↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/24

第14話 キスを賭けた三番勝負②


「それ……は…………?」

 フィオナの目はその魔導具に釘付けだ。

 もともとのステンドグラスとしての良さは勿論だが、あまりない手のひらに収まってしまうサイズ感や、黄色い月を桃色の布で包んでいるかのような球体のデザインと色味がその魔導具の愛らしさを一層引き立てている。

 

「可愛い〜!これも触っちゃダメですか?」

 フィオナはそう言いながら先生の魔導具を持っている手に自分の手を伸ばす。


「これはいいよ。これはね、変装の魔導具さ」

「変装の魔導具?」

 フィオナはそれを受け取りながら首を傾げた。

 

(確かシェナが言ってた気がする。先生が開発中の魔導具って……もしかしてこれ?)

 

 先生が説明してくれる。

 変装の魔導具は、服装以外の容姿の全てを一瞬にして変貌させる。

 

 太陽の光に当てるとその光はステンドグラスを通り抜けて桃色や黄色に変わる。

 それに照らされた者はその髪も瞳も、容貌だけでなくその体躯も特定の人物を装うことができる。

 

 また体格に付随する能力は使えることができ、武術家や諜報部隊員に装うことはできるということだ。

 要は体術については使えるということ。

 ケンカが強かったり、耳がよく聞こえたり、素早かったり。


 そこまで聞いてふとフィオナはリナルトを思った。

 

(学校の中庭で第二王子とキスしてしまった時、あ、結果的にリナルトだったけど、もしかしてこの魔導具を使っていたのかしら?)


 二人は確かにそっくりだが、髪や瞳を他のもので一つ一つ隠したり変えたりしなくてもいいから重宝しそうだ。

 

 魔導具を使っての変装は一瞬だから急がなくてはならない時も役に立ちそうだし、元の姿に戻る時も早く済みそうだから。


(ん?元の姿に戻る時?)

 フィオナは疑問が湧いてきてふと先生に尋ねた。

「元の姿に戻りたい時はどうするんですか?」

「え、あぁ」

 先生は顔を上げると「それは、後で教える」そう言って答えてくれなかった。

 

 それを少し不思議に思いながらフィオナは先生の手の平に乗るその魔導具を指で掴み、光に翳した。


「今はね。その中に必要なものが入っていないから使えないよ」

「え?」

 先生はこの魔導具は何か中に入れることで変装することができるが今は入っていないから使えないのだと言っているようだ。


「さて問題です!」

「き、来たー!!」

 フィオナは絶叫した。


「この変装の魔導具。この中に入れるものとは何でしょうか?!チッチッチッ……」

 先生は人差し指を立ててフィオナの顔に近づける。


 フィオナはその先生の姿に少し圧倒されて後退りする。

(えぇ……先生ったらまた焦らせて……えぇ〜わかんないよぉ)


 先ほどの問題で知恵を絞り過ぎたフィオナはもう一ミリも考える気力が湧かなかった。

 でもリナルトの唇が奪われるのは何とか阻止したいと思って先生に縋り付くかのように訴えた。

 

「うぐぅ……何かヒントをください」

「ヒントぉ?そうだなぁ……じゃあ、三択にしようか?」


 フィオナの縋り付くかのような訴えに、先生は素直に救いの手を差し伸べてくれた。

(マジ神!)

 いや神に例えるほど優しくはない。そもそもキスを賭けの対象にしてこんな問題を出している時点で既におかしいのだがフィオナは気づかない。


「対象者の何か、で三択にするからね。まず一つ目は涙。二つ目は魔力。三つ目は髪の毛。さぁどれだ?」


 先生がニヤニヤしながらフィオナを覗き込んだ。


(何これ……三択なのに難しくない?全然神じゃない)

 フィオナは納得いかないという顔で先生を睨む。


「おお、こわ」

 先生はフィオナから飛び退いたが、その表情は怯えるものではない。

 寧ろ和やかな雰囲気で微笑みを浮かべている。


 その表情にフィオナは苛立ちを覚えた。

(先生はもうリナルトとキスする気でいるんだわ!)

