SS 夕飯の妹
両親は仕事で違う場所に住んでいるので滅多に帰って来ない。
そのせいか、一軒家で一緒に暮らしている妹とは超がつく程仲良しである。
今やサツキが加わって三人になったが、それまでは二人っきりだったのだ。
サツキがそこに追加されたとて、兄妹の絆は簡単には解けない。
そうは言うが、喧嘩するほど仲がいいとはよく言ったもので、喧嘩ほどではないが家ではよく言い合いをしている。
気が合うので無限に喋れる気がして、妹と喋っている時が一日で一番楽しい時かもしれないと思うのだ。
お陰でサツキは置いてけぼりになっているようだが、家ではもとよりこうだったのだから諦めて頂きたいものだ。
「六華、飯そろそろか?」
「待ってお兄ちゃん、ケチャップ切れた」
キッチンから間延びした声がした。
妹である。
そしてここにいるのは、料理を妹に任せきりにしている不甲斐ない兄である。
――任せきりにしてるわけじゃないからな?
家事の分担ってやつだ。
「そうかよ。 血でも混ぜときゃバレないんじゃないの?」
「衛生面どうなってんのよ」
「名案だと思ったんだけどなぁ」
「……お兄ちゃん、絶対将来の夢シェフとか言わないでね」
と、家での俺たちはこんな具合である。
実のところ、悲しいことに馬鹿話ばかりなのだ。
だが俺は、この時間をとても楽しいと思っている。
誰にも奪われたくない日常ってやつだ。
「ちなみに何作ってるんだ?」
「オムライス」
「ケチャップ必須じゃねぇか。 ケチャップないと白飯に卵被せただけになるぞ」
「なんかそれは味気ないね。 卵かけご飯の方がマシかも」
「自分が作ってるのにそこまで言うか……。 なんだったら買ってこようか?」
「大丈夫。 チキンライスの方はできてるし」
その言葉を聞いて、俺は小さくため息をつく。
「まさかお前……ケチャップで顔描きたかったのか……」
「そゆことー。 ってちょっと!」
妹は一度同意したもののいきなり大きな声を出し、こちらを見てふくれっ面をした。
「どうしたんだ? いつもクマさん描いてるじゃねぇか」
「皐月さんいるじゃない! 子供っぽいって思われたらどうすんの!」
「何見栄張ってんだよ。 お前まだ中学生だし子供だろ」
「でも、でも!」
そんなやりとりの末、結局うちの妹はデミグラスソースの缶を開封する決断をしたのだった。
ちなみに俺は、オムライスにかけるのはケチャップよりもデミグラス派だ。
その方が高級感あるだろう?
「ねぇねぇお兄ちゃん、今日のご飯は何点くらい?」
食卓に着いて合掌をし、スプーンを口に運んだのを見届けた妹は俺にそんなことを聞いてきた。
「八十四点くらいかな」
「それは、生焼けの鶏肉を五十点にした場合?」
「こりゃまた絶妙なラインで」
「んーと、どうかな?」
「俺もそれになぞらえて評価したいところなんだがな、五十点を知ったところでって感じだ」
そこで何かが引っかかった。
生焼けの肉という妹の言葉をもう一度喉の奥で反芻してみるのだが……。
「おい待て、鶏肉だと? そんなもん食べたら最悪死ぬぞ?」
「ごめんごめん、鶏はちゃんと焼くから。 じゃあ、他の基準も知りたいってこと? んー、じゃあ、八十点が……」
向けた視線の先を追うと、サラダに盛り付けられた小さな赤い物体。
「トマトくらい?」
「八十点がトマトかぁ。 じゃあ採点基準を大幅に変えなきゃいけないな」
「あ、満点は百ね」
「だったら満点」
「ふ、ふふ、やったぁ!」
喜ぶ妹を見ながら、口に出しはしないものの、心の中で大きめの舌打ちをした。
不本意にも妹の機嫌を取るように誘導されたのである。
憎たらしいやつだ。
そして俺の隣では、このやり取りを見ていたサツキが漏れ出てくる笑いを押し殺していたのだった。
そんな桜木六華というのは、やはり俺の大切な妹なのである。
ssが早ぇという意見については重く受け止めます。




