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第18話 帰り道


 二人に見送られ、研究室を出るともう窓の外は日も落ちかけて空を朱色に彩っている。

 研究室にいたのは時間にして二時間程度だろうか。


 先生から渡されたメモをポケットの奥底に突っ込むと、フィオナはレイリーと横に並んで歩く。

 

「編集会議、だいぶ長かったんですね」

 

 フィオナが問いかけるとレイリーは待ってましたとばかりに言葉を返す。


「そうなんですよ!今日の編集会議、意見が白熱して……そうそう!」


 レイリーは思い出したかのようにフィオナを見、グッと握り拳を作る。


「聞いてください!フィオナさんの記事、謝罪記事を掲載した方がいいという意見が私の他にもあったんです」

「本当に!じゃあ……」

 

 フィオナがそう言うと、レイリーはすぐにしゅんとした。


「残念ながら、ブルーノ様の意見は覆らなかったんですが……」

「そう」

 フィオナもつられしゅんだ。


「仕方ないわよね。あとは時間が解決してくれますよ。私も頑張らなきゃですね」

 フィオナは自分自身をも励ますかのようにレイリーを元気付けた。


「そうだ!ブルーノ様はもしかしたらもう帰ってしまわれたかも知れないですけど、そうなったら明日また出直しましょうね」


(あんな態度をする人だから言うことができなかったのかしら。まぁ言ったら言ったで怒鳴られるかもしれないし。偶然を装って突撃するか、こちらが待つ方が平和だものね)


 レイリーからそう言われ、フィオナはなるほどと自分なりに解釈した。


 案の定、第三会議室は鍵がかかっていて、既に誰もいなかった。


「やっぱりそうでしたね。明日も放課後ならブルーノ様はいらっしゃるはずなので、明日出直しましょう」

 

 レイリーの言葉にフィオナは頷いた。


 廊下をしばらく歩くとフィオナの教室に着いた。

 するとレイリーは突然思い出したかのように慌てだした。


「え?どうしたんですか」

「忘れ物を思い出して、自教室に。取りに行ってくるので先に帰ってください」

 レイリーは小走りで今来た廊下を戻ろうとする。


「一緒に行きましょうか?それとも待ちましょうか?」

 すかさずフィオナも声をかけるが、「大丈夫ですー。先帰ってくださーい」と声が段々と遠ざかって行く。


 追い掛ける間もなかったので仕方なくフィオナは教室に入り自分の机脇に掛かっているであろう鞄を探す。


 すると傍でガタリと音がして上から声が降りてきた。

 

「フィオナじゃない。まだ居たの?」

 その声に顔を上げるとそこに居たのはシェナだった。


「シェナもまだ居たの?」

「うん。まぁ色々とね。することがある訳ですよ」

 

 シェナはそういう時、視線を合わせない。

 そういう時は何か誤魔化そうとしているなぁとフィオナは思いながら誤魔化されてあげるのだ。


「そのすることが終わったなら一緒に帰らない?」

 フィオナがそう言うとシェナはいつも「うん」と元気よく嬉しそうに頷いてくれるのだ。


 今日もシェナは嬉しそうに頷いた。


 *


 二人がアズ学校舎から出ると、もう外は薄暗くなっていた。

 暗い森もあるし灯りは少なめだから物騒ではあるけど、一応寮はアズ学の広い敷地内にある。


 敷地内はいくつもの結界があり、それは悪意に反応するようになっている。


 だから学校から寮までの道のりも徒歩では多少時間はかかるが、危なくはない。


 二人は寮までの道のりをぺちゃくちゃおしゃべりしながら帰ることにした。


「え?今日教室抜け出した後第三会議室に行ってたの?」

 

「そうなの!思ったよりも第三会議室広かったわー」

 

「気になったところそこ?!あそこって書類沢山あるんでしょ?やっぱり編集部的な感じで、散らかってるイメージなんだけどどう?」

 

「えー全然そんなことなかったよ。きちんと整理整頓されてたし、机の上も片付いてたよ。棚も広くて、あ、棚の中に隠れたんだけどね」

 

「棚の中?!フィオナが入れるくらいの?……てことは、書類を入れるような仕切りのついた棚ではないってことね?」

 

「まぁ?」

 

(棚に入ったのは私だけじゃなかったんだけど、この場合そこの説明は不要よね?)