 そう思うと先生の優しげな表情に段々と腹も立ってきた。


 涙と魔力と髪の毛。


 ステンドグラスは球状だから、涙のような液体でも髪の毛のような固体でも問題なく入れられそうだ。

 ステンドグラスの透過率にはどちらもあまり良くなさそうではあるけど。


 フィオナはイライラしながらも一応はちゃんと考えていた。


 魔力は体液に馴染みやすいと聞く。

 涙や汗などには微量の魔力が含まれているそうだ。


 そして髪の毛。

 髪の毛には毒素が蓄積されると聞く。

 魔力も蓄積されたりするんだろうか。


(魔力そのものを魔導具に流し込んだら、その人と同じ見た目になれそうな気がするけど……それは涙であっても髪の毛であっても同じような効果は得られそうな気もする)


 フィオナは頭を抱えた。


(せっかく三択にしてもらったのに、全くわからない……)


 フィオナは途方に暮れて、研究室にある唯一の小窓に目を遣る。


 太陽の光はそこから入っていてフィオナの手のひらに乗っている変装の魔導具はそれを一身に受けて彼女の手のひらに光の影を作り出す。

 

 その黄色と桃色の光の影は、フィオナが持つ角度を変える度に研究室内に舞う埃に反射して薄暗い空間にキラキラと華やかな照明を作り出した。


(これは!)

 フィオナは講堂のステンドグラスを思い出し、それと同じ制作者でもう一つ歴史的建造物として知られているものを思い出した。


 それは、魔導具師のエイドン・ランバードが作った王都にある大聖堂のステンドグラスだ。


 太陽の光を受け聖女像の背中を守るが如く清麗な光を放つそれは大聖堂の象徴であり、フィオナとリナルトの思い出の一つだ。


 リナルトとフィオナは婚約してすぐ、ここにこっそり二人でお祈りしにきたことがあった。


(あれは確か。五歳頃だったかしら)

 フィオナはその時のことを思い返した。


 フィオナがすぐにお祈りを終えリナルトを見ると彼はまだお祈りを続けている。


 ステンドグラスを通した太陽の光が、キラキラと瞬きリナルトの姿を虹色に染める。

 そんな彼の姿をフィオナは幻のように感じた。

 

 そしてその姿にフィオナは見惚れてしまっていた。


 短いが艶のある黒髪。整った顔立ちに長いまつ毛。

 まだ八歳と幼い顔立ちのはずなのに、妙に色気がある。


 ドキドキと高鳴る胸に顔は熱くなった。


(かぁっこいい……)


 齢五歳の少年の色気に打ちのめされたフィオナあった。


 この時から心底リナルトに想いを寄せるようになったのである。


 

(いっけない!早く答えなきゃ)

 クイズの三択から、フィオナは完全に頭が離れていたことに気づき、ハッとする。

 リナルトのことならいつでもどこでもその世界に浸ることができるのでついつい夢想してしまいがちだ。

 フィオナは反省した。


(今何時だろう?)

 ここには時計がないからどのくらい時間が経っているのかよく分からない。


 先生の方を見れば、無理やり空けた埃まみれの一人掛けソファに座りうとうととしている。


 レイリーは編集会議が終わったら迎えにきてくれると言っていた。

(彼女を待たせることはないと思うけど……)


 フィオナはレイリーのことを考えながら、再びソファの先生に視線を移す。


(先生を待たせてしまっていた……えと、クイズ、何だったっけ?……あ、変装の魔導具に入れるものだった。涙と魔力と髪の毛……)


 そうそう、どれもありそうだと思ったところから外れていってしまったと思考を何とか戻そうとする。

 

(そういえばさっき変装から戻る時はどうするのか先生は教えてくれなかったよね。それって……答えに近づいてしまうから?)

 フィオナは推し黙った。

 

 そう思い始めたらすぅっと急に血の気が引いて頭が冴えてきた。頭の中を情報が行き来する。

 

 学校の中庭でリナルトとキスした時。

 思い出すとちょっと恥ずかしいがフィオナは頑張って思い出してみる。


 あのキスは軽いキスではなかったけど、そこまで深いキスでもなかった。

 唾液って体液の一つだから魔力も混じってるはず。

 涙と唾液では体の中にある水分という意味ではよく似ている。


 もし仮に彼の変装がこの魔導具を使ったものだったとしたら。

 もし仮にこの魔導具に入れるものが涙だったとしたら。


 リナルトは第二王子の涙を入れた変装の魔導具を使って変装していたということになる。

 そしてリナルトはフィオナと中庭でキスをした。

 

 この仮定が正しかったとしたら、キスしたことで変装が解けていたかもしれない。


 他人の魔力は反発しやすい。

 第二王子の涙の入った変装の魔導具は、フィオナの唾液によって解除されていたかも知れないのだ。


 でも現に変装は解けていなかった。

(ということは、涙ではない、ということで合ってる?)


「うーん」

 フィオナは眉を顰め唸った。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。