正体
学園にポッカリと空いた穴は、直径約6メートル程であろうか。
よくよく中を覗き込むと、階段があるのが分かる。
「これ、初級のダンジョンにありがちな入口だよね?」
「そうであると思われます」
衝撃から抜けきったシシツキがそう問うと、サクヤは首を縦に降った。
地下に続いている階段にしろ、その周りの土が剥き出しの壁にしろ、初級のダンジョンそのものである。
しかし、その穴の大きさを含め、少しだけ見えている、やけに整えられたような土の壁は、シシツキにこのダンジョンが、ただのダンジョンではないことを訴えていた。
「王宮に連絡は?」
「既に完了しています。実は、騎士団が来て、見てもらったのですが、中に入れないのです」
「中に入れない?」
そんなダンジョン、聞いたことない。
基本的に、ダンジョンは来るもの拒ますの性質で、それこそ、生まれたばかりの赤子から、足腰の弱い老人まで、入ろうと思えばだれでも入ることができる。
そのため、冒険者ギルドが入場に制限を設けなければならないのだが。
そんな前代未聞なダンジョンに、シシツキが困惑気に、首をかしげると、それまでじっと穴を見つめていたシキが、決心したように、口を開いた。
「ここは入れないのは、多分、結界が貼ってあるからです」
「そうみたいですね」
疑問の声を上げたのは、誰もいなかった。
そもそも、シシツキは霊力をコントロールするために、シキから結界について教えてもらっていた。
アイカはそれにくっついていたから、言わずもがなだろう。
コウメとシキョウは旅の途中で、その力の恩恵を受けている。
だが、サクヤはなぜ、結界という聞きなれない言葉に、何の疑問も抱かなかったのか。
この世界の魔法には、結界という概念がない。
なぜなら、結界はいわゆる霊力の壁。しかし、魔力は、体から放出するときに、何らかの属性が付与されてしまい、とてもではないが、結界とはなりえない。
想像をしてほしい。
火の結界という名の、火の壁が周りにそびえたっているのを。
それは、ただの自殺行為であろう。
だから、この世界に結界は存在しない。
だから、サクヤが、結界という単語を知っているはずがないのだが。
「ああ、教え――」
「お、帰ってんじゃん」
「お帰りー、先生」
サクヤの後ろから現れたのは、片手剣がすっかり身に馴染んだオウキとリュウジの2人である。
彼らは、シシツキの傍らにいる、見知らぬ人物に警戒心を顕にしたが、突っかかることも無く、シシツキの元に一直線に向かった。
「オウキ、リュウジ。元気だったの?」
「当たり前だろ」
相変わらずの言葉が乱暴であるが、その生き生きとした姿を見る限り、元気にやっていたのは、一目瞭然だ。
「先生、誰なん?」
「俺の教え子。今は冒険者をしてる」
「そうなんや!強そうな兄ちゃんたちやね」
シキョウは、屈託無い笑みを浮かべて、オウキとリュウジに近づいた。
「兄ちゃんら、うちね、シキョウって言うんや。先生に勉強教えてもろてるんやで〜」
「ついでに、あたしは、冒険者のコウメだよ」
野犬のように、人になつかない部分がある、オウキとリュウジだが、意外にも素直に自己紹介をしていた。
「所で、2人は一体何のようなのですか?」
アイカの問に、オウキとリュウジが、思い出したというように、手を叩いた。
「先生が、帰ってきたら、ギルドまで連れてきてって言われてたんだ…」
「そんな事しなくても、ちゃんと行くのに」
「現に来てないだろ」
ギルドから、人が派遣されるとは、シシツキは一体何者か。
冒険者であり、学園長であり…。
コウメの考察を他所に、シキョウが無邪気に聞いた。
「なあなあ、ギルドまで行ったら、何があるん?」
子供特有の無邪気さで、シキョウは疑問に思ったことをそのまま、口に載せた。
もやもやとそのことを考えていたコウメも、体ごと耳をシシツキに寄せる。
「俺らを待っているのは、ギルドマスターだ」




