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先生は勇者と共に…  作者: 朱音
第3章
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ギルドマスター

 

 王都のギルドは、どこのギルドよりも、賑わっている。

 キョウアンも受付の窓口が、5つあり、日に多い時で、二千人の利用があるが、王都のギルドは、それと比較できないほどの人の多さであった。

 10個の受付の窓口には、ひっきりなしに人が訪れ、併設してある酒場には、常連と思われる客から、王都に来たばかりであろう新顔の冒険者で、ごった返している。


 なぜ、王都のギルドが、これだけ賑わっているのか。

 それは、ここのギルドが、すべてのギルドの本部であるからだ。

 つまり、王都のギルドマスターは、全てのギルドの長なのだ。


 しかし、そんな人物がなぜ、シシツキを呼んでいるのか。

 コウメは、首を傾げつつ、痛む胃をそっと押さえた。

 たかがBランクの冒険者が、本来会う人物ではないのだから、緊張は致し方ない。


 などと思っていたのは、ギルドに入る数分前のこと。

 答えは、ギルドに入った瞬間に、分かってしまった。


 つまり、こういう事である。


「おかえり、シシツキ」

「ちょっ…!ギン兄、苦しいって!!」


 ギルドマスターらしい、強者の風格を湛えた落ち着いた雰囲気の青年が、ギルドに入ったシシツキを、熱烈なハグで迎え入れたのだ。


 アイカとシキは、多分、行きでも同じ光景を見たのだろう。

 呆れた視線をギルドマスターに向けるだけだ。


 ポカンと見守っていた、コウメだが、酒場からの騒がしい笑い声に反応して、そちらを見た。


「またやってるぜ、ギルマス!!」

「お、じゃあ、センセーが帰ってきたんだな」

「おーい、先生!おかえりー」


 親しみの篭った野次に、これが通常の風景なのだとコウメは悟った。

 酒場からの野次が聞こえたのか、シシツキは顔を真っ赤にして、ギルドマスターを振り払った。


「だから、家に帰る前に、ここに寄るのは嫌だったんだ!」


 シシツキの必死の叫びに、酒場から、一層大きな笑い声が上がる。

 遠巻きに、ニコニコと見守っているのが、王都を拠点とする冒険者、逆に軽蔑したような、、奇妙なものを見るような、嘲るような視線を向けているのが、最近来たばかりの新顔なのだろう。


 写真がないこの世界で、ギルドマスターの人相など知っているものは、限られてくる。

 彼らはまさか、この騒ぎの中心というか発端が、ギルドマスターだとは、思ってもいないだろう。

 コウメとて、関係者でなければ、そのような視線を向けたい。

 しかし、関係者である上に、シシツキから助けを求める視線を向けられては、たまらない。


 コウメは隣で、にこにことシシツキとギルドマスターを見守っている、アイカ達をみた。


「あんた達は、シシツキを助けてあげなくて、いいのかい?」

「何言っているのですか、コウメさん!!」


 グッとこぶしを握って、コウメに詰め寄ったアイカは、その勢いのまま、シシツキを指さした。


「あんなに可愛い先生が、見られるなんて、めったにないことですよ!今のうちに、目に焼き付けておかないと…」

「……」

「こればかりは、アイカさんに同意」

「…」


 シシツキバカしかいないのか。

 コウメは絞り出すような溜息を吐き出すと、シシツキの要望と、自身の気持ちの安寧のために、ギルドマスターに近づいたのであった。


 しばらくして、何とか場を収集したコウメは、多大な疲労感と、王都を拠点とする冒険者たちから賞賛の声を受けていた。



「すまない。久しぶりに弟に会えたから、はしゃいでしまった。改めて、王都のギルドマスターであるギンチヨだ。シシツキとは“兄弟の盃”を交わしている兄弟だ」


 シシツキがギン兄と呼んでいたから、予想はついていたものの、やはり兄弟であったか。

 しかも、“兄弟の盃”とは。

 コウメでさえ、今まで一度も出会ったことはないというのに。


「なあ、“兄弟の盃”ってなんやの?」

「それは――」


 シシツキが簡単に“盃の兄弟”について、シキョウに説明している間に、オウキらはシシツキの義兄弟について、話の花を咲かせていた。


「ギルマスが、先生の義兄弟ってことは、先生と義兄弟だったアカツキ先生も…」

「その通りだ。俺はアカツキとも“兄弟の盃”を交わしている。そもそも俺らは、6人で交わしたからな」


 アカツキとは、もしやこの国最強の騎士であるサイキョウ・アカツキのことであろうか。

 コウメはシシツキについて、認識を改めないといけないと感じた。

 この国の副騎士団長様とギルドマスターと兄弟とは。本人も、学園長という超重要人物。この兄弟は、いったいどうなっているのか。


「…そういえば、ギルマスと先生は、どうやって兄弟になったんだ?」

「確かに…」


 みんなからの好奇の視線を受けたギンチヨは、クスリと笑った。

 はたから見れば、異色な組み合わせであることは確かだ。気になるもの仕方がない。

 しかし、それは、兄弟の大切な約束に関わることだ。


「それについては、秘密だ」


 いつか、話せる日まで。

 きっとその日は近いだろう。

 なんとなく確信めいたものを胸に抱きながら、ギンチヨは、彼らに応接室に移動しようと、声をかけた。


「本題を話すには、ここでは耳がありすぎる」


 これから話すことは、学園に関することなのだから。

 そう表情を引き締めた長兄につられ、シシツキも顔を引き締めた。


「さて、行くぞ」


 そう自分に背を向ける長兄は、非常に凛々しく、頼もしい。

 シシツキからしたら、せめてギルドではこれだったらなと、残念な気持ちがぬぐえない。


「…残念だなぁ」

「口に出てるぞ、シシツキ」

「…」


 血はつながってなくとも、二人とも似たもの義兄弟なのであった。





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