縁
まるで鏡を見ているようだ。
シキは、剣を合わせる相手の顔を見ながら、そう思った。
その顔は、シキそのもの、瓜二つであった。
顔だけではない。背格好や表情、更に技までもが全く同じなのだ。
チラリとシキが横を見ると、途中で合流した、オウキとリュウジも同じ状況の様だ。
シキから見たら、もはやどちらが本物なのか分からない。
「どうなってやがる」
「分からない」
なんせ、3人が合流したと同時に現れ、有無を言わさず攻撃していたのだ。
分かれという方が無茶である。
ひとまず偽物から距離を取った3人は、追撃をしない偽物と睨み合う形になった。
「とりあえず、相手を倒さないとどうにもなんねぇだろ」
パンと、オウキが柏手を打つ。
そして、その体から、ジワリと霊力が滲み出たかと思うと、ダムが決壊したかのように、溢れ出した。
それを見たリュウジは、懐から十字架を取り出した。
「主よ」
リュウジの言葉に反応して、十字架が姿を変える。
それは薙刀に近い様相をしていた。
柄の部分や刃に、アルファベットが刻まれているのがわかり、それ自体からも霊力が感じ取れる。
「…本当に、陰陽師と退魔師だったんだね」
それを目の当たりにしたシキが感慨深そうに呟いた。
それが聞こえたオウキが、キッとシキを睨んだ。
「俺らが嘘ついてるとでも思ってたのか?」
「どちらかと言うと、半信半疑だった。だって、それらしい素振りを今まで見たことなかったから」
むしろ、誰かに何かを吹き込まれていた可能性も考えていたと、素直に白状したシキに、オウキは舌打ちをプレゼントした。
「言いたいことは山ほどあるだろうが、今は目の前の敵に集中しろ」
リュウジに窘められ、2人は改めて、敵を見た。
一卵性の双子のように、瓜二つの敵だが、本物と決定的に異なる点があった。
それは、薄らと額に浮かぶ黒い五芒星だった。
「構造的には、誰かが作った形代みたいだな」
何が目的で、瓜二つの姿で襲ってきたのか分からないが、倒すことを優先するべきだろう。
これに異論を唱えるのは、この場にいない。
開始の合図こそ無かったものの、3人とも一斉に、自らの偽物に刃を振りかざした。
◇◆◇◆
さて、ところ変わってコウメも、戦闘の最中であった。
「であっ!!」
ガキィンと鈍い金属音が、相手にダメージが入っていないことを知らせた。
「強いねぇ、あんた」
「いやーそれほどでもないわよぉ」
語尾にハートマークが付きそうな喋り口調に、見た目は美女だが喉仏にガッシリとした体格。
いわゆるオネェか。
しかし繰り出す技は見た目の意外性に対して、武芸に忠実な綺麗な戦い方だ。系統としては、シシツキの極められた技と同じだろう。
「ほらほら、大振りになりすぎて脇が空いてるわよん!」
「……」
そして何故か修行みたいになっている。
彼女…ではなく彼の言うことは、確かにコウメが気がついていなかった弱いところだはあるものの、敵に指摘されるという自体に釈然としないものを感じている。
「あんた、何で…」
「あら、あんたなんてよそよそしい!志翠って呼んでちょうだい」
「シスイは何で、あたしと戦うんだい?」
空を斬るような横薙ぎを軽々と躱して、志翠はコウメから、少し距離を取った。
「あらやだ。私話してなかったかしら?」
「あぁ、聞いてない」
「やだ、もぉー。ごめんなさいねぇ」
初めに説明するつもりだったんだけどと、志翠は頬に手をあてる。
見た目美女がやっているので、品のある仕草だと、言いたい所だが、むき出しになった筋肉隆々の腕が、ギャップを生みすぎて目に毒だ。
直視しないように努めつつ、コウメは志翠に先を促した。
「私の主って、ここのダンジョンのラスボスなんだけどぉ、色々訳あって、あなたを鍛えることになったのぉ」
聞きたい部分が色々と隠れてしまっているので、コウメは質問を重ねた。
「他のみんなは?」
「それぞれの試練に立ち向かってるんゃないかしら〜」
「みんなは試練なのかい?」
じゃあ、これも試練だと言うのかと、首を傾げるコウメに、志翠は首を横に振った。
「そんな訳ないでしょ。これはれきっとした修行よぉ」
明らかに不満の表情を見せたコウメに、志翠は仕方ないじゃないのと言わんばかりに肩を竦めた。
「だって、あなたが一番弱いんですもの。試練云々じゃないわ」
グッとコウメが、開こうとした口を押しとどめた。
まさに図星なのだ。
今までソロでやってきて、知名度もそこそこあるくらいには強かったコウメだが、シシツキ達と行動を共にするうちに、自分の弱さが浮き彫りになって来たのだ。
それは例えば、単純な地力であったり、連携であったり。
シシツキ達は、どこかしら化け物じみた力を持っている。
しかし、コウメは平凡な人間の域を超えない位の力しかない。
自身があのチームで、足を引っ張っているのは、自覚済みなのだ。
「だから、この私直々に、鍛えて上げる。そうねぇ、私に一太刀当てられたら、一区切りつけるわ。もし当てられなかったら…」
コウメは一瞬自分の体が重くなったと感じた。
それ位、志翠の威圧は凄まじい。
「この場から出られないわよ?」
対面するだけで感じる強者の風格に、コウメはゾクリと体を震わせた。
しかし、彼女の頬に浮かぶのは紛れもない笑みだ。
「望むところだよ」
こうして再び戦いという名の修行の火蓋が切って落とされた。




