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先生は勇者と共に…  作者: 朱音
第3章
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語られる事実

 

 沈黙が、場を支配している。

 元々シシツキは、騒がしく話すタイプではないので、沈黙には慣れているはずが、この時ばかりは重苦しく感じてしまう。

 それもそのはず。

 廊下の淵に腰掛けるシシツキの隣には、亡くなった養父が腰掛けているのだから。


「んぁー、どこから話したもんか…」


 どこから取り出したのか分からないが、御猪口で酒を飲むその姿は、シシツキの見慣れた父の姿そのものだ。

 シシツキとは正反対で、沈黙に慣れていないナナホシが、なんとか場を繋ごうと奇声を発しているが、それも効果がない。


「あー、そういやぁ、お前ら”兄弟の盃”を交わしたんだって?」

「そう、だよ」

「ふはっ、あんだけ喧嘩してたギンとアカツキがねぇ」

「今でも時々喧嘩してるよ」


 懐かしい気持ちを嚥下するように、ナナホシは酒を一口飲み込んだ。

 いつまでものんびりとしていられない。


 (ことわり)を超えるものは、それ相応の代価が必要になる。

 もうこの世の者ではないナナホシが、この場に長居する事は出来ない。


「さて、場が解れたとこで…」

「解れて無いけど」

「おい、父さんだって泣くぞ?」


 真顔でぶった切られたナナホシは、よよっとわざとらしく目に手を当てた。

 それを白けた目で見るシシツキは、かつての日常を思い出した。

 家族6人と度々家に転がり込んでいたアカツキの7人で、騒がしくも平和な日常を甘受していたあの頃。


 しかしあの日以降、シシツキ達兄弟の生活は一変した。

 シシツキの姉は、教会に強制的に連れていかれた。いや、強制的などとは生ぬるい。

 脅されたのだ。彼女が一番大切にしていた家族を人質にして。

 その過程で父ナナホシと末っ子のヒナタが、命を落とした。

 シシツキは生死の境をさまよい、背中には、大きな傷痕が残っている。


「俺は、あの日の恨み言が言いたくて、お前の前に現れたんじゃない。俺は、お前に伝えなくちゃいけねぇ事があるから、こうして時間を貰ったんだ。よく聞け」


 そう言うナナホシの表情は、いつになく真剣なものだった。

 シシツキは、無意識に背筋を伸ばした。


「俺は、あの日なにが起こるか知っていた」


 それは、この衝撃の一言から始まった。





 ナナホシはいや、七星は日本のどこにでもいる普通の男子高校生だった。

 そんな七星のハマっているものは、ゲームだった。

 特にお気に入りは“異世界から君を待ち焦がれる”という、異世界召喚系のRPGだった。

 このゲームは、異世界に召喚された主人公(プレーヤー)が、魔王に攫われた聖女を救うというありふれたものだった。


 しかし、このゲームが人気を博したのは、ストーリーの王道性ではない。

 細部まで徹底的に作り込まれたその世界観が、評価された。


 例えば、どのNPCにも名前があり、職業もバラバラで、冒険には関係ないNPCも多くいた。

 しかし、話しかけるを選択すると、ランダムで仕事の内容から愚痴、更には家族構成までがしっかりと作り込まれていた。

 だから、一通り冒険を終わらすとプレーヤー達はこぞってNPCに話しかけた。

 それに、上手く応答すると、サブクエストが出てくるのだ。


 こういったやり込み要素が、七星のお気に入りで、学校を終えるとスグに自宅に走り、いそいそとゲーム機器を起動させていた。


 転機が訪れたのは、“異世界から君を待ち焦がれる”をやり始めて半年経った頃だ。

 この日も、毎日のようにゲーム機器を起動させ、黙々とNPCに話しかけていた。

 すると、目を見張るほど美しく描かれた黒髪の美少女を見つけ、七星は迷いなく話しかけた。


『あら、ごきげんよう』


 彼女のセリフはここから始まった。


『あなた、勇者様ね。ご苦労さま。ところであなたは、神様って信じるかしら』


 選択肢が浮かんできた。

 七星は質問から、少女が教会の関係者であると睨み、はいを選択した。


『嬉しいわ』


 やっぱりこっちであっていたか。

 七星は、そっと胸を撫で下ろした。

 こんな可愛いNPCなんて、滅多にお目にかかれない。


『では、もうひとつ質問よろしいですか?』


 NPCが2回も質問するなんて珍しいと思いながら、七星は次へ台詞を進ませた。


『あなたは、英雄になりたいですか?』


 この質問に、七星は戸惑った。

 このゲームの主人公は、勇者であって英雄ではない。

 今までこのゲームで、英雄なんて単語は見聞きしなかった。

 それなのになぜこのNPCは、勇者ではなく英雄と言っているのだろうか。


 制作時のバグがそのまま残っているのかと、結論づけて、七星は改めて画面をみた。

 美しい少女は、画面の向こう側で、返事を今か今かと待っていた。

 七星は、迷わず“はい”と選択した。

 こんなカワイイ子のお願いを断れるはずがないのだ。


『ありがとう。きっとあなたは、いい英雄になれるわ。お願い、私たちの世界を救ってっ!!』


 悲痛に染まったボイスが、七星の部屋に響く。

 ようやく、サブクエストの始まりかと、七星はコントローラを握り直す。


 七星はこの時の違和感に気がつけなかった。

 画面から彼女以外の人物が消えていることを、彼女の名前が表示されていないことを。

 そして何より、画面が七星を飲み込もうとするように、部屋いっぱいいっぱいまで拡大している事を。


 こうして気がつけば、七星は見知らぬ草原に立っていたのだ。


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