救出へ
遅くなってしまって申し訳ないです。
お詫びと言ってはなんですが、本日は二話更新となります。
シシツキは、ヒンヤリとした空気が頬を撫でるのを感じて、目を覚ました。
6畳くらいの大きさの檻の中に、シシツキを含め、7人が詰め込まれていた。
「ふぁっ…。よく寝た…」
のんびりと伸びをしようとしたシシツキは、持ち上げた腕が重いことから、手錠がかけられている事を認識した。
重いと、顔を顰めるシシツキを、檻の中の人々は目を丸くして見ている。
なんて呑気なんだ。
それが、全員に共通した意見だろうか。
奴隷商人に捕まったものは、例外なく絶望の表情を浮かべるものだ。
もしかして、この青年は、阿呆なのか。
その失礼な視線を正確に感じ取ったシシツキは、不満そうに胡座をかいて、頬杖をついた。
その音に合わせて、ジャラリと鎖がなるが、シシツキはそれを気にするそぶりを見せない。
「何か言いたいことがあるなら聞くよ?」
のんびりとした様子のシシツキに、毒気というか、呆気に取られた檻の中の人々は、一瞬、絶望を忘れ去って素で質問をした。
「「「状況は理解出来てる(ます)?」」」
「…揃いも揃って、失礼だね。状況くらい把握してるよ。此処は、奴隷商人の拠点でしょ?」
見事なユニゾンを見せつけられたシシツキは、ゲンナリとした。
そんなに馬鹿に見えるのか。
シシツキとて、何もなくこんなに落ち着いている訳では無い。
シシツキの根本にはこんな考えがある。
きっと、シキが目印をくっつけてるだろう…。
過去に何度かあった、シシツキの迷子やシシツキの迷子等々、主にシシツキが迷子になった事なのだが、その時迅速にシシツキを見つけ出したのが、シキだ。
シキ曰く、どこに居ても分かるように目印を付けています。とのこと。
しかも、霊力で作られたそれは、魔力を無効化する結界の中にいても、効果を受け付けないため、現在も健在であると思われる。
つまるところ、たどり着く結論は一つ。
「多分、怒り狂いながらこっちに向かっているだろうな…」
上手くコウメがストッパーをしてくれるといいんだけど。
シシツキの切実な願いは、まさに、コウメに届かんとしていた。
シシツキとシキョウが、番犬と相対していた頃、シキ達はダンジョンから帰宅している途中であった。
シキ、アイカ、コウメの3人は、何時ものように、のんびりとダンジョンから、帰っていたのだが、突然シキがピタリと足を止めた。
「…?どうした?」
「しっ、静かにして!」
集中するように目を閉じたシキの異変に疑問を思ったコウメは、アイカに助けを求めたが、アイカも真剣な顔をして、こちらを見ない。
それどころか、シキとコウメが理解できない会話を繰り広げ始めた。
「どうでした?」
「やっぱり、予想通り。場所は追跡済みだから、何時でも追えるよ」
シシツキこの2人は、異常に仲が悪いだけに、このように大人しく話している内容が、シシツキ絡みの事だとわかる。
コウメは、しかしと首をかしげた。
「何があったんだい?あたしにも説明しておくれ」
シキとアイカは、ちょっと間を空けて、アイコンタクトをした後、ひとつ頷いた。
「緊急事態だから、仕方ない。今から話すことは、本当の事だから。そこだけ理解して聞いて」
「わ、わかった」
むしろ有無を言わさない様なシキの迫力に、タジタジとしつつ、コウメは一つ頷いた。
「先生が、奴隷商人に捕まった。ついでにシキョウも」
間髪入れずに告げられた言葉に、コウメは唖然とした。
理解する云々以前に、分からないことが多すぎる。
「ちょっと待っとくれ。一体それはどうやってわかったんだい?」
「先生がどこにいるか分かるように、目印を付けておいたんだ。魔力みたいなもので作ったものだから、術者の僕には、先生の位置がリアルタイムで、分かる様になってる」
それこそ、嘘のような事だが、シキの瞳が、嘘を言っていないと雄弁に語っている。
コウメは、緊急事態であると雄弁に語っている雰囲気を読んで、ここで細かいことを追求するのを諦めた。
「詳しい事は、後から説明して貰うからな。それで、奴隷商人の場所は?どうする気だい?」
「それはもちろん、助けるに決まってる」
「もちろん。コウメさんは、先に帰宅して貰って構わないですよ」
アイカがサラリと告げたことに、コウメはムッと眉を顰めた。
「バカいうんじゃないよ。親しい者が危険にさらされているのなら、あたしだって助けたいに決まってるだろ」
コウメの怒気混じりの強い口調に、アイカはひとつ頷いた。
それを、了承を捉えたコウメは、案内すると駆け出したシキの後を追いかけた。
「場所は?そもそも計画は?」
「先に、宿を引き払って、その後突撃します」
「街を出るのかい?」
「ええ、もちろん」
アイカの、先生は騒がしいのがお嫌いですものと、どこまでもシシツキ中心の考えに、コウメはガックリと肩を落とした。
そして、それに同意をするシキもシキなのだが。
「いや、そもそも、あたし達だけじゃ、他の人達も助けられない。ほかの冒険者にも声をかけるべき…」
「問題ないです。小さな拠点だからか、檻の数は2箇所しかないし、それぞれ場所も近い。一気に突撃するから大丈夫」
「しかし、シシツキが敗れる程の強者がいるのだろ?それこそ…」
「それこそ、大丈夫です」
どこまでも平行線を辿る会話に、コウメは説得を諦めた。
2人に、何を言ったところで、止まりはしないだろう。
コウメはやれやれと苦笑した。
シシツキの、願いが潰れてしまった瞬間である。
「それより、シキョウは、元々奴隷だったんだろ?一度逃げ出したのなら、危ないんじゃないか?」
「…ああ、あの子なら大丈夫でしょ」
シキとアイカは、微妙な顔をして、大丈夫という太鼓判を押した。
若干どころか、かなり触れて欲しくなさそうである。
実力者の2人がそういうのなら大丈夫なのだろうと、自身を納得させたコウメは、後から諸々をシシツキに問い詰めることを決意し、更にスピードを上げて、街へと入って行ったのだった。




