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覚醒

ある日流行り風邪に冒されて高熱に倒れ、病床で唐突に思い出した。

私は一度死んでいて、今の人生は二度目だ。

生まれ変わって別人として新たな人生を歩んでいる、のではない。生まれ直して、再び同じ人生を歩んでいるのだ。


時が巻き戻っている!


現在の私は14歳。享年は16歳だ。まさか自分があと2年で死ぬとは考えたこともなかった。

死因は処刑だ。首をはねられて死ぬ。縄をかけられ、処刑台まで引っ張って行かれたときのあの屈辱と絶望、死の恐怖をまざまざと思い出し、発狂しそうになった。


私を殺したのはこの国の第一王子、ニコラスだ。


王子は私の婚約者だった。

いや、過去形ではない。今の人生に於いても現在進行形で、私の婚約者だ。

公爵令嬢である私なら、王子と釣り合いが取れると、幼いときに婚約が交わされ、ゆくゆくは王妃になる身と厳しく教育されてきた。


ニコラスは金髪蒼眼、整った顔立ちでスタイルも良く、机上の勉強は少し苦手だが、乗馬や剣術に優れている。女性にモテるタイプの男だ。私より一つ年上。


ニコラスは今年、船上パーティーを開く。

15歳の成人を祝うパーティーで、沖に出て領海を優雅に周遊してから帰港する、というプランだ。

パーティーの2週間前、事前に航路を巡るためニコラスは船出する。しかし天候が急激に変化し、嵐に遭って遭難。

嵐がおさまってすぐに捜索船が何艘も出たが、王子の消息は不明で、皆が諦めかけた頃に、見知らぬ漁船に乗って帰ってきた。

遭難から一年経ってのことだ。


嵐に遭った王子の船は岩礁にぶつかって大破し、大海へ投げだされた王子は、船の破片にしがみついて、何とか生きようとした。

しかし荒れ狂う黒い海に呑み込まれ、流された。

流され着いた先は小さな島だった。海岸に漂流物と共に打ち上げられていたボロボロの王子を拾い、助けたのが島の娘、カースティンだ。

彼女は王子の命の恩人だ。


だから彼女を伴って帰ってきたニコラスが、「ベラドナとの婚約を破棄して、カースティンと結婚する」と宣言したときには、驚いたがやむを得ないと思った。

死にそうなところを助けられ、手厚く介抱されれば、そりゃ恩義も感じるし惚れる。

カースティンはニコラスより年上で、飛び抜けて美しいとは言えないが、個性的で魅力的だ。

どうぞどうぞと思った。私は潔く身を引くまでだ。


6歳で王子と婚約し、婚約破棄を言い渡されるまでの9年間、王妃教育を強いられてきたことも、きっと無駄にはならない。

ニコラスには弟王子がいて、ニコラスが戻って来なければ、その弟王子が王太子となり、私と婚約し直す予定だった。そう国王陛下から説明されていた。


ニコラスは戻って来たが、私と婚約破棄するのなら、私は順当に第二王子にあてがわれるのだろうと思った。

第二王子、ルークスは穏やかで優しい少年だ。少し頼りない感じはするが、私より一つ年下で現在13歳だから、そこはまだ成長途上だ。


しかし、ニコラスの希望は叶わなかった。

カースティンは確かにニコラスの恩人で、国としても感謝すべき相手だったが、将来の王妃として相応しいかと言えば、また別の話だったのだ。


カースティンは自国の娘ではない。

他国の姫でもない。

独特の文明を持った、小さな島の娘だ。言葉も習慣も異なる。一年間その島で暮らしたニコラスは現地の言葉を日常会話程度には覚え、カースティンと話すことができるが、他の者はカースティンと会話ができない。

それはいずれ、カースティンがこの国で過ごす内に覚えるだろうとニコラスは主張したが、王妃になろうかという娘が、まず言語習得からというのはなかなか厳しく、王妃教育どころではない。


しかしニコラスと彼女は深く愛し合っている。

はるか遠くの島で、いちゃいちゃと愛を育んできたのだ。その仲を引き裂くことも忍びない。何てったって彼女は王子の命の恩人なのだから。

だから国王陛下は、ニコラスがカースティンを愛人として側に置くことをお認めになった。

正式な妻として認めることはできないが、愛人として一緒に暮らし、いちゃいちゃするのは良いよというわけだ。


ニコラスの正式な妻となったのは、結局私だった。

私は幼い頃からそうなるべくして教育を受けてきたし、身分や風貌も王妃として申し分ないからだ。

言葉が通じず肌の色合いが違う、見るからに異文化の娘と分かるカースティンは、保守派の年寄りたちに特に受けが悪かった。


どうせ、はなから政略結婚だ。

それならそれで良いと思った。夫に愛人がいても別に良い。面白くはないが、二人とは割り切って接するのが賢明だろうと。


しかし、それで良しとしなかったのは、カースティンだった。

ニコラスに婚約者がいることを知らずにこの国へ来た彼女は、それを知り、ひどくショックを受けた。私という正式なパートナーがいるなら、自分は島へ帰ると言い出した。


それを言葉巧みに引きとめたのは、ニコラスだ。

私との結婚は立場上の契約であって、全く愛はないと説明したらしい。

「真実の愛」で結ばれた二人の邪魔をしているのは私の方だと、ニコラスは彼女に言い聞かせた。


カースティンは私の存在に遠慮してか、怯えてか、慣れない環境に弱ってか、ニコラスに頼り切り、ニコラスの背中の後ろで隠れるようにして暮らした。


そうやってカースティンが怯えて暮らしているのは、私が彼女にひどい嫌がらせをしているからだという噂は、背びれ尾ひれを付けて広がっていった。


そこへ来て、あの毒殺未遂事件だ。

カースティンの食事に毒を盛った侍女は、私に弱みを握られて脅されたのだと証言した。

毒薬の出所もあっけなく突き止められて、私の側近が購入したと自白した。全て私の命令だったと。


全く身に覚えのない話だった。

濡れ衣もいいところだ。しかし証拠は続々と出揃い、裁判で死刑を言い渡された。


全てニコラスが仕組んだことだ。

立証することは出来なかったが、そう確信している。



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