結成
リュウジが言ったことを、正確に理解できたのは、陰陽師であるシキただ一人だった。
「お前たちが、陰陽師と退魔師だって?」
信じられないと呟くシキに、噛みついたのは、先ほどから気が立っているオウキであった。
「自分だけだと思ってたのか?はっ、さすが、神薙家の跡取りには、弱小の陰陽師家など視界にないんだな」
「オウキ、言い方」
「リュウジ、お前はどっちの味方なんだよ」
ピリピリとした、雰囲気にさすがに不味いと思ったのか、コウメが制止の声を挙げる。
「ちょっと、喧嘩ならよそでやってくんないかい?あんた達の身の内の事情に付き合っている暇は、こっちには無いんだよ」
コウメの言葉に、リュウジは肩をすくめた。
それは、俺に言うなよと言わんばかりの態度だ。
現に、この空気の元凶であるオウキは、まったく聞いていない。完全に、へそを曲げてしまっている。
シシツキはそれを見て、仕方ないと、ため息を吐いた。
元来、こういう間の仲介役は、面倒臭がってやらない性質なのだが。
微笑ましそうにシシツキを見守るギンチヨは、きっと、シシツキのその変化を見抜いているのだろう。
「オウキ、詳しく聞かせて」
「いいぞ」
気持ちいい、快諾の返事だった。
見事な手のひら返しである。先ほどまでの、不機嫌さは、いったい何処へ行ったのだろうか。
コウメは、がっくりと肩を落とした。
「あたし、何も言わなくて、よかったんじゃないかい?」
「いえ、先生を動かすためには、コウメさんが必要でしたよ」
アイカの、とてもいい笑顔に、コウメは引きつった笑みしか返せなかった。
着々と苦労人の道を歩んでいるコウメをしり目に、シシツキは先を促した。
「あのダンジョンは、結界が貼られているだろ?あの結界は、ただの空間を区切るためのものじゃない。簡単に言うと、扉になってるんだよ。開けるのに鍵がいる」
聡い者たちは、それだけで、オウキが何を言いたのか分かった。
シキョウ以外の者の視線が、シシツキへ向かった。
「なるほど。その鍵が、シシツキというわけだな」
「そうだ」
だから、シシツキを呼び戻す必要があったのだ。
本来ならば、シシツキは今は、停止処分を受けており、学園に関することはサクヤが一身に受け持っており、ダンジョンについても、サクヤが処理すべき案件だったのだ。
しかし、シシツキは呼び戻された。
その理由が、これだったのだ。
「でも、鍵がなくても、無理矢理こじ開けれべよかったのでは?正直、ダンジョンの鍵になぜ先生が選ばれたかわからない以上、先生を危険なダンジョンに入らせたくないのですが」
アイカの辛辣な物言いに、若干ひるんだオウキであったが、それはできないとはっきり口にした。
「張られている結界に、こじ開けるための隙間がない。恐ろしく、高度な結界だ」
多分、陰陽師として対立したら、間違いなく負ける。
オウキは苦々しく断言した。オウキが、陰陽師としてどれくらいの実力を持っているのか、シシツキ達には判断できない。
「シキはどうなの?」
「僕は、結界を少ししか見てないから、はっきりとは言えないけど、恐ろしく緻密な結界でした。僕にあれはこじ開けられないし、戦ったら厳しいと思います」
今まで、一人で戦ってきたシキでさえも、お手上げであるという。
状況は極めて緊迫していた。
「じゃあ、俺がダンジョンに入って、様子を見てくるしかないか…」
シシツキが渋々吐き出した結論に、全員が否を唱えた。
「何があるかわからない以上、危険です。先生は、学園長になられるのですよ。立場を考えてください」
「だからって、ダンジョンの中にいる者が、しびれを切らして、表に出てきたらどうするの。俺だけの被害じゃ済まない可能性だってあるんだよ。それに何かわからないままのほうが、余程危険じゃないの」
頑として、主張を曲げないシシツキに、ギンチヨは目を見張った。
研究一筋で、他人にあまり興味を持たなかったシシツキから、そんな言葉が出るとは。
成長したのか、あるいは何かが、シシツキをダンジョンへと駆り立てるのか。
その真相はわからない。しかし、このままでもらちが明かないだろう。
口だけは達者な弟の事だ。結局は、こちらを丸め込んでしまうに違いない。
この場にいる全員が、シシツキには強く出られないのもあるが。
さて、どこに落としどころを見つけるのか。
ギンチヨは口元にてを当てた。
これが、彼が考えるときの癖なのだ。
シシツキが安全かつ、ダンジョンに結界を張った張本人を探し当てられ、そこまで辿りつくためには…。
「じゃあ、先生、うちらも連れてって」
シキョウの言葉が、波紋をもたらした。
冒険者には、パーティという概念がある。
それは、ともに旅をする仲間というくくりを表すためもものである。
パーティには、固定化されたものと、非固定化されたパーティの2種類がある。
固定化されているパーティは、任務を共に受けるほか、寝食を共にする場合も多い。
対して、非固定化のパーティは、例えばソロの冒険者が、己だけでは厳しい時に、ほかのソロの冒険者と組むことを示す。そのほか、緊急性の高い任務では、パーティ同士を組み合わせ、大人数での戦闘も行うことがある。
さて、王都のギルドには、今日人知れずギルドの応接室で、新たに非固定のパーティが誕生したのだった。




