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先生は勇者と共に…  作者: 朱音
第3章
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再会

前話後半に内容を少し付け足しました。そちらから読んでください。


テルアキは暗い牢獄の中で足を抱えて座り込んでいた。

4畳ほどの小さな石作りの牢獄には、寝るためのベットしかない。

魔族を学園に手引きした罪でこの牢獄に入ったテルアキは、暗闇の中で安堵の息を吐いていた。


テルアキは家族が怖かった。

父親は厳しい人で失敗を許さない。鈍臭いテルアキはそつなくこなすということが出来ず、失敗をしては怒鳴られ叩かれた。母親はそんな父を見て見ぬふりをするどころか、ことある事にテルアキを虐げた。

だから、テルアキは両親に逆らえなかった。逆らえば、今まで以上に辛いことになるだろうから。学校も職も、結婚相手も、決断する時は、いつも彼らの言うがままだった。


だから、この世界に召喚されて途方に暮れた。

用意されていたレールが突然消滅したのだ。さらに、教師という職から勇者という職業になり、テルアキは自身が何者なのかわからなくなった。これまでの両親の傀儡として生きてきたテルアキには、全部自分で決めることができるこの生活は、苦痛でしかなかった。


帰れるのなら帰りたい。


藁にもすがる思いで、魔族と取引した。

その結果は見ての通り、魔族は敗北し、手引きしたテルアキは投獄された。処刑されるのかと思っていたがなかった。


国としては、1人でも多くの勇者を手元に欲しいのだろう。

それが、犯罪者であろうと。


「109番、面会の要請が来ている」


目深くまで規定の帽子を被った看守が、ぶっきらぼうにテルアキに告げた。


「……誰」


 面会が来るなんて思ってもいなかった。テルアキはお世辞にも慕われている先生でも生徒でもなかったからだ。

 看守は格子越しにテルアキを見下ろした。その視線が、かつての父親の視線と重なり肩を震わせた。

 そんなテルアキを看守は呆れたようにため息をついて、外に出るように促した。


 面会室は、イメージしていた通り、部屋の真ん中が厚く透明なガラスのようなもので仕切られた空間だった。

 予想外だったのは、向こう側に座る人影だろうか。


 よくも悪くもない平凡な顔立ちに、緊張を浮かべた人物に、テルアキは心当たりがあった。

 たしか、学力も身体能力もクラスの中の中だったその人物は、テルアキの姿を認めると、詰めていた息を吐いた。

 一方のテルアキは、呆然としたままうわごとのように名前を呟いた。


「神谷春兎」

「お久しぶりです、安藤先生」


 小さく頭を下げた春兎に看守は面会時間の確認をすると、さっさと扉の向こう側に消えた。

 それだけで、春兎は肩を大きく落とした。


「こういう場は、緊張する……。改めまして、お久しぶりです」


 テルアキに向こう側の世界にいた頃と変わらない笑顔を浮かべる春兎に、テルアキは警戒心を抱いたまま、用意されていた椅子に腰かけた。


「用事はなに」


 挨拶もせず早速本題を促したテルアキに、春兎は苦笑した。

 あのおどおどした態度は無くなったが、改善されているわけでは無い。自暴自棄の末のこの態度はよいものとはいいがたい。

 しかし、そんなことを指摘して口論になったら、せっかくの面会時間がもったいない。


「単刀直入にいいます」


 だから、春兎もさっさと切り出した。無駄な時間を費やしている暇はない。

 なぜならこれからの交渉に、この世界の未来の一部がかかっているのだから。


「あなたにお願いがあってきました。それは、これから女神と対立するシシツキ先生に、ついていってほしいんです」

「どういうこと、それ」


 春兎の言葉は突拍子もなく、表情が無かったテルアキもさすがに、目を白黒させた。

 テルアキの返しは想定済みだったのか、春兎は落ち着いた口調で、説明しますといった。


 滔々と春兎が話し出したのは、この世界は地球であること、女神によって奪われたこと、その理が崩壊し始めており、近い未来この世界は滅んでしまうということだった。

 その話の内容は、シシツキ達が晴明から聞いていた話と全く同じ内容だった。シシツキたちは、生き証人である晴明から話を聞くことで、その事実を知った。

 

 では、なぜ春兎がそのことを知っているのか。


「君は、“伝承者”だったんだね。いや、この場合“伝える者”と言ったほうが正しいのか」

「さすが、あの一族の方ですね。よく知っておられる」

「いや、僕の家は分家もいいところだよ。本家の方々とは比べ物にならない劣悪品だよ」


 自嘲の笑みを浮かべたテルアキに、春兎は首を横に振った。


「それでも、あの方の血を一番濃く受け継いだのはあなたですよ、安藤先生」


 春兎の言葉に何も返さず、テルアキは話を進めた。

 お互いの表情は、先生と生徒で浮かべる類の表情ではなくなっていた。対等な存在か同胞に出会った時のような、外面を取っ払っている状態だ。


「シシツキ先生が女神を倒しに行く経緯は理解した。で、なんで僕が同行しないといけない。戦闘にはあまりむかないのだけど」

「安藤先生の果たしてほしい役目は、戦闘にはありません。女神を倒したあとに安藤先生のその力が必要なのです」


 迷いなく言い切った春兎に、テルアキは怪訝そうな顔をした。


「なぜそう言い切れる」

「“預言者”に会ったからです」

「なんだって!?」


 テルアキは、驚きのあまり椅子を倒すほどの勢いで立ち上がった。

 

 春兎もつい先日、“預言者”がひょっこり現れた時は、驚きの余り椅子を蹴倒し、持っていたコップの中身をぶちまけ、自身も机に膝を強打して悶絶した。

 それと比べれば、テルアキは冷静なのか。


「“預言者”は、一部のハッピーエンドはテルアキが握っているといっていました。ちなみに、“預言者”は、シシツキ先生のお知り合いの人でしたよ」


 付け加えられた“預言者”の情報に、テルアキはやれやれと頭を振った。


「つまり、僕は物語の最後の仕上げのフォローをしろと」

「その通りです」

「わか……」


 テルアキの返事と同時に、看守が時間だといって入ってきた。

 タイミングが悪いと、内心舌打ちをしながら春兎は、問答無用で退室させられそうになっているテルアキの背中に、声をかけた。


「明日、もう一度来ます」


 その言葉が届いたのか、かすかに頭が動いたのを確認して、春兎も退室したのだった。


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