模擬戦
初めての戦闘シーンです。拙い文になっていると思いますが、よろしくお願いします。
「はい、今朝シシツキ先生から、お話があったように、あなた達には10日後、ダンジョンに行っていただきたいと思います。もちろん、油断すれば死にますよ?」
アカツキの言葉に、勇者たちは不安そうな表情を浮かべた。
それはそうだろう。下手したら、死ぬのかもしれないのだから。
その表情を見て、アカツキは満足そうに微笑んだ。
この中に、自分の力を過信する者はいない。そうなるように、徹底的に訓練したのだ。おのれの力を過信してはいけない。しかし、信用しろと。
「まあ、今回の目的は、あくまで実践がどういうものであるのかということを、感じてもらうためのものです。あなた達の最低限の安全は、私達騎士団が保証します。さて、では今日の訓練を始めましよう。今日から、シシツキ先生も一緒に訓練をしてもらいます」
そう言うと、アカツキはシシツキを見た。
シシツキはあの後結局、3時間遅れた罰だ。という学園長の鶴の一声で、強制参加になった。
この世界に体操服という概念がないため、各々で動きやすい格好をしている勇者よりも、さらに身軽な装備をしているシシツキは、あからさまに面倒くさそうな表情を浮かべている。その隣には、こちらも動きやすいような服に着替えたアイカが立っている。
アイカに関しては、ダンジョンに行くことをシシツキが猛反対したが、アイカは行くの一点張りだった。結局、シシツキが折れて、今のような状況になっている。
「それでは、始めましようか。今日はまずシシツキ先生とアイカさんがどれ位動けるのかによって、訓練の内容を調節しようと思っているので、準備体操が終わったら、まずシシツキ先生とアイカさんは、模擬戦をやってもらいます」
その言葉に、シシツキに勇者たちのキラキラとした眼差しが向けられる。それは、紛れもなく期待の目。
彼らは、普段自分たちが訓練しているばかりで、この世界の人間同士の模擬戦を見たことがないのだ。
「先生、頑張ってください!」
「センセー、頑張れ」
「応援してます!」
男女問わず、応援の言葉を投げかけられることから、シシツキがいかに慕われているかということが分かるが、シシツキはそれよりも呆れた表情を浮かべた。
「君たち、俺が研究者だということを忘れてない?」
シシツキの言葉に、勇者たちは声をハモらせながら言った。
「「「でも、先生だから!!」」」
「……」
初対面で、殺気を放ってくる人が、只者であるはずがない。
勇者たちの目がそう語っているのを見て、アイカはポンとシシツキの肩に手を乗せた。
「先生、自業自得と言うやつですよ」
アイカの言葉に、ガックリとうなだれてシシツキは、ノロノロと準備体操に取り掛かった。
勇者たちの純粋な期待の目に晒されながら、シシツキは何故こうなったんだと心の中で唸ったのだった。
準備体操が終了すると、アリーナみたいな訓練所に、シシツキとシシツキの模擬戦の相手であるフジワラ・トウヤの2人だけを残し、あとの全員は、観客席に移動した。
フジワラと言うと、今まで数多くの騎士を輩出していた家柄の貴族で、その中でもトウヤと言うと、騎士団の中でもトップクラスの実力を持つという。
しかしシシツキは、彼から発せられているピリピリとした闘志を受けてもなお、面倒臭いという態度を崩さない。
これが余裕から来るものであるのか、はたまた虚勢なのかは判断しづらいものであるが、それは模擬戦が始まれば分かるだろう。
「では、ルール説明をします。基本なんでもありです。剣でも魔法でもなんでもお好きなものを使っていただいて結構です。ただし、致命傷になる攻撃や、相手が降参・戦闘不能状態の時に攻撃を加えることは禁止です。制限時間はなく、勝敗は先に降参あるいは気絶を決着とします。それでは、頑張ってください」
それぞれが、それに了承をして、模擬戦が始まる。
アカツキは、トウヤとシシツキが頷いたのを見て、開始の合図をするために、一歩下がる。
「それでは、始め!」
振り下ろされた腕と、開始を知らせる言葉。しかし、トウヤもシシツキも1歩も動かない。
「先手は、あんたからどうぞ」
油断なく構えたトウヤにそう言われても、シシツキは肩を竦めただけで、動こうとしない。
「俺から踏み込んだら、良いように吹っ飛ばされて終わりじゃん」
