自分自身と…
埒が明かない。シキは素直にそう思った。
実力は拮抗しており、思考も同じならば、どのように決着をつけろというのか。
考えろ。生き残るために。
ちらりと横を窺うと、背中合わせで戦うオウキとリュウジの姿が見えた。
息のあった連携で、戦っているようだが、それは相手も同じ。
結果シキと同じように行き詰まっているようだ。
「情けない…。それは、以前のお前達。それにも勝てないようなら、戦う資格、ない…」
そう屋根の上から言葉を振りかける少女は、シキ達に瓜二つな式を作り出した術者なのだろう。
顔の下半分を布で隠してしまっているため、目元しかわからないが、それでも彼女が美しい顔立ちをしていることが伺える。
いつの間にか現れ、シキ達に野次を飛ばしてくる少女の目的はわからないが、不思議と彼女自身からは、敵意を感じない。
「以前の自分か」
シキは距離を取って向き合う自分自身を見つめた。
彼女の言う以前が、どれほど前なのかわからないが、あれは過去の自分なのだ。
ひとりぼっちでいいと考えていたあの頃。
カレンと一方的に縁を切り、誰とも馴れ合わなかった。
だから、個人戦はシキの真骨頂である。連携とかそんなの関係ない。シキが思ったように戦う。
背中を任せる相手は、自分自身で十分だ。
「以前の俺なら、負けてられるかってんだ!!」
オウキが吠えた。と、同時にぶわりと黒く染まった霊力が、溢れ出した。
使うのは、陰陽術…ではない。
あれは、この世界の魔法。本来魔力で使うはずの魔法を、霊力で無理矢理発動させたのだ。
陣が浮かび上がる。
しかし、無理矢理発動させたのだから当然だが、発動までのタイムラグが長い。
もちろん、その事に気がついてオウキにそっくりな式は、オウキに攻撃を仕掛けるが、それはリュウジによって阻まれた。
「思考も一緒なら、読みやすいことこの上ないな、お前は」
リュウジが、若干失礼なことを言った気がするが、本人に届いてないのなら、良しとしよう。
まさに、シキとは対極なチーム戦。
オウキが攻撃して、リュウジが守る。流れるように、立ち位置が入れ替わるせいで、シキにはどっちが本物でどっちが偽物かの判別がつかない。
ジワジワと戦況が、本物の方に傾いてきた。
なんせ、魔法というあちらの世界では未知な技術で、戦闘の幅が広がっているのだ。
偽物が、徐々に押され始めるのも無理はないだろう。
若干、力任せではあるが。
「よし」
シキは気合を入れ直した。
自分は、陰陽師だ。それと同時に、シシツキの弟子である。
シシツキに情けない報告をしている場合では無い。
偽物の拳をいなす。
この動きは、単調すぎる。この程度の攻撃をアイカに叩き込んだら、倍以上になって返ってくる。
カウンターで偽物の顎に拳を入れると、偽物は衝撃を逃せなかったのか、フラフラと後退した。
シキョウなら、シキの拳でふらつかない。それどころか、カウンターのさらにカウンターを放ってくる常識知らずなことをしてくれる。
距離が出来たら、接近戦から術戦へと切り替えだ。その時、相手がまだ拳や武器を構えているのか、または相手も同じく術戦をしようとしているのか見分けなければならない。
これが出来ないと、コウメの大剣で痛い目にあう。
相手はまだ拳の余韻が残っているようだが、術を唱えている。
甘い。甘すぎる。
詠唱は短く且つ効果が増えるようにと、耳にタコが出来るくらい、シシツキに言われ続けたのだ。
一言で発動できるようになった今、スピードは段違いである。
結果、偽物の方が早く術を紡いでいたにも関わらず、シキの方が早く発動するという理不尽なことが起こった。
間に合わないと悟った偽物が、回避を試みようとするがもう遅い。
偽物は、赤い炎に彩られ、元の紙に戻った。
やれやれと一息ついたシキは、背後の爆発音からあちらも決着が着いたことを悟ると、屋根の上にいる少女をみた。
少女はパチパチと手を叩くと、屋根の上から身軽に飛び降りた。
少女の長い黒髪が、それに合わせてふわふわと漂った。
「いい戦いだった。わんだほー」
「おちょくってんのか?」
戦闘後だからか、いつもより気が立っているオウキが、少女に掴みかかろうとするのを、シキが止めた。
「おちょくってるつもり、ない。これが、私の通常運転。あんだーすたんど?」
感情がない声音でそう宣う彼女は、至って真剣らしい。
オウキの血管が切れる前に、話をしてしまおうと、オウキを押さえるのに必死なシキに変わって、リュウジが口を開いた。
「お前の目的はなんだ」
「私の目的、お前達の実力、見ること。敵対するつもり、ない」
少女はトントンとつま先で地面を叩いた。
「私の名前、阿鬼影。詳しいこと、主が説明。だから、案内する」
その言葉と同時に、少女の影がぶわりと広がり、シキ達を包み込んだ。
「なにを…!!」
「てめぇ、騙しやがったな!」
「案内する、言った。騙してない」
影はシキ達を全て飲み込むと、するすると小さくなり消えた。
シキ達と阿鬼影と共に。
◇
僅かな浮遊感。そしてその直後、シキ達は畳に叩きつけられた。
「いてっ!」
皆それぞれ、打ちどころが違ったようだったが、頭からまともに落ちたオウキが、1番ダメージが大きそうだ。
シキが辺りを見廻すと、見知らぬ顔ぶれの中に、見知った面々もいた。
「先生、無事だったんですね!!」
猫まっしぐら…ではなく、シキはまっしぐらにシシツキに駆け寄った。
「シキくん、お疲れ様」
シシツキの言葉に、シキはいやいやと、首を横に振った。
「僕は、全然大丈夫でした。大した敵じゃなかったですよ」
途中まで大苦戦していたくせによく言うと、阿鬼影は思ったが、賢明にも口には出さなかった。
その様子を微笑ましく見ていた、シシツキを招いたあの老人が、ようやく口を開いた。
「ほれほれ、感動の再会はそこまでにせんか。話すことは山ほどあるのじゃぞ」
キツネ目をさらに細めて、ほけほけと笑う老人に、シキは何となく逆らえず、シシツキの近くに空いてあった座布団に座った。
オウキとリュウジも各々空いている座布団に勝手に座った。
「これで、全員じゃの。では、まず自己紹介だのう」
ダンジョンよ主にして、老人の姿をとる彼は、ゆっくりとまるでサプライズをするようににまにまと、頬を緩めた。
「我が名は安倍晴明。このダンジョンの主にして、遠い平安の時代を生きた陰陽師よ」




