ


 だが、不意にその言葉に返事が返ってきた。

「じゃあ、今日もする?」


「え!?」

 その声にびっくりして思わず座っていた椅子をひっくり返して立ち上がった。手には玉子サンドを持ったままだ。


(私がこの声を間違う訳がない。間違いないこの声は)

 

「リナルト様?」

「驚いた?」

「驚きました」

 

 フィオナは返事をしながらキョロキョロと周りを見渡す。


 何のことはない。

 いつもの部屋だ。


「リナルト、様。どこから、もぐ、話してるんですか?」

 思い当たるところがなくて、フィオナは手に持った玉子サンドをパクつきながら尋ねる。

 彼女は今立ったままだ。

 本来ならば貴族令嬢としては相応しくない。


「ははっ。玉子サンド美味いか?そうだなぁ……意外と近くだよ。今日はね、つけてくれてすごく嬉しかった」

「あ!ブレスレット!」

「正解!」


 フィオナはブレスレットを見た。


 もしかしてこのブレスレットは魔導具なんだろうか。

 ぼんやりと光っている。

(これは今は発動中ってことかな?)

 そう思っていると、彼は何だか申し訳なさそうに話しかけてくる。


「ずっと秘密にしててすまない。これは『通話の魔導具』なんだ。俺と君の魔力があれば国内ならどこでも話ができる」

「すごい!もっと早く知りたかった!もぐ」

「知ってたら使ってくれてた?」

「もぐ、勿論!ごくん」

「嬉しいよ。ふふ」


 フィオナはその言葉を聞いてきゅうぅんとなった。


(リナルトが嬉しいって!嬉しいって言ってくれた!これからはこの魔導具をずっとつけていよう)

 と心に決める。


 リナルトによると、この『通話の魔導具』は互いが装着することで自然と魔力が流れ、会話したいと念じることで通話が可能になるらしい。

 会話したいと思わなければ相手に通じることはないし、本人の意思とは無関係にこちらの話を聞かれることもないそうだ。


(便利な道具ね)

 フィオナは感心した。

 

 玉子サンドを食べ終わったフィオナは椅子を起こし、座り直す。

 そして紅茶を一口飲んだ。


「リナルト様。今日の報告、と言っては何ですけど……」

「あぁ。話してくれると助かる」

「えぇ」


 フィオナは今日一日の出来事を報告した。

 主に仕返しに関連しそうなことだけだ。


 ニコル先生の授業にエインツがリナルトの姿で参加したこと。

 第三会議室に広報委員会のブルーノ委員長とレイリー副委員長が入ってきた時にフィオナと殿下が戸棚に隠れて様子を窺ったこと。

 レイリー副委員長と仲良くなったこと。

 委員長と話をすることが出来なかったこと。

 ニコル先生と魔導具について沢山話をしたこと。

 エインツとニコル先生と研究室で会ったこと。

 そして、隣人のリアナ伯爵令嬢に婚約者ではない想い人がいてその出会いが新入生歓迎会だったこと。


(エインツとニコル先生のことは詳しくは言わなかったし、カルロ子爵令息の名前も出していない。シェナのことは特に必要性を感じなかったから話さなかったけど、問題ないよね?)

 エインツやカルロ子爵令息には口止めされてたし、シェナとは一緒に帰っただけだ。


 リナルトはフィオナの話を然して驚くこともなく落ち着いた様子で聞いている。

 

 フィオナは(これで全部かな?)と少しの間考えながら、再びリナルトに話しかけた。

「リナルト様は何かありますか?共有してた方が私が動きやすいことがもしあるなら話しておいてほしいんですけど?」

 

 リナルトはしばらく考えると、フィオナが報告したことに関連しそうなことを掻い摘んで説明してくれる。

 

「もともとエインツはニコル・ケラーと繋がりがあるから護衛騎士見習いとして採用された」

「え?そうだったの?」

 

(じゃあ話してもよかったのかな?エイドン・ランバードとの関係については)

 

 そう思いながらリナルトの話を聞いていればニコル・ケラーが何か隠していることを以前から知っていて彼に声をかけたという。

 エインツ自身もずっとニコルを心配していたから、進んで協力関係になったそうだ。


「へぇー。その心配って家族的なものではないですよねぇ?」

「え?どういうこと?」

「だってあの二人」

 

 言いかけて(あれ?)と思う。

(これって言っていいんだっけ?)

 と。


 エインツからフィオナは口止めされていた。

 

『「ここでの話はシェナにも話すなよ」』


(シェナにも?にも??他の人には当然話しちゃダメなニュアンス?)