そう宣うシシツキのそれぞれの手には、短剣が握られている。
対して、トウヤが構えているのは大剣。トウヤのスラリとした体のどこにそんな力があるのか分からないが、構えている姿勢からして、常人が片手剣を振り回すノリで、その大剣を振り回すだろう。
だから、力が無いと自負しているシシツキは、容易に踏み込めない。
さて、どうしたものかな。
シシツキは自身が持っている刃の潰された短剣を見た。
いかにも訓練用のためだけに作りましたと言わんばかりの無骨な短剣は、刃が潰されているとはいえ、あの大剣とぶつかってしまえば、使い物にはならないだろう。
いや、そもそも、
「近づかなければいいのか」
そう。敢えて相手が得意であろう近距離戦に持ち込む必要は無い。
シシツキはボソリと呟くと、短剣をしまい込んだ。
その意味を、トウヤは正確に汲み取った。
「…魔法か?」
「正解。“踊レ”」
シシツキご唱えた、魔法を発動させるための詠唱は、とても短い。
通常は、詠唱が長ければ長いほど、強力な魔法が打てる。
だから、トウヤは油断した。しょせん相手は、歴史を研究している気狂いだ。そもそも、戦闘能力があるはずがないと。
しかし、相手はこの国最強の副騎士団長と“兄弟の盃〃を交わした、義弟だ。そんな人が、只者であるはずがない。
結果、現れたのは大きな鳥の姿をした炎の塊だった。
それは、勇者達にとっては、ゲームなどで慣れ親しんだ、不死鳥の姿を取ると、シシツキの肩に止まった。
「なっ!有り得ない。魔法で生き物を作るなど!!」
思わずそう叫んだトウヤに、審判として比較的に近くにいたアカツキが、自慢するように言った。
「シシツキは、身分さえあれば、宮廷魔道士団の次期団長であると言われた人ですよ」
まるで自分のことかのように誇らしげに語るアカツキにゲンナリとしつつ、シシツキはトウヤを見た。
トウヤは、酷く混乱はしているようだが、その闘志が衰えた訳では無い。
むしろ、先ほどとは打って変わって楽しげな笑みを浮かべた。
「それは、いい情報を貰った。ありがとうございます、副騎士団長。手加減をしなくてもいいんですよね?」
突然、やる気になったトウヤに、シシツキは嫌な予感がした。
ガバリと、アカツキの方を振り返った。
「ねぇ!このひと絶対に戦闘狂だよね!?」
シシツキの叫びに、アカツキはスッと目を逸らして、虚空に向かって、頑張ってくださいと言葉を投げた。
しかし、その先には、誰もいない。
「では、遠慮なく殺らせてもらいます!!」
「なんかニュアンス違う…って危な!!」
目にも止まらぬ速さで距離を詰めたトウヤを、間一髪でかわすと、シシツキはその勢いのまま、何とか距離を取ろうとした。
が、そんなに甘くはない。
大剣を操っているとは思えないほどの速さで、シシツキを追尾すると、再び大剣を横一線に振るった。
このままではよけられないと判断したシシツキは、咄嗟に短剣を抜いて、トウヤの剣戟を受け流す。
受け流されたトウヤは、勢いを止めきれず、半身をシシツキから背を向ける形になる。
その隙を見逃すシシツキではない。迷わず急所である首を狙いに行く。
それを躱したトウヤは、今度は逆に距離をとって体勢を立て直そうとしたが、シシツキは追い打ちをかけるように、不死鳥を放った。
「アハハ!そうこなくては!!」
「もう嫌だ。この戦闘狂っ!」
向かってきた不死鳥を水で作った障壁で防ぐと、トウヤは間髪入れず、攻撃をするため、シシツキに向かった。
今度は、休む暇さえ与えない連撃を繰り返すトウヤに対して、シシツキはそれを受け流し、隙ができたら迷わず攻撃をするという、応酬となった。
体力や力といった面では、トウヤに遅れをとるシシツキだが、技量はトウヤよりも遥かに上。だからこそ、成り立つ戦闘である。
観客席に座る勇者たちとその他の騎士団のメンバー、アイカが固唾を飲んで見守る中、とうとう決着がつく時がやってきた。
徐々に、シシツキの動きに精彩さが、欠けてきたのだ。有り得ていに言うと、体力が底を尽きた。
それはそうだろう。研究で部屋に籠りっぱなしの生活を送っていのだから、自然と体力は低下する。むしろ、騎士団のトップクラスの実力を持つトウヤに、ここまで耐えた。
キィンという音とともに、シシツキの左手の短剣が弾き飛ばされた。
それにより、かろうじて保たれていた均衡が破れた。
