計略
いや待てよ、金髪蒼眼だからニコラスとは限らない。
「私の知っている者かどうか、分かりません」
「そうか。島へ流れ着いた時期が被ってたから仲間かと思ったんだが。顔を見れば分かるよな。セバス、王子を連れて来てくれ」
「王子なんですか!?」
記憶喪失なのに、そこは覚えてるんだ!
「ああいや、アダ名だ。どこぞの王子みたいな服を着てて雰囲気もぽいから、勝手にそう呼んでるだけだ。呼び名がないと不便だからな」
さすが由緒正しい盗賊だ。見る目があるらしい。
「ああ、そういや着ていた服で思い出した。王子の右脇腹には、そう深くはないが刺し傷があった。あの状態で海を漂ってりゃ、普通は死んでるが、大巫女の結界領海に入ったのが幸いしたな。それと俺らの献身的な看護のお陰だな」
右脇腹に刺し傷。これはもうリーチが来た。ニコラスでビンゴだ。絶対死んだと思ったのに。
「王子を連れて来たぜ」
セバスに連れられて来た『王子』はやっぱりニコラスだった。
3日前に意識が戻ったばかりだからか、どこかぼんやりした表情で、見慣れない服を着ている。ヒューゴーの服だろうか。
「どうだ? 知ってる顔か?」
ヒューゴーが私に訊いた。
「……はい。ソラシアン王国の第一王子かと。私は他国の人間ですが、ソラシアンに留学していたこともあり、殿下のお顔を知っています」
「おおっ、やっぱり王子か。王子、良かったな! 身元が分かって」
ぽんっとニコラスの肩を叩いて、ヒューゴーが嬉しそうに言った。こうして並ぶとニコラスが幼く見える。
「ソラシアン王国か。なんとか帰れるようにしてやりたいんだが……如何せん、結界がなぁ」
ヒューゴーがため息を吐いた。
「大巫女様の結界から出られないんですよね」
「ああ。全く忌々しい女どもだ」
「この船なら出られる気がするんですけど」
間近で見て、確信したのだ。この船はやっぱりあの船だ。ニコラスがカースティンを連れて戻ってきたときに乗っていた船。
「いや、無理だ。何度も試したが、どこを目指してもこの島へ戻ってくる。結界の外に出るには、大巫女か巫女が必要なんだ」
「もしかして、巫女様が一緒なら出られるんです?」
前にニコラスが島から帰って来られたのは、カースティンが一緒だったから?
「ああ、そうだ。何度か巫女を拉致ろうとしたが失敗してな。この結界の中では巫女たちに敵わん」
「力ずくでどうにかしてやろう、ってのが駄目なんじゃないですか。北風と太陽のお話をご存じですか? 無理やり脱がせるんじゃなくて、自ずと脱ぎたくなるように持っていくのです。巫女が一緒に島の外へ出て行きたくなるように仕向けては?」
ヒューゴーの目の色が変わった。
「面白いことを言う。どうやって仕向けるんだ?」
「そちらの王子様を神殿へ。第5巫女のカースティン様と運命的な恋に落ちるでしょう。2人は王子の自国への駆け落ちを試みますから、この船で送ってあげればいいんですよ。あ、そのときは私も一緒に乗せて行ってくださいね」
ヒューゴーは苦い顔をして、「そんなに上手くいくわけがない」と言った。
「確かに、あの神殿に王子が行けば、巫女に色目を使われることは目に見えている。だがあそこで暮らしていると、外へ出て行こうという気力を奪われるんだ。子を成すための種として求められ、目的を達成すれば命を落とす。これは想像で言ってるんじゃない。事実俺たちの仲間が1人、そうやって死んだんだぞ。王子を拾ったのが島の奴らじゃなくて良かったと安堵してたのに、わざわざあんな所へやれるか」
カースティンから聞いて知っていた話だが、怒りを滲ませながら熱弁するヒューゴーに感心した。この人、普通にいい人だな。
「大丈夫ですよ。その王子様はカースティン様を籠絡します。彼が『一緒に国へ行こう』と言えば、喜んで付いてくるでしょう。必ずそうなります。断言しましょう」
「お前ーー……何者だ?」
ここはハッタリが必要な場面だと踏んだ。
「予知者です。私には少し先の未来が見えるのです。私の言うとおりにすれば、王子様もヒューゴーさんたちも国へ帰れますよ」
にこっと笑ってみせた。




