女神との戦い…?
「言葉ではなく武力に頼るとは、呆れた女神だよ」
シシツキに向けられた女神の刃は、アイカの剣って止められていた。名のある聖剣どうしが悲鳴をあげるほど、鋭く重い衝突だった。
まさか止められるとは思ってもいなかったのだろう。初めて女神はシシツキから視線を外した。
「貴様、誰に楯突いているのか分かっているのか」
恨みが詰まった重々しい口調に、アイカは艶やかに微笑んで返した。
「もちろん、この世界の侵略者ですよ」
女神から怒気が溢れ出した。気の弱いものならばそれだけで死に連れていかれるであろう、凄まじい衝撃だった。
人では考えられない、感情の起伏が周りに影響を与えているのを見ると、やはり彼女も神であるのだと否が応でも理解する。
しかし女神の息苦しいくらいの殺気にもアイカは怯まない。
「癇癪を起こしたところで、現実は変わりませんよ?」
それどころか、飄々と相手を煽りに行くあたり彼女にとって、この程度は子供の癇癪程度のものなのだろう。
女神が、大きくひいて助走をつけてアイカに襲いかかった。
そして、勇者たちを置いてけぼりにして、シシツキ達の戦闘が始まった。
初めはアイカと打ち合っていただけだったのだが、いつの間にやらシキやオウキが遠距離から魔法ではない何かをうち初め、シキョウと名乗った小柄な少女が身軽に拳で殴り込んで行った。
その戦闘は魔王と戦って勝利したはずの勇者たちでさえ、あまりの速さにパワーに手がだせない。
ここまできても何もできない自分自身に歯噛みしているアカツキに、豊満な体をもつ褐色肌の女性が近づいてきた。コウメだ。
「あんたたちが勇者かい。話に聞いてたより頼もしそうじゃないかい」
後ろですさまじい戦闘が繰り広げられているとは思えない飄々としたその態度を見ると彼女も強者であるのだろう。
急所にだけ当てられた鎧と最低限の衣から除く健康的な肌が、男女問わず目に毒である。
彼女は戦闘に参戦しないのかと、表情に出ていたのだろう。コウメがククッと笑った。
「あたしの役割は、守護。彼らが気持ちよく戦えるための裏方さ。しばらく大人しくしておきな。どうせすぐ決着がつくよ」
コウメの言葉通り、女神との戦いは時間にして3分程で終わってしまった。
女神は強大な力を持ちつつ、戦いには慣れていないようであった。戦術もなく、ただがむしゃらに魔力と剣を振り回しているだけでは、シシツキ達には勝てない。
あっという間に無力化された女神は、ボロボロになった髪を振り乱しながら威厳を投げ捨て、泣き叫んだ。
「お前たちに私の何がわかるっ!!!私という存在は忘れられ、力も弱り、どんどん存在が消えてゆく恐怖が。あの方に声をかけても貰えない神のみじめさを」
その姿は、先程までの凛々しさはどこか遠くへ行ってしまい、自分の主張を押し通そうと泣きわめく少女のようであった。
さすがにとどめを刺そうとしていたシシツキもドン引きした瞳で彼女を見ており、その手は止まっている。
「ちょっと落ち着きなよ…」
「落ち着けるかっ!あの世界には、優秀な姉たちがいた。私の存在意味などどこにもなかった。戦はできない、人々の縁を繋ぐことも出来ない、知恵を与えることも出来ない、そんな私は消えるしかなかった。だから別の星で力をつけて、あの憎き姉たちを見返してやるつもりだったんだよ!」
まるでぶちまけるように吐き出された女神の過去を、オウキは鼻で笑って受け流した。
「だからと言って、この世界の人々を巻き込んだ罪は重い。あんたのせいで、幾重もの運命が狂わされた。この星の運命も」
天寿を全うするはずだったものが、魔物によって若くなくなり、王になるはずだったものが、奴隷として生きている。
そんな歪な世界なのだ。
歯車が狂った機械が動きを止めるように、この世界も彼女の介入によって終焉へと向かうしかない。
女神はキッとオウキを睨んだ。
「そんなことわかっている。でもそれはこの世界の神が残っているからでしょう。私が焔の神であれば、綺麗に一掃することが出来たのに」
女神は自信満々に言ってはいるが、あっさりとシシツキに下された女神がどうしてこの星の神々からこの世界の主導権を奪うことが出来たのか。
「私達もそれほど弱くなっていたということです…。こんな小娘にあっさりとやられてしまうとは、黒歴史ですので聞かなかったことにしてくださる?」
天照大御神の言葉に、女神が嘲笑った。
「まさか、本当に成功するとは思ってなかったけど、幸運だった。まさかあんなに雑魚だったなんて」
それほど、人々の信仰心は薄くなっていたのだろう。
日本の主神でもあった天照大御神がここまで弱くなっていたのならば、他の国々の神も同様だった。
「それより、この女神どうする?思ったよりこの世界にくい込んでるから主導権を取り戻すの面倒くさそうだけど」
「消滅させてしまえば、こっちのもんだろ」
「それもそうだ」
物騒な会話で、自身の身の上を思い出したのだろう。
女神は急いで口を噤むが、オウキとリュウジはその言葉通り、消滅させる気でいるのだろう。
シシツキは、さてと顎に手を当てた。