 

 フィオナはそう思って返事をするが、シェナは考えるような仕草をしていて、違うことを考えているようだ。


「で、棚に隠れて何してたの?」


「え?広報委員会の……委員長と副委員長が喧嘩するのを見てた……と言うか……」


 フィオナはしどろもどろになりながら答える。


「そんな!大変じゃない!でもその様子だとバレなかったんでしょ?良かったわ。ホント心配するじゃない!あードキドキしたわ」


「シェナったらお母様みたいね。ふふ」


 フィオナは心配してくれる親友の姿に嬉しくなって腕にしがみつく。


「ええ?!もう!フィオナったら!」


 シェナも笑いながらフィオナの頭を撫でた。


 フィオナとシェナは侯爵令嬢と男爵令嬢なので身分には差がある。

 だが二人はそんなことは気にしていない。

 

 イチャイチャしながら歩き、寮まであと十分ほどの距離まで来た時、シェナは急に足を止めた。


 そして真面目な口調で話し始める。


「フィオナ。いい?真面目な話だから茶化したりしないでね」


 シェナはそう言って、フィオナが頷くと続きを話し始めた。

 

「あの日。新入生歓迎会の日。あの後フィオナ、お茶会に戻らないで帰ったじゃない?」


(あーあの日かー、てあれ。あれがリナルトだって私シェナに話したっけ?)

 フィオナは思い出そうとグーで頭を叩く。


「そうあの日。早めにフィオナは寮の部屋に帰ってきてたはずよね?」

「……うん。部屋にいたね」

 シェナの言葉に思い出したフィオナは頷いて同意する。


 シェナは少し考えてから一気に話し始めた。


「私ね。フィオナより、たぶん二、三時間後だと思うんだけど。寮に帰ってきたのね」

「……うん」

「自分の部屋に帰るのにフィオナの部屋の前通るでしょ?」

「……うん」

「その日もね通りかかったのよ」

「う……ん」

「だけどね、フィオナの部屋の前にね。いるのよ」

「……誰が?」

「……エンデール公爵令息が」

「は?ここの寮、女子寮だよね?」

「……うん。でね、鍵開けて部屋に入ってったのよ」

「え?待って。私部屋にいたはずよね?え?それに鍵?え?なんで?」

「記憶ない?」

「ないよ」

「どういうこと?」

「ほんとどういうこと?……ホラーだね」

「……ホラーねぇ……こわっってフィオナ全然怯えてないじゃん」

「え。だって。ホラーでも何でも、彼のこと好きだもん」

「好きだもんって……はぁ……まぁいいけど」


 そう言うとシェナは再び歩き始めた。

 フィオナも一緒に歩き始める。


「心配して損したわ」

「そんなことないよ。損だけに」

「うわー」

 

 フィオナはシェナの顔を覗き込み、ニマッと笑う。

 

「心配してくれてありがと。私は大丈夫だよ」

 

「そぉお?一応聞くけど、襲われたりはしてないんだよね」

 

「たぶんされてないよ。安心して」


 フィオナがそう言うと、本当に安心したようにシェナは「はぁぁ」と大きなため息を吐いた。


「ほんと心配してたんだよ。ずっと」

「ずっと?ふふ、ずっとって、ちょっと前の話だよ」


 フィオナがそう言うと、またシェナは足を止めた。

「うん。そうだね」

「?」

 足を止めいつも通りに相槌を打つシェナに少し違和感を感じながら、フィオナはその場で彼女の方を向いた。


「ううん」

 シェナは首を横に振り、フィオナの横まで小走りで横に並び、後ろ向きに歩き出す。


「そのブレスレットもさぁ、怪しいんじゃないの?」

 

 フィオナの腕を取り、シェナはブレスレットに触れる。

 

 このブレスレットは今日ふと思い立ってつけてみたのだ。

 リナルトがつけているのに婚約者の自分がつけないなんてと今回の騒動で反省して。

 

(今日は一日慌ただしくて、これに触れる機会もなかったな)

 そう思いながら、シェナの問いかけに返す。


「またぁ。リナルト様が何か仕掛けてたり?」

 

「そうね。盗聴の魔導具とか盗撮の魔導具なんていかがですか?」

 

「嫌だー」

「嫌じゃないくせに」


 二人でそんなことを言いながらフィオナはそのブレスレットを僅かな月明かりで白む空へ向けた。


 寮はもうすぐ近くだ。

 ひとまず今日は早く休もう。


 リナルトが侵入したと言うフィオナの部屋へ。


 フィオナはウキウキしながらホラールームへと足を向けた。

 

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