二人の秘密
「応接間に入る前に、コウメとシキョウは、ここに残れ」
「いやや」
突然の突き放すようなギンチヨの言葉に、シキョウが強い口調で拒否した。
シキョウの瞳には、ぞっとするような、殺気じみた光が、宿っている。
普段のどことなく間延びした口調で話す、のんびりとした少女から発せられたとは思えない強さに、シシツキは若干気圧された。
旅の中でも、シキョウのこんな姿は、見たことがない。
「そうだねぇ。理由を教えてもらえるかい、ギルドマスター」
コウメは、ギンチヨがなぜそんな言葉を吐いたのか、心当たりがあるようで、憤慨するでもなく、ギンチヨに問うた。
察しの良いコウメにというより、納得のできていないシキョウに言い聞かせるつもりで、ギンチヨはその問いに答えた。
「理由は、お前たちが、学園の関係者ではないからだ」
さらにギンチヨは、重要なことだから、関係者以外は立ち入り禁止だ。と続ける。
知り合って間もない上に、関係者ではないコウメやシキョウに警戒するのは、当たり前の事だ。
シシツキやアイカ、シキといった、旅を共にした面々が何も言わないのは、コウメとシキョウを試しているのか。
確かにコウメは流れで、ここまでシシツキたちについてきたという側面がある。
でも、それでも…。
「シシツキ、確かあんた、冒険者の教師しないか言ってたね」
「ん、言ったよ」
帰る道中で、剣術の実技授業に、冒険者の教師がいたらいいなとは言った記憶がある。
その流れで、コウメにどうだと聞いた覚えもある。
しかし、その時はコウメは返事しなかった。
「その話、受けるよ」
剣術の先生なら、学園にできたダンジョンに関わっても不思議ではない。
特に、コウメは一人でもダンジョンに潜っていた強者である。
やってもらえるなら、うれしい限りではあるが。
「ほんとにいいの?」
「ああ、もちろん。説明は、以前聞いているから、もういいよ」
コウメの決断に、シシツキは一つ頷いた。
そして、アイカをちらりと見る。
「アイカくんはどう思う?」
「先生が思っていらっしゃる通りになさってください」
私は、それに付いていきますので。と、アイカが微笑みながら言う。
シシツキは、フムと顎に手を当てて考えた。
全員からの視線を一身に受けたシシツキは、こんなの俺の柄じゃないのになと、つぶやきながらも結論を出したようだ。
「じゃあ、今回のダンジョンの件が、試験ということで。詳しい条件は後からつけよう」
「ありがとう。…ということだよ、ギルドマスター。これでいいよね?」
「はぁ、仕方ない…」
ギンチヨは、かなり無理矢理だったが、コウメがそこまで言うならと、好きにさせることにした。
で、もう一人の問題の人物である、シキョウは、自分はシシツキの生徒であることを主張、最後には駄々をこねることで、ギンチヨが折れた。
そんなこんなで、無事シシツキたち全員が、応接間に移動すると、ギンチヨは書類を机の上に広げた。
それを囲むように、ギンチヨを含めた8人が、机を取り囲む。
そこに書かれているのは、ギルドが管理する、全てのダンジョンの情報がまとめられたものだった。
「学園に出没したダンジョンだが、これまでに、前例がないものだ。正直、なぜダンジョンが入る者を選ぶのかわからないが、そもそもダンジョン自体が、何のためにあるのかわかってなかったな」
わからないことだらけだ。と、ため息をつくギンチヨの目の下にはうっすらと隈ができている。
彼なりに、ダンジョンについて調べていたのだろう。
シシツキは、パラパラとダンジョンについての報告書をめくりながら、これまでに読んだ、ダンジョンについての論文を思い出した。
「たしか、魔物を作る装置や神様の試練、ああ、魔王が作った別荘説もあったね…」
「なんだい、それ」
「“ダンジョンに関する論文集”でまとめられてた、ダンジョンの起源の説。まあ、どれも机上の空論に過ぎないんだけどね」
かくいうシシツキも、魔王の起源がわかるかもと、調べた時期があったのだが、わからなさ過ぎて断念したという経緯を持っている。
シシツキはダンジョンについては、知識だけなら、この場の誰よりも多い。
「さらに問題なのが、ダンジョンが、町の中…しかも、所有者が決まっている土地にできてしまったことが、問題だ」
今までのダンジョンは、少なくとも、町の郊外でしか、発見されていない。
だからこそ、ギルドがその土地を買い上げて、ダンジョンの管理をしていたのだが、今回ダンジョンが発見されたのが、学園であるから、そうはいかない。
「ダンジョンの内部を調べてみないことにはわからないが、もしかしたら、学園が移動する可能性もある」
ダンジョンを冒険者ギルドが管理しているのには、様々な理由がある。
しかし、今回の場合、ダンジョン内のモンスターが弱ければ、生徒たちの実技練習の場として使っても構わないのだ。
「でも、中に誰も入れないんじゃ、調べようがないんじゃないの?」
最大の問題が立ちはだかり、場を沈黙で包んだ。
しかし、その沈黙は長くはない。
「だから、先生を呼び戻したんだろうが」
オウキの謎めいた言葉に、シシツキはうん?と、首を傾げた。
「先生が、あのダンジョンに何か関係があるのですか?」
アイカの疑問に、大きくうなずいて同意したのは、オウキとリュウジだ。
「ああ、大ありだ。ってか、お前は気が付いてないのかよ、神薙紫樹」
唐突に、矛先が自分に向けられたシキは、きょとんと眼を丸くした。
その反応に、気が付いてなかったのかよ…と、呆れを隠そうともしないオウキに、シキは剣吞な視線を向ける。
「それどういう意味?」
「そのまんまだよ。情けない、そんなんだから…」
「はい、すとーっぷ。オウキ、けんか腰。お前、ヒートアップすると面側だし」
火花が飛びあう、オウキとシキの間に割り込んだのは、リュウジだ。
彼は、両者を遠ざけると、未だ威嚇しあっている二人をみて、ため息をついた。
「あー説明いるよな、これ」
「「当たり前だ」」
ギンチヨとシシツキの二人に言われ、リュウジはうーんと話の筋道を考えながら、口を開いた。
ちなみに、同じく説明する立場であるオウキは、シキとのにらみ合いを続行中なので、戦力外だ。
「俺と桜輝は、異世界から召喚された、いわゆる勇者なんだけど…」
「まて、初耳だ」
「今言った。ってか、髪の色と目の色が伝承と…そうだ、違うんだった」
リュウジはくしゃりと、自らの金髪をくしゃりと、かき回した。
そして、その緑色の瞳をゆっくりと閉じて開いた。
「元の世界で学生の傍ら、俺は退魔師、桜輝は陰陽師をやってた」