 フィオナは首を捻った。

「あの二人がどうした?」

 リナルトがまた聞いてくる。


(んーこのくらいなら話してもいい気がするんだけど。こういう時って私誤魔化せないんだよねー)

 誤魔化すのが苦手な自分を悔いる。

 

 何でわかってるのに練習してこなかったんだろう。

 反省する。


(でも仕方ない。話そう……って思ったけど。何って言えばいいの?……あの二人できてますよね?……あの二人って体の関係ありますよね?……それこそ、先生が言っていたみたいにあの二人やることやってる恋人未満らしいですよ?…………いやいやいやいやどう言っても変でしょー)


 フィオナは頭を抱えた。


「だってあの二人って…………つ、つ付き合ってますよね?」

(あぁ、こういう言い方しか出来なかったー)


「そう、なの、か?」

「し、知らなかったですか?」

「そう、だな」

 

 リナルトとフィオナの間にしばしの沈黙が流れる。


「えーっとですね。先生と生徒といってもエインツは仕事が中心ですし、ニコル先生もお若いですし、ね?普通の先生と生徒ではないですよね」

「あーっと、そうだな」


 教師と生徒であっても特に咎められる理由はない。

 この国の外では恋人関係になっているという話もよく聞く。

 そういうことで言えばこの国は比較的厳しい方かも知れない。

 教師と生徒はどちらかと言えば清廉潔白な関係を求められることが多いのだ。

 

(あの二人はそういう関係。そう考えるとリナルトもそういう相手が過去にいたりするかも)

 そう思ったら何だか切なくて泣きそうになった。


 でもリナルトにそれがバレないように袖で顔を擦る。


「他はどうですか?」

 そう言いながらフィオナは、ポケットに手を突っ込んだ。

 クシャリと音がして何か潰したような感触。


 それで思い出した。

 先生からメモを貰ってたんだった。


(どうしよう。これは言っていい?言っちゃダメ?)

 

 フィオナがそう迷っている間に、リナルトは話す。


「そうだな……ちょっと前に聞いたことがある。リアナ・ローズ伯爵令嬢の婚約者は……ブルーノ・ナルディ侯爵令息だ。そしてフィオナが言っていたリアナ伯爵令嬢の恋人というのはカルロ・レンツィ子爵令息のことだろう?」

 

「え」

(速バレ?)

 

「既に噂になっているから今更隠すことでもない。……それに彼の婚約者はカレン・ミルディア男爵令嬢だと聞いたことがある」


「は?」

 ブルーノ・ナルディ侯爵令息の名前が出たことにも驚いたが、それよりも驚いたのはシェナの妹の名前が出たことだった。


 妹がいるともいないとも、そしてその名前もシェナからは聞いたことがない。

 でもミルディア男爵はこの国には一人しかいないし、長子だけどシェナは家を継げない?継がない?と言っていたから継ぐのは妹か弟なのだと勝手にそう思っていた。

 そしてそれがカレンという名なら妹になる。

 

(どういうこと?)

 リアナとカルロの出会いについて話を聞いた時の違和感が再燃する。


(もしかして、この二人の出会いは仕組まれていた?!)


 辿っていくと皆が何かしらの繋がりがあって、それは複雑に絡み合っている。


 その絡まりをひとつひとつ丁寧に解いていかないと、更に複雑に絡み合ってしまうだろう。


 リナルトもフィオナが報告したリアナ・ローズ伯爵令嬢とカルロ・レンツィ子爵令息のことと自身が知っていた情報とを照らし合わせて何か思うところがあったようで。


「ちょっと今回の件は殿下にも報告した方が良さそうだな。明日フィオナも来れるか?」

「明日はちょっと。放課後レイリー先輩とブルーノ委員長に面会する予定があります」


 フィオナは正直に伝えた。

 

「分かった。時間はまた予定を立てる。また連絡するからその日は予定を開けておいてほしい」

「えぇ。分かりました」

 

 少し間をおいてリナルトは言う。


「えーっと。じゃあ今日はこれで」

「え、あ。はい。おやすみなさい。リナルト様」

「あぁ。おやすみ」


『通話の魔導具』はそれを最後にこの日の通話を終えた。

 二人の通話は婚約者同士の会話なのに色気もほとんどなく進展も何もなかったが、少なくともフィオナにとっては今日一番充実した時間だった。


 そこでフィオナの緊張の糸が切れる。


(あぁ。疲れた)


 今日はぐっすり寝れそうだ。

 フィオナはベッドに横になってすぐに目を瞑ってしまった。


 ようやくフィオナの長い一日が終わろうとしている。

 

 そうしてフィオナはポケットに入れたままの先生のメモを翌日の朝まで忘れてしまうのであった。

 

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