ギルドマスター
王都のギルドは、どこのギルドよりも、賑わっている。
キョウアンも受付の窓口が、5つあり、日に多い時で、二千人の利用があるが、王都のギルドは、それと比較できないほどの人の多さであった。
10個の受付の窓口には、ひっきりなしに人が訪れ、併設してある酒場には、常連と思われる客から、王都に来たばかりであろう新顔の冒険者で、ごった返している。
なぜ、王都のギルドが、これだけ賑わっているのか。
それは、ここのギルドが、すべてのギルドの本部であるからだ。
つまり、王都のギルドマスターは、全てのギルドの長なのだ。
しかし、そんな人物がなぜ、シシツキを呼んでいるのか。
コウメは、首を傾げつつ、痛む胃をそっと押さえた。
たかがBランクの冒険者が、本来会う人物ではないのだから、緊張は致し方ない。
などと思っていたのは、ギルドに入る数分前のこと。
答えは、ギルドに入った瞬間に、分かってしまった。
つまり、こういう事である。
「おかえり、シシツキ」
「ちょっ…!ギン兄、苦しいって!!」
ギルドマスターらしい、強者の風格を湛えた落ち着いた雰囲気の青年が、ギルドに入ったシシツキを、熱烈なハグで迎え入れたのだ。
アイカとシキは、多分、行きでも同じ光景を見たのだろう。
呆れた視線をギルドマスターに向けるだけだ。
ポカンと見守っていた、コウメだが、酒場からの騒がしい笑い声に反応して、そちらを見た。
「またやってるぜ、ギルマス!!」
「お、じゃあ、センセーが帰ってきたんだな」
「おーい、先生!おかえりー」
親しみの篭った野次に、これが通常の風景なのだとコウメは悟った。
酒場からの野次が聞こえたのか、シシツキは顔を真っ赤にして、ギルドマスターを振り払った。
「だから、家に帰る前に、ここに寄るのは嫌だったんだ!」
シシツキの必死の叫びに、酒場から、一層大きな笑い声が上がる。
遠巻きに、ニコニコと見守っているのが、王都を拠点とする冒険者、逆に軽蔑したような、、奇妙なものを見るような、嘲るような視線を向けているのが、最近来たばかりの新顔なのだろう。
写真がないこの世界で、ギルドマスターの人相など知っているものは、限られてくる。
彼らはまさか、この騒ぎの中心というか発端が、ギルドマスターだとは、思ってもいないだろう。
コウメとて、関係者でなければ、そのような視線を向けたい。
しかし、関係者である上に、シシツキから助けを求める視線を向けられては、たまらない。
コウメは隣で、にこにことシシツキとギルドマスターを見守っている、アイカ達をみた。
「あんた達は、シシツキを助けてあげなくて、いいのかい?」
「何言っているのですか、コウメさん!!」
グッとこぶしを握って、コウメに詰め寄ったアイカは、その勢いのまま、シシツキを指さした。
「あんなに可愛い先生が、見られるなんて、めったにないことですよ!今のうちに、目に焼き付けておかないと…」
「……」
「こればかりは、アイカさんに同意」
「…」
シシツキバカしかいないのか。
コウメは絞り出すような溜息を吐き出すと、シシツキの要望と、自身の気持ちの安寧のために、ギルドマスターに近づいたのであった。
しばらくして、何とか場を収集したコウメは、多大な疲労感と、王都を拠点とする冒険者たちから賞賛の声を受けていた。
「すまない。久しぶりに弟に会えたから、はしゃいでしまった。改めて、王都のギルドマスターであるギンチヨだ。シシツキとは“兄弟の盃”を交わしている兄弟だ」
シシツキがギン兄と呼んでいたから、予想はついていたものの、やはり兄弟であったか。
しかも、“兄弟の盃”とは。
コウメでさえ、今まで一度も出会ったことはないというのに。
「なあ、“兄弟の盃”ってなんやの?」
「それは――」
シシツキが簡単に“盃の兄弟”について、シキョウに説明している間に、オウキらはシシツキの義兄弟について、話の花を咲かせていた。
「ギルマスが、先生の義兄弟ってことは、先生と義兄弟だったアカツキ先生も…」
「その通りだ。俺はアカツキとも“兄弟の盃”を交わしている。そもそも俺らは、6人で交わしたからな」
アカツキとは、もしやこの国最強の騎士であるサイキョウ・アカツキのことであろうか。
コウメはシシツキについて、認識を改めないといけないと感じた。
この国の副騎士団長様とギルドマスターと兄弟とは。本人も、学園長という超重要人物。この兄弟は、いったいどうなっているのか。
「…そういえば、ギルマスと先生は、どうやって兄弟になったんだ?」
「確かに…」
みんなからの好奇の視線を受けたギンチヨは、クスリと笑った。
はたから見れば、異色な組み合わせであることは確かだ。気になるもの仕方がない。
しかし、それは、兄弟の大切な約束に関わることだ。
「それについては、秘密だ」
いつか、話せる日まで。
きっとその日は近いだろう。
なんとなく確信めいたものを胸に抱きながら、ギンチヨは、彼らに応接室に移動しようと、声をかけた。
「本題を話すには、ここでは耳がありすぎる」
これから話すことは、学園に関することなのだから。
そう表情を引き締めた長兄につられ、シシツキも顔を引き締めた。
「さて、行くぞ」
そう自分に背を向ける長兄は、非常に凛々しく、頼もしい。
シシツキからしたら、せめてギルドではこれだったらなと、残念な気持ちがぬぐえない。
「…残念だなぁ」
「口に出てるぞ、シシツキ」
「…」
血はつながってなくとも、二人とも似たもの義兄弟なのであった。




