影
ヒタヒタと、裸足で歩く。
足音は、自分1人のものだけ。
手元にある提灯は、暗闇を3寸ばかり先を、ぼんやりと照らしているだけだ。
服装はいつの間にか、深い青色を基色としたヒラヒラとした服に変わっている。
袖が、大きいせいで、身動きが取りづらい。
共に入った皆はどうしているのだろうか。
シシツキはそう思考を巡らしたが、今は自分の事だと思い直す。
まずは、自分がここから出ないといけない。
少し早足になりつつも、警戒を怠らないシシツキの姿勢に、何処からか、満足そうに笑みが落とされた。
アイカは、何処かの森にいた。
静寂に包まれた森は、この世とは思えない、何処か別世界に迷い込んだような神秘性を秘めていた。
アイカは明るい森を歩いていながら、心底焦っていた。
ここにはシシツキがいない。気配もない。
では、一体シシツキはどこへ行ったのか。
「見つけなくちゃ…」
焦る気持ちは募るばかり。
ウロウロと森の中をさ迷うアイカの耳に、声が聞こえた。
落ち着いた女性の声だ。
それが、アイカの右手の側から聞こえているようだ。
しばらく躊躇した後、道無き木々の間に、体を滑り込ませた。
そこにあったのは、澄んだ水を湛える湖と、そこに佇む髪の長い女性出会った。
彼女は、アイカが来た気配を察知し、振り返ると艶やかに微笑んだ。
『よく来ましたね、女神の血を引く一族の者よ』
不思議とよく響くその声は、アイカを歓迎し、迎え入れた。
「やられた」
器に水を溜めたいわゆる水鏡で、その姿を見ていた黒い影は、手に持っていた扇をパチンと勢いよく閉じた。
部屋は暗く、光は灯台の光のみ。
「まさか、あいつが出しゃばってくるとはのう…。金士、頼めるか?」
「…御意」
ふと男の隣に影を作った青年は、言葉少ない頼みを、正確に受け取り現れた時と同様、忽然と姿を消した。
「さてさて、ん、他のみなは、順調じゃな。良きかな良きかな」
どっこいしょと、老人臭い声を出しながら、立ち上がった男性は、青色に白を重ねた狩衣を着ている様だ。
狭い部屋は男性が振り向けばそこには、三日月が浮かんだ格子戸がある。
それを目を細めてみる男性の口は、険しく引き締められていた。
「反撃の時を告げる鐘は鳴らされた。ここから先は、しくじれぬ。なんせ機会は1度きりであるからの。何としてでもやりもげなければならぬ。この世界のために…」
強い輝きを放つ瞳は、ついっとシシツキを写している水鏡に向けられた。
その瞳が、ゆるりと微笑んだ。
「全ては、お主次第じゃよ、シシツキ」
呟かれた言葉は、誰にも届かず、ひっそりと闇に溶けて消えていった。




