再会
シキョウは、軽快に屋根の上を疾走していた。
目指す先は先ほどと同じく…と言えず、剣と剣が合わさる戦闘音のする方向に変更されていた。
そこに行けば、誰かに出会えると信じて。
辿り着いたのは、周りの建物と比べて重々しい空気を醸し出すところであった。
「誰がおんねんやろ」
その建物敷地内に降り立ったシキョウが見たものは、コウメと剣を合わせる…
「おと…女…男の人?」
「失礼な子ね!私は乙女よ!」
むきぃと憤慨するシスイにコウメの大剣が振り下ろされる。
それを半身をひくことで躱したシスイは、反撃とばかりにがら空きになっているコウメの脇腹を狙って掌底を打ち出す。
先ほどまでは、この一撃が決まっていたのだが、今ではかすりもしない。
それどころかコウメは、伸ばされた腕をからめるように軸にして、柔道の背負い投げの要領でシスイの身体を地面にたたきつけた。
「今のは、よかったわよん」
しかし、その攻撃も、空中で身をひねったシスイにより、彼の服に泥をつけることさえ叶わなかった。
「それはどうも」
「この調子だと、あっという間に追い抜かされちゃうわね」
比喩でもなんでもない、シスイの本心だ。
戦いを教え始めてから、たった1時間弱でこれ程の成長を見せたのだ。
初めの頃は素直にシスイの攻撃を受けていたコウメを思うと、成長は一目瞭然。むしろ感慨深いものがある。
「それより、お嬢ちゃん。あなた、試練はどうしたのよ?」
確か、シキョウの相手は水月だったから、惑わせのなんちゃらだった筈とつぶやくシスイに、シキョウはあっけらかんと告げた。
「なんか、同じとこループしとったから、ループするとこを思いっきりぶん殴ったら、出られた〜」
「「……」」
んなアホなと、言いたい所だが、事実その通りでシキョウは難なく試練を突破していたのだ。
「…凄いわねぇ」
呆気に取られているシスイとの距離を、音もなく詰めたコウメは、これまた音もなく大剣をナナメに振り上げた。
「あっぶないわぁー!」
「余所見をしている方が悪いんだったよねぇ?自分の言ったことに責任は持たないと」
「あら、言うじゃないのっ!」
シキョウが見守る中、決着の時はすぐそこまで近づいているのかもしれない。
◇◆◇◆
シシツキは、ただひたすら廊下を歩いていた。
いくつか扉に手をかけてみたが、なぜかその手をおろしてしまって、開けることはできなかった。
何者かに導かれている。
シシツキはそう感じていた。
そして、長かった廊下の曲がり角を曲がった。
すると、暗闇のみだった景色が一変した。
そこには、月明かりに照らされた庭が姿を現したのだ。
王宮にある庭のような、バラなどか美しく咲き乱れているわけでは無い。
しかし、池と石とわずかな木々により作り出された景色は、整然と静かな美しさをたたえていた。
「綺麗なもんだろ?人の作り出す世界は、これだから、目が離せない」
後ろから、シシツキの聞きなれた声が聞こえた。
しかし、その声は当の昔に失ったものではなかったか。
まるで出来損ないのロボットのようにゆっくり振り返ったシシツキに、カラカラと軽快な笑い声が飛んできた。
「な、なんだぁその動きっ!俺を笑い死にするつもりか!?」
「……」
間違いない、笑いのツボがずれている細身の40歳くらいの男性は、シシツキの育て親であるナナホシで間違いなかった。
「何で…、生きて…?」
「んなわけないだろ。俺は死んだよ、あの時」
目尻に溜まった涙を拭いながら、ナナホシは手を横に振った。
「ここのダンジョンの主に無理言って、時間を取ってもらったんだよ、お前と話すために」
笑いが落ち着いたナナホシの瞳は、まっすぐシシツキを見つめていた。
その視線に耐えかねて、シシツキから視線を逸らした。
「俺に、恨み言でも話に来たの?」
「んなわけないだろ」
「じゃあ、ヒナタを守れなかった俺を叱りに?」
「あれは、俺の責任だ。お前が背負うもんじゃねぇよ」
「じゃあなんでっ!」
取り乱すシシツキに、ナナホシはそっと微笑んだ。
死んでから5年の月日が経った。
久しぶりに会った息子は、大きく…とは言えないが、立派に成長していた。
しかし、中身はあの頃のまま。
あの時の傷は、今もシシツキの体に刻み込まれてしまっている。
その傷を決してやれるのは、腕のいい医者でも、大切な友人などではない。
当時者である、大切な家族だ。
「まあ、のんびり茶でも飲みながら話そうぜ。積もる話もあるしな」
そう提案するナナホシの瞳は、黒く光っていた。




