それぞれの…
『よく来ましたね、女神の血を引く一族の者よ』
そう言われたアイカは、どういう事かと、首を傾げ考えること約10秒、心当たりを見つけた。
「まさか、王家の伝説のことを言ってらっしゃるのですか?」
王家の伝説、それは二千年前の人類の始より少し現在に近い時。
つまり、王家誕生についての逸話だ。
内容は大まかに言うと、無法地帯となっていた人々を統一させた男が現れ、国を作ったという、内容自体はアッサリとしたものだ。
しかし、問題はこの男の出自だ。
彼は、人々に向かって、こう言ったという。
“私は、父はトウエの豪傑で、母はこの世界を創造し今も皆を見守っておられる女神ドゥローデェスである“
彼は、こう自己紹介をすると、母は嘆いていると、続けた。
“自ら作り上げた、可愛い子らが、争い血を流していると。そこで私が、人々を治めるよう、頼まれたのだ“
こうして生まれた王家は、現在に至るまで、絶えることなく続いているという。
「しかし、これはあくまで、伝説であって…」
『いえ、これは事実なのです。あなたには、女神の血が流れているのですよ』
女性は、そう言うと、慈しむようにアイカの頬に手を伸ばした。
『私は、女神の代理であるとはいえ、血縁関係を持つもの。こうして、あなたと話が出来る事が嬉しいです』
ニッコリと微笑む女性に、アイカは動じるでもなく、ご要件はと尋ねた。
彼女にとって、女神の血を引いているだとかいないだとかは、正直なところ、どうでもいい。
アイカにとって大切なのは、シシツキだけだ。
そこにたとえ神であろうと介入させるつもりは無い。
『あなたに、忠告しに来たのです。アイカ、あの男とこれ以上、関わってはいけません』
「…あの男、ですか?それは一体誰のことですか」
『シシツキという男です』
まるで穢らわしいものであるように、顔を歪めた女性に、アイカは露骨に表情を変えた。
嫌悪感を露わにしたアイカに、女性は痛ましそうな目を向けた。
『可哀想に…。それほど、あの男に洗脳されているのですね』
「洗脳?まさか」
アイカは呆れた目で、女を見た。
シシツキが、洗脳できるなら、彼はあんな理不尽な人生を送っていない。
『しかしっ…!!』
「洗脳は、お前達の十八番だろ?勝手なこと言うな」
静かな怒りの声が、女に突き刺さった。
ザッと茂みを掻き分けて現れたのは、長身の男だった。
しっとりと濡れたような黒髪に、鷲のような鋭い金色の目は、女を憎々しげに睨んでいる。
『お前は!!』
「…心配して損だったな。これなら、俺が介入する必要なかった」
いきり立つ女を綺麗に無視して、突然現れた男は、アイカを見て面倒くさそうにため息を吐いた。
「あなたは、誰ですか?」
「俺は、このダンジョンの主の、部下みたいなもんだ」
「どうしてここに?」
「主に頼まれてだ。それ以上の意味は無い」
女を無視して進められる会話は、妙に息が合ったものであった。
性根が似たもの同士なのかもしれない。
それを証拠に、時々女に向ける視線が、どちらも蔑みの目だった。煽るのに慣れている。正直なところ、そこらのチンピラの手口と同じだ。
『あなた、後悔しますよ?』
怒りが込められた言葉は、アイカの心に何も響かない。
「私は、最愛の人を信じてますから。それに、あなたみたいな、自分勝手な人の言葉を聞く必要は、ありませんよね?」
「そもそも、気が付くのが遅いんだよ。今更、コイツらの繋がりを壊すことなんて出来ないぞ」
2人に畳み掛けられ、女のプライドは、ズタズタにされた。
怒り狂った女は、感情をそのまま魔力に変換した。
『そう。あなただけは、助けてあげようと思ったのに。じゃあ、死んで?』
怒りが一周して冷静になったのか、狂ったのか。
静かな落ち着いた声音のまま、水の鉾がアイカと男を取り囲んだ。
「愚かだな」
柏手を叩く音が、微かに響いてきた。
その瞬間、女が生成した水の鉾は、形を失い、地面にべシャリと叩きつけられた。
「ここは、主の領域。お前が、好きに出来ると思うなよ」
唖然としていた女に一足で近づいた男は、風を纏う大鎌を振り下ろした。
◇◆◇◆
同じ道を歩いていたはずなのに、何故だろう。
シキョウは、見失ってしまったシシツキ達を探して、街を歩いていた。
シキョウが歩いている道は、道幅はとても広く、馬車が余裕を持ってすれ違うことはできそうだ。
しかし、道にはシキョウしかいない。
「先生ぇ!コウメ姐さん!」
時折、声を上げてみるが、帰ってくるのは、静寂のみ。
しょんぼりと肩を落としたシキョウは、ふと隣の建物を見た。
木造の簡素な建物は、全て一階建て。
大した高さはないが、闇雲にさまよっているよりは、マシだろう。そう結論を出したシキョウは、予備動作なくトンと軽い音をたてて、低い建物の屋根に飛び乗った。
「わわっ!危ないやんかもぉ…」
屋根は、木ではなく、細い植物の茎が敷き詰められて作られているようだ。
それが、雨が降った後のように、湿っていたため、滑りやすくなっていた。シキョウが体勢を崩した原因である。
「やっぱり、見晴らしがええとは言えんけど、上から見た方が分かるな〜」
ぐるりと辺りを見回すと、キョウアンや王都とは異なり、城壁がないことが分かる。
更に、王都で見たような、そびえ立つような高い建物は見当たらない。
唯一、大きかったのは、シキョウが真っ直ぐに歩いてきた道の終着点にある、門だけだろう。そこの門の辺りだけ、城壁の様な壁が設けられている。
それより目を引くのが、整然と区画された町並みだろう。
等間隔で、曲がり道が現れると思っていたが、この町並みで分かった。
「マメな領主さんが、やはるんやろか…」
思わず、感嘆の声を上げてしまう。
流石に、区画ごとに、建っている建物は異なるようだ。
シキョウが歩いていた道が、一番幅が広く、その先には、一際広い土地に建てられた建物が見える。
「あっこに行ったら、なんかわかるかな」
シキョウはそこを目的地と定め、植物で出来た屋根を、トンと蹴った。
◇◆◇◆
「…つまり、纏めるとこのダンジョンは、あなたの主の試験ということですか」
「そうだ」
女だったものを視界の端に捕らえながらも、気にした素振りを見せず、淡々と聞きたいことを聞いたアイカは、ホッと息をついた。
「それなら、私の試験はどうなるのですか?」
「障害物がデカすぎたから、お前はもう免除だ。試験には、合格したし」
歩きながら話すと、立ち上がった男の後ろをアイカはゆっくりと着いて行く。
「それで、皆バラバラになったんですね。個人の能力を正確に把握できるように」
話が早くて助かると、男は首を立てにふった。
「それで、あの失礼な女は?」
「全員が、主のところに着いたら説明する」
面倒臭いと顔に書いてある男に、アイカは呆れた視線を向け、諦めた。
「怠惰ね、あなた」
「否定はしない」
最近、更新が、遅れ続けていて申し訳ありません。
言い訳をさせていただきますと、終盤に近づいているので、かなり考え込んでしまうのと、リアルのタイムスケジュール的に、純粋に書く時間が足らないということです。
更新を止めるつもりはありませんので、完結に向けて頑張ります。
皆様には、ご迷惑をおかけいたしておりますが、どうか、これからもよろしくお願いします。
追記︰誤字脱字がありましたら、そっと報告をお願いします…。