留めとばかりに大剣を振りかぶったトウヤに、シシツキは肩で息をしながら、ボソリと詠唱をした。
「”舞エ”」
魔法の発動は、間に合った。
大剣があと10センチでシシツキに触れるというところで、シシツキの足元から吹き出した炎が、トウヤを大きく弾き飛ばしたのだ。
シシツキは、壁を大きく陥没させることで止まったトウヤに、近づくことはせず、声をかけた。
「まだするの?」
トウヤは、もちろんと頷きつつ、立ち上がろうとした。
しかし、トウヤの膝の上には、先ほど水の壁でかき消したと思っていた不死鳥が、ちょこんと居座っていた。
それを見て、トウヤはピシりと固まった。
「なんで?」
「そいつは、不死鳥と言って、勇者の世界の空想上の生き物をモチーフにした魔法だ。炎から生まれる永久の生命を持つ鳥。だから、そいつは俺が魔力の供給を止めない限り、ずっとあり続ける。ちなみに、威力はこの訓練所なら、灰に出来るくらいはあるよ」
それでもまだやるの?と告げるシシツキに、トウヤは両手をあげる。
「流石に、この状況をどうにか出来る技術は、持っていないから、降参です」
トウヤの降参の声を聞いて、アカツキが立ち上がった。
「勝者、シシツキ!」
その瞬間、ワァと勇者達から歓声が上がった。
「さすが先生!!」
「先生カッコイイ!」
しかし当の本人は、勇者たちの歓声に答える体力もなく、ヘタリとへたりこんだ。
「も、動けない…」
「お疲れ様です。とりあえず、シシツキは体力をつける訓練をしましょう。予想よりも、体力が落ちているようですしね」
「えー、まだするの?」
昔、共に訓練をしていた頃のように、シシツキが立ち上がるのに手を貸したアカツキがクスクスと笑った。
「駄々こねてもダメですよ?」
「流石にここまでやって捏ねないよ」
憮然としながら言ったシシツキに、アカツキはさらに笑みを深くした。
その2人に、近づいてきたのは、シシツキの対戦相手役を務めたトウヤである。
「いやー、完敗です。また、よろしくお願いします」
ヘラりと、最初の頃と比べると軽い笑みを浮かべたトウヤは、シシツキに握手を求めた。
「いや、こちらこそありがとう。もうやりたくはないけど」
「ハハハ、何言っているんですか?これから一緒に訓練していく仲なのに!」
握手を交わしながら、そんな言葉を交わしていると、観客席から降りてきたアイカや勇者達が、シシツキに群がった。
「先生、あの鳥の魔法って、どうやっているんですか!?」
「凄かった!」
「流石、俺達の先生だな」
「君たち・・・へばっている人間に、しがみつかないでくれるかな?」
興奮で、シシツキの服を引っ張っていたりした勇者たちが、あっという顔をした。
「ごめんなさい、先生。気分が高揚して、気が回らなかったわ」
シュンと落ち込んだしたカレンに、シシツキは仕方ないと頬をかいた。
「いや、まあ・・・君たちも、応援してくれてありがとう」
照れ隠しでそっぽ向きつつ、言ったシシツキに、勇者たちは、顔を見合わせてクスクス笑った。
「柄にもないことをして、恥ずかしいんですよね、先生」
「そこをつつかないでくれるかな、アイカくん!それよりも次は君だろ。頑張れ」
顔を真っ赤にしつつ、投げるてるように言ったシシツキに、アイカは力強く頷いた。
「もちろん。先生の助手である私が、負けるはずないじゃないですか!」
ニコリとしつつそういったアイカに、シシツキはどこからそんな自信があるのだろうかと疑問を抱きつつ今度は、観客席に移動した。
結果、先ほどのシシツキと同じように始まった試合は、一方的な展開になった。具体的に言うと、アイカが一方的に攻撃をして、あっさりと勝った。
別に相手が弱かったという訳では無い。
何故なら、トウヤが自分と同格の騎士だと言っていたのだから。
強いて言うならアイカが、強すぎたのだ。
アカツキだけが、やっぱりという顔をしていたことから、アカツキだけは実力を察していたらしいが、シシツキは唖然としていた。
そして、模擬戦を終えたアイカは、一直線にシシツキの元へ向かった。
「先生は、私が守りますから」
「えっ、あ、うん・・・、ありがとう?」
そう言い切ったアイカが、普段と違い、とても漢前で、珍しくシシツキが困惑していた。
ついでに言うと、何人かの女勇者たちは、この瞬間にアイカに惚れたという。
お粗末さまでした。