殺られたら殺りかえす
熱が下がり元気になった私は、さてこれからどうしたものかと考えた
処刑されるまで後2年ある。この2年間の生き方を変えれば、悲惨な末路を回避できるだろうか?
毒殺未遂の犯人に仕立て上げられないように、侍女や側近の動きにもっと目を光らせるかーー……いや、王宮内の根回し力は王子には勝てない。
ではイジメの噂が立たないよう、カースティンにめちゃくちゃ優しく接するかーー……いや、それもまずニコラスが邪魔をして、カースティンに接触するのが難しい。彼女とは結局最後まで、ろくに話せずじまいだった。
ではもっと遡って、ニコラスが彼女と出会う前に、私がもっと良い関係を築けていればーー……政略結婚の相手としてではなく、恋人として。
いや、無理。
前回の人生での仕打ちを思い出して、はらわたが煮えくりかえる思いなのだ。今からあの男に媚を売るとか、無理。
そうしないと死ぬかもしれなくても、無理。
大体、今から全力で媚びて恋人になったとしても、二人の「運命の出会い」からの「真実の愛」に勝てる気がしない。
もっと遡って、そもそも婚約などしていなければ良かった。
しかし6歳の私に拒否権はなかったし、すでにしてしまっている。今から解消することはできない。相手は王子様で、こちらは臣下の公爵家だ。
じゃあ、そうだ。ニコラスが消息不明になって戻ってくるまでには一年ある。
その間に逃げちゃおうか。金目のものを持てるだけ持ってーー……生きて行けるかな。家族とも会えなくなるし、その後の人生ずっと犯罪者のようにこそこそと?
私が何をしたというのか。
決められた婚約。王妃となるべく勉強に勤しみ、王子の消息不明期間中は気を揉みながら過ごした。
婚約破棄を言い渡されたときには、大人しく了承した。しかし王子との結婚は国の命令で、仕方なく収まるべき椅子に収まったまでの話だ。
私は悪くないでしょう?
なのに汚名を着せられて殺された。
それを回避するために、自分を殺した相手に媚びへつらったり、逃げる算段をしたりと、どうしてこちらが下手に出なくちゃいけないのか。悪いのは向こうなのに。
こうなったら、殺られる前に殺ってやる。
人生、受け身ではいけない。ずっと受け身で耐え忍んでいた結果、殺されてしまったのだから。
機を見て、打って出るのだ。
王子暗殺、という言葉が頭に浮かび上がった。私の頭は高熱でイカれてしまったのかもしれない。興奮気味の心臓がどくりと高鳴った。
そう。やけに鮮明な記憶が突如よみがえったために、錯乱しているのかもしれない。
かつて本当に起きた出来事だと思い込んでいるが、白昼夢を見ただけかもしれない。
高熱で浮かされて、錯乱した脳が創り出した妄想という可能性も捨てきれない。
しかし、日が経つにつれて確信は強まった。
やはり、思い出した記憶は合っている。
思い出した記憶どおりの出来事を後追いするようにして、私の人生は進んで行ったからだ。
大伯父が急性の心臓発作で亡くなり、兄夫婦に長男が生まれて、サイモンと名付けられた。
誕生日に父が贈ってくれたプレゼントや、旅先の風景や新しく出会う人々の顔にも見覚えがあった。全てに既視感がある。
一度目の人生でも同じように出会って、今回で二度目だからだ。
そしてもうじき、ニコラスが言い出すはずだ。
「今度のパーティーに備えて、事前に航路を辿ってみよう」と。遊び気分で船を出そうと言い出す。
前回の人生ではそれに同行しなかったが、今回は私も一緒に行く。
王子暗殺の最大のチャンスだからだ。
あれから色々考えたが、普段の生活で王子の暗殺は難しい。
護衛がいて毒見がいて、隙がなく、もし上手く殺れたとしても、犯人はすぐに捕まるだろう。未遂に終わっても捕まる。
しかし、これから海へ出るニコラスは、難破することが決定している。
大嵐に遭って船は座礁し、大海に放り出されて死にかけるのだ。
死にかけるが、運良く小島へ漂着して、カースティンと運命の出会いを果たす。
だからその前に殺る。
予想外の大嵐に遭って、船上はパニックに陥っているだろう。まさかそんなときに、王子の暗殺を企てる者がいるとは誰も思わない。
日常の城で殺ればすぐさま騒ぎになって足がつくが、非日常のパニック下なのだ。
船が遭難する瀬戸際だ。王子の暗殺を警戒するよりもまず優先すべきことに、皆必死なはずだ。
勿論私の身も十分に危険だ。
船が難破し、荒れ狂う高波に呑み込まれるだろう。
ただし、私だけは事前に嵐が来ることを知っている。救命具を携えるなりして、準備しておくことができる。
浮き玉と呼ばれる、水泳が苦手な幼児が身に付ける魔道具がある。それを付けていれば体が沈まないし、小さな物なので違和感なく隠せるはすだ。
浮き玉ごときで嵐の海に立ち向かえるかは分からないが、刺し違えてでも殺ってやる、という意気込みでいる。
前回の人生では殺られた。殺られたら殺り返す。
ニコラスがいなければ、カースティンがこの国へやって来ることもない。はるか遠くの島で、のんびりと幸せな一生を終えることだろう。
それで良いじゃないの。




